はじめに
満員電車の中で突然めまいや冷や汗に襲われ、意識が遠のきそうになった経験はありませんか?「もしかして貧血?」「疲れているだけ?」と思っていたその症状、実は「迷走神経反射」という体の自然な反応かもしれません。
電車内での迷走神経反射は決して珍しいことではありません。特に通勤ラッシュ時の満員電車や、長時間の立ちっぱなしが続く車内では、多くの方がこの症状を経験しています。しかし、適切な知識と対処法を知っておくことで、電車内での突然の体調不良を予防し、万が一症状が現れても安全に対応することができます。
本記事では、迷走神経反射のメカニズムから、電車内で起こりやすい理由、予防法、対処法まで、詳しく解説していきます。

迷走神経反射とは
基本的な定義
迷走神経反射(血管迷走神経性失神)とは、特定の刺激によって迷走神経が過剰に反応し、心拍数の低下と血管の拡張が同時に起こることで血圧が急激に下がり、脳への血流が一時的に不足する状態です。医学的には「神経調節性失神」の一種として分類されており、失神の中で最も頻度が高いタイプとされています。
日本循環器学会の「失神の診断・治療ガイドライン」では、反射性失神は長時間の立位や座位、強い痛み、疲れ、ストレスなどをきっかけに発症することが示されています。
体内で起こっているメカニズム
私たちの体は、交感神経と副交感神経からなる自律神経によってコントロールされています。活動しているときには交感神経が働き、リラックスしているときには副交感神経が働きます。この2つの神経がバランスよく切り替わることで、体の状態を調整しているのです。
迷走神経反射が起こるとき、体内では以下のような連鎖反応が発生しています。
- トリガーとなる刺激:長時間の立位、暑さ、ストレスなどの刺激を受ける
- 迷走神経の過剰反応:刺激に対して迷走神経(副交感神経の一部)が過度に活性化される
- 心拍数の低下:心臓の拍動が急激に遅くなる(徐脈)
- 血管の拡張:末梢血管が広がり、血液が体の下部に溜まる
- 血圧の急降下:心臓から送り出される血液量が減少し、血圧が下がる
- 脳血流の減少:脳に十分な血液が届かなくなる
- 意識レベルの低下:めまい、ふらつき、そして失神へ
実は、進化の観点から見ると、迷走神経反射は生存のための防御機構だったと考えられています。例えば、大きな出血が起こったとき、血圧を下げることで出血量を減らすことができます。また、極度のストレス状況下で一時的に「動かなくなる」ことで危険を回避するという説もあります。
現代社会では、この防御反応が「過剰」に働いてしまうことで、日常生活に支障をきたすケースが増えているのです。
若い世代に多い理由
迷走神経反射は、特に10代から30代の若年層に多く見られます。日本循環器学会のデータによると、初めて失神を経験する年齢のピークは15歳前後とされています。若い世代に多い理由としては、以下のような点が考えられます。
- 自律神経系がまだ発達途中で不安定
- ストレスや緊張に対する反応が強い
- 血管の調節機能が未熟
ただし、若い時期に迷走神経反射を経験した人の多くは、年齢を重ねるにつれて症状が軽減または消失する傾向があります。これは、自律神経系が成熟し、体の調節機能が安定してくるためと考えられています。
性別による違い
統計的に見ると、迷走神経反射は女性にやや多い傾向があります。男女比は約1対2で女性が多いとする研究もあります。これには以下のような要因が関係していると考えられています。
- ホルモンバランスの変動(月経周期による影響)
- 体格や筋肉量の違い(下半身の筋肉量が少ないと血液が下半身に溜まりやすい)
- 社会的ストレスへの反応の違い
電車内で迷走神経反射が起こりやすい理由
長時間の立位姿勢
電車内で最も多い迷走神経反射の引き金は、「長時間の立ちっぱなし」です。立った状態が続くと、重力の影響で血液が下半身に溜まりやすくなります。通常、ふくらはぎの筋肉が収縮することで血液を心臓に送り返す「筋ポンプ作用」が働きますが、電車の中でじっと立っている状態では、この作用が十分に機能しません。
特に通勤ラッシュ時の満員電車では、体を動かすことも難しく、同じ姿勢を長時間強いられることになります。この状態が続くと、徐々に脳への血流が減少し、迷走神経反射が起こりやすくなります。
密閉された空間と暑さ
電車内の環境要因も大きく影響します。
暑さの影響:特に夏場の満員電車では、車内温度が上昇します。暑さによって皮膚の血管が拡張すると、体表面に血液が集まり、脳への血流がさらに減少します。また、発汗による脱水状態も血圧低下を助長します。
換気不足:満員電車では空気が滞りやすく、酸素濃度が低下することがあります。酸素不足も脳の機能に影響を与え、めまいや気分不良を引き起こしやすくなります。
密閉空間のストレス:人混みや閉鎖的な空間に対する心理的ストレスも、迷走神経反射のトリガーとなります。特に閉所恐怖症の傾向がある方は注意が必要です。
朝の通勤時に多い理由
朝の通勤電車で迷走神経反射が起こりやすいのには、いくつかの理由があります。
朝食抜き:朝食を抜くと血糖値が低下し、脳のエネルギー不足につながります。空腹状態では迷走神経反射が起こりやすくなります。
睡眠不足:十分な睡眠が取れていないと、自律神経のバランスが乱れやすくなります。特に前日の飲酒や夜更かしは要注意です。
起立性の変化:起床直後は、寝ている状態から急に立ち上がることで血圧が不安定になりやすい時間帯です。この状態のまま満員電車に乗ると、リスクがさらに高まります。
水分不足:起床時は軽度の脱水状態にあることが多く、朝の水分補給が不十分だと、血液量が減少して血圧が下がりやすくなります。
その他の要因
揺れによる影響:電車の揺れは、平衡感覚に影響を与えます。特に揺れが大きい路線や、立ちながらスマートフォンを見ているときは、視覚情報と平衡感覚のずれが生じ、めまいを感じやすくなります。
服装の影響:首元が詰まった服やネクタイを強く締めすぎると、頸動脈が圧迫され、血圧調節に影響を与えることがあります。また、締め付けの強い下着や衣服も血液循環を妨げます。
月経周期:女性の場合、月経前や月経中はホルモンバランスの変化により、迷走神経反射が起こりやすくなることがあります。
迷走神経反射の症状
前駆症状(前兆)
迷走神経反射による失神の多くは、いきなり意識を失うのではなく、その前に警告サインがあります。これらの前駆症状を知っておくことで、倒れる前に座ったり横になったりする時間的余裕が生まれます。
典型的な前駆症状には以下のようなものがあります。
視覚の変化
- 視界が白くぼやける
- 暗くなる(トンネルビジョン)
- チカチカする
- 視野が狭くなる
体感の変化
- めまい・ふらつき
- 立っていられない感じ
- グルグル回る感じ
皮膚症状
- 冷や汗が出る
- 顔面蒼白
- 血の気が引く感じ
消化器症状
- 吐き気
- 腹部の違和感
- 腹痛
その他の症状
- 耳鳴り
- 頭が重い
- あくびが出る
- 急に眠くなる
- 頭痛
これらの症状は、失神の数秒から数分前に現れることが多いです。人によって現れる症状は異なりますが、自分のパターンを知っておくことが予防につながります。
失神時の状態
意識を失っている時間は、通常数秒から1分程度です。長くても2〜3分以内には自然に回復することがほとんどです。失神中、体は以下のような状態になります。
- 全身の力が抜ける
- 姿勢を保持できなくなる
- 倒れ込む
- 顔色が悪くなる
- 冷や汗をかく
- 脈が弱くなる
重要なのは、横になった状態になると、重力の影響がなくなり、脳への血流が回復するため、通常は1分以内に意識が戻るということです。そのため、迷走神経反射そのものは脳の後遺症を残すことはありません。
回復後の症状
意識が戻った後も、しばらく以下のような症状が残ることがあります。
- 全身の倦怠感
- 頭がぼーっとする
- 脱力感
- 軽いめまい
完全に回復するまでには、数分から数十分かかることもあります。無理に立ち上がろうとすると、再び症状が現れることがあるため、十分に休息を取ることが重要です。
電車内での予防法
乗車前の準備
朝食をしっかり摂る
朝食は迷走神経反射の予防に非常に重要です。炭水化物、タンパク質、野菜をバランスよく含む食事を心がけましょう。特に、ゆっくり消化される複合炭水化物(全粒粉のパン、オートミールなど)は血糖値を安定させるのに効果的です。
時間がないときでも、バナナやおにぎりなど、手軽に食べられるものを用意しておくとよいでしょう。
十分な水分補給
起床後、電車に乗る前に、コップ1〜2杯(200〜400ml)の水分を摂取しましょう。脱水は迷走神経反射の大きな要因となります。
ただし、カフェインを含む飲料(コーヒー、緑茶など)は利尿作用があるため、飲み過ぎには注意が必要です。水や麦茶、スポーツドリンクなどがおすすめです。
十分な睡眠
前日はしっかり睡眠を取るようにしましょう。睡眠不足は自律神経のバランスを乱し、迷走神経反射のリスクを高めます。理想的には7〜8時間の睡眠が推奨されます。
適切な服装
- ネクタイやスカーフは緩めに
- 締め付けの強い下着や衣服を避ける
- 夏場は通気性の良い服装を選ぶ
- 冬場は脱ぎ着しやすい服装を心がける
電車内での対策
立ち位置の工夫
- できるだけ座席に座る(優先席の利用も検討)
- 立つ場合は手すりやつり革につかまる
- ドア付近など、比較的空いているスペースを選ぶ
- 壁やドアに寄りかかれる位置を確保
足の筋肉を動かす
立っている間、定期的に以下の動作を行いましょう。
- つま先立ちを5〜10秒キープして下ろす(数回繰り返す)
- かかとを上げ下げする
- 足首を回す
- 足を交差させて、ふくらはぎや太もも、お尻の筋肉に力を入れる
- その場で足踏みをする(周囲の状況が許せば)
これらの動作により、ふくらはぎの筋ポンプ作用が促進され、下半身に溜まった血液を心臓に戻すことができます。
深呼吸とリラックス
意識的に深呼吸を行うことで、リラックス効果が得られ、過度の緊張を和らげることができます。
- ゆっくりと鼻から息を吸う(4秒)
- 少し息を止める(2秒)
- ゆっくりと口から息を吐く(6秒)
- これを数回繰り返す
水分補給
可能であれば、ペットボトルや水筒を持ち歩き、こまめに水分を摂取しましょう。一口ずつでも効果があります。
視線の工夫
スマートフォンを見続けると、目と平衡感覚の不一致が生じ、めまいを感じやすくなります。できるだけ遠くを見るか、目を閉じて休めることも効果的です。
生活習慣の改善
規則正しい生活
自律神経のバランスを整えるためには、規則正しい生活リズムが重要です。
- 毎日同じ時間に起床・就寝する
- 3食規則正しく食事を摂る
- 適度な運動習慣を持つ
適度な運動
定期的な運動は血液循環を促進し、迷走神経反射の予防に役立ちます。特に以下の運動がおすすめです。
- ウォーキング(1日30分程度)
- 軽いジョギング
- 水泳
- ヨガやストレッチ
激しい運動は逆効果になることもあるため、無理のない範囲で継続することが大切です。
弾性ストッキングの活用
下肢静脈瘤の治療にも使われる弾性ストッキングは、血液の循環を改善し、迷走神経反射による低血圧の症状を緩和するための有効な手段です。
症状の程度に応じて、以下のような圧迫力のものを選びましょう。
- 軽度の症状:15-20mmHg
- 中等度の症状:20-30mmHg
- 重度の症状:30-40mmHg
ストレス管理
精神的ストレスは迷走神経反射の一因となります。リラクゼーション法や趣味の時間を取り入れるなどして、ストレスを軽減する工夫をしましょう。
- 瞑想やマインドフルネス
- 趣味の時間を持つ
- 十分な休息を取る
- 必要に応じてカウンセリングを受ける
電車内で症状が出たときの対処法
前駆症状を感じたら
前兆を感じた時点で、すぐに以下の行動を取りましょう。
最優先:座るか横になる
可能な限り、速やかに座るか横になることが最も重要です。
- 空いている座席があれば座る
- 座席がない場合は、周囲の人に「体調が悪いので席を譲ってください」と伝える
- それも難しい場合は、その場にしゃがみ込む
- 横になれる場合は、足を心臓より高い位置に上げる
恥ずかしさを感じるかもしれませんが、倒れて頭を打つ危険性を考えると、早めに座ることが重要です。
Isometric Counter-Pressure手技
座ることもしゃがむこともできない状況で、症状が軽い場合は、以下の手技を試してみましょう。これらの動作により、一時的に血圧が上昇し、失神を予防できることがあります。
- 足交差法
- 足を交差させる
- ふくらはぎ、太もも、お尻の筋肉に力を入れる
- 約30秒間キープ
- ハンドグリップ法
- 両手を組む
- 左右に引っ張り合うように力を入れる
- 約30秒間キープ
- 腕の交差法
- 両腕を胸の前で交差させる
- 手で反対側の腕をつかんで引っ張る
- 約30秒間キープ
これらの手技は、日本循環器学会のガイドラインでも推奨されている方法です。
深呼吸をする
ゆっくりと深い呼吸を繰り返すことで、過度の緊張を和らげ、脳への酸素供給を改善できます。
失神してしまった場合
周囲の人へ
電車内で誰かが倒れているのを見かけたら、以下のように対応してください。
- 安全確保
- 周囲の人に声をかけ、スペースを確保する
- 危険物から遠ざける
- 体位の調整
- できれば横にする
- 足を心臓より高い位置に上げる(座席に足を乗せるなど)
- 衣服を緩める(ネクタイ、ベルトなど)
- 観察
- 呼吸をしているか確認
- 脈を確認
- 通常1分以内に意識が回復する
- 緊急時の対応
- 呼吸がない、脈がない場合は直ちに救急車を呼ぶ
- 駅員に連絡する
- AEDの準備を依頼する
- 意識回復後
- 急に立たせない
- 水分を提供する
- 本人が十分に回復したと感じるまで休ませる
回復後の注意点
意識が回復した後も、以下の点に注意してください。
無理に立たない
意識が戻ってもすぐに立ち上がると、再び症状が現れることがあります。少なくとも5〜10分は座ったまま、または横になった状態で休みましょう。
水分補給
可能であれば、水やスポーツドリンクを少しずつ飲みましょう。
ゆっくり立ち上がる
立ち上がるときは、以下の手順で行います。
- まず座った状態で1〜2分様子を見る
- めまいがなければ、ゆっくりと立ち上がる
- 立った状態で数秒待ち、問題なければ歩き始める
可能なら途中下車
体調が完全に回復していない場合は、無理をせず途中下車して休憩することを検討しましょう。
迷走神経反射になりやすい人の特徴
体質的要因
体格
- 痩せ型の人
- 筋肉量が少ない人(特に下半身)
- 血圧が低めの人
年齢
- 10代〜30代の若年層
- 自律神経が未熟な思春期
性別
- 女性(男性の約2倍)
- 月経の影響を受けやすい
性格的特徴
- 几帳面で真面目な性格
- 緊張しやすい
- ストレスを感じやすい
- 不安傾向が強い
- 完璧主義的
これらの性格特徴を持つ人は、心理的ストレスに対して迷走神経が過剰に反応しやすい傾向があります。
生活習慣
- 睡眠不足が続いている
- 朝食を抜きがち
- 水分摂取が不足している
- 運動不足
- 不規則な生活リズム
- 飲酒習慣がある
環境要因
- 長時間の立ち仕事
- 満員電車での通勤
- 暑い環境で過ごすことが多い
- ストレスの多い環境
過去の経験
- 以前に失神の経験がある
- 採血や注射で気分が悪くなったことがある
- 学校の朝礼で倒れたことがある
他の病気との見分け方
迷走神経反射の特徴
迷走神経反射には、以下のような特徴があります。
- 明確なトリガーがある(採血、長時間立位、痛みなど)
- 前駆症状がある(めまい、冷や汗、視界の変化など)
- 失神の持続時間が短い(通常1分以内)
- 横になると速やかに回復する
- 失神後の記憶がある
- 若年層に多い
- 繰り返す場合も予後は良好
注意が必要な失神
以下のような場合は、心原性失神など重大な病気の可能性があるため、すぐに医療機関を受診する必要があります。
心臓が原因の失神の特徴
- 前触れなく突然失神する(前駆症状がほとんどない)
- 意識消失が数秒程度と非常に短い
- 運動中や労作時に起こる
- 横になっていても起こる
- 胸痛や動悸を伴う
- 失神の前後の記憶があいまい
- 家族に若年死や突然死の既往がある
脳神経系の問題が疑われる場合
- 失神後も意識障害が続く
- 手足の麻痺やしびれがある
- 言葉がうまく話せない
- 激しい頭痛を伴う
- けいれんを伴う
その他注意が必要な症状
- 短時間に繰り返し失神する
- 高齢者の初めての失神
- 失神時に外傷を負った
- 失神の持続時間が5分以上
- 意識が戻らない
医療機関の受診について
受診を検討すべき状況
以下のような場合は、医療機関の受診を検討しましょう。
初めての失神
- 初めて失神を経験した場合は、一度医療機関で診察を受けることをおすすめします
- 他の病気が隠れていないか確認するため
繰り返す失神
- 失神を繰り返す場合
- 月に1回以上の頻度で症状が出る場合
- 生活に支障をきたしている場合
失神時に怪我をした
- 転倒して頭を打った
- 顔や体に怪我を負った
- 骨折の可能性がある
その他の症状がある
- 胸痛、動悸、息切れなど
- 持続する頭痛やめまい
- 手足のしびれや麻痺
何科を受診すればよいか
迷走神経反射が疑われる場合、以下の診療科を受診してください。
第一選択
- 循環器内科
- 脳神経内科
- 総合内科
診察時に伝えるべきこと
医療機関を受診する際は、以下の情報を詳しく伝えましょう。
失神時の状況
- いつ、どこで、何をしていたときに起こったか
- 何かきっかけがあったか(長時間立っていた、暑かった、採血の後など)
- 前兆はあったか、どんな症状だったか
失神の様子
- どのくらいの時間意識を失っていたか
- 目撃者がいる場合は、その人の証言
- けいれんやチアノーゼ(顔色が青紫色になる)はあったか
- 失禁や舌を噛んだことはあったか
回復後の状態
- すぐに意識が戻ったか
- 意識が戻った後の様子
- 後遺症や違和感はないか
既往歴と生活習慣
- 過去の失神経験
- 持病や服用中の薬
- 家族の病歴
- 生活習慣(睡眠、食事、運動など)
医療機関で行われる検査
初診時には、問診と以下のような検査が行われることがあります。
基本的な検査
- 血圧測定(臥位、座位、立位)
- 心電図検査
- 血液検査
必要に応じて行われる検査
- ホルター心電図(24時間心電図)
- 心臓超音波検査
- 頭部CT/MRI検査
- ティルト試験(起立試験)
ティルト試験とは
ティルト試験は、迷走神経反射を診断するための重要な検査です。この検査では、患者さんをベッドに寝かせた状態から徐々に立位にさせ、心拍数や血圧の変化を観察します。これにより、迷走神経反射の有無や重症度を評価することができます。
治療について
迷走神経反射に対する特効薬はありません。生活習慣の改善と予防策が最も効果的な「治療」となります。
基本的な対応
- 誘因を避ける(長時間の立位、脱水、睡眠不足など)
- 生活習慣の改善
- 起立調節訓練
起立調節訓練
両足を壁の前に15〜20cmほど出して、頭、背中、お尻で後ろの壁に寄りかかり、その姿勢を30分保つ訓練です。これを毎日1〜2回行うことで、長時間の立位による失神が起こりにくくなります。
薬物療法
非常に頻繁に失神を繰り返し、生活に支障が出る場合は、以下のような薬が処方されることもあります。
- β遮断薬
- 抗不安薬
- 昇圧薬(低血圧が顕著な場合)
ただし、これらは対症療法であり、根本的な解決にはなりません。

よくある質問
A. 迷走神経反射そのものは病気ではなく、体の自然な反応です。多くの場合、年齢とともに症状は軽減または消失します。適切な生活習慣の改善と予防策を続けることで、症状をコントロールできるようになります。
Q2. 電車に乗ることが怖くなってしまいました
A. 一度失神を経験すると、電車に乗ることに不安を感じるのは自然なことです。しかし、適切な予防策を講じることで、多くの場合症状を防ぐことができます。まずは以下のことから始めてみましょう。
- 朝食と水分をしっかり摂る
- できるだけ座席に座る
- 混雑時間を避ける
- 最初は短い区間から慣れていく
不安が強い場合は、認知行動療法などの心理的アプローチも効果的です。
Q3. 子どもでも起こりますか?
A. はい、子どもでも迷走神経反射は起こります。特に学校の朝礼など、長時間立ちっぱなしの場面では注意が必要です。子どもの場合、症状を上手く説明できないこともあるため、「気分が悪い」「お腹が痛い」などと訴えた後に倒れることもあります。
予防のために、十分な睡眠と朝食、水分摂取を心がけましょう。
Q4. 運動は制限されますか?
A. 基本的に運動制限は不要です。むしろ適度な運動は予防に効果的です。ただし、水泳やロッククライミングなど、失神すると危険なスポーツの場合は、単独での実施を避け、必ず誰かと一緒に行うようにしましょう。
Q5. 妊娠中でも起こりますか?
A. 妊娠中は血液循環量の変化やホルモンバランスの変動により、迷走神経反射が起こりやすくなることがあります。特に妊娠初期や中期は注意が必要です。無理をせず、こまめに休憩を取り、水分補給を心がけましょう。症状が頻繁に起こる場合は、産婦人科医に相談してください。
Q6. 自動車の運転はできますか?
A. 頻繁に失神を繰り返している場合、自動車の運転は危険です。日本では、「再発性の失神」患者の自動車運転について法的な規制があります。主治医と相談し、症状が十分にコントロールされるまでは運転を控えることをおすすめします。
Q7. 遺伝しますか?
A. 迷走神経反射そのものが直接遺伝するわけではありませんが、自律神経の反応性には個人差があり、体質的な要因は関係している可能性があります。家族に失神しやすい人がいる場合、同様の体質を持っている可能性はあります。
まとめ
電車内での迷走神経反射は、決して珍しいことではありません。多くの人が人生で一度は経験する可能性がある、体の自然な反応です。しかし、適切な知識と対策を持つことで、予防することができ、万が一症状が現れても安全に対処することができます。
予防のポイント
- 朝食と水分補給を忘れずに
- 十分な睡眠を取る
- 電車内では足の筋肉を動かす
- できるだけ座席に座る
- 弾性ストッキングの活用も検討
症状が出たら
- すぐに座るか横になる
- Isometric Counter-Pressure手技を試す
- 無理に立たず、十分に休む
受診が必要な場合
- 初めての失神
- 繰り返す失神
- 前触れのない突然の失神
- その他心配な症状がある場合
迷走神経反射は、生活習慣の改善と適切な予防策によって、多くの場合コントロールできます。症状に悩んでいる方は、一人で抱え込まず、医療機関に相談することをおすすめします。
参考文献
- 日本循環器学会 – 失神の診断・治療ガイドライン(2012年改訂版)
- 一般財団法人 君津健康センター – 血管迷走神経反射を知っていますか
- メディカルノート – 迷走神経反射について
- 日本循環器学会 – ガイドラインシリーズ
- 一般社団法人 起立性調節障害改善協会 – 血管迷走神経性失神とは
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務