「指や手首を動かすと痛い」「朝起きた時に指がこわばる」「指を伸ばすときにカクンと引っかかる」―このような症状にお悩みではありませんか?これらは腱鞘炎の典型的なサインかもしれません。
腱鞘炎は、スマートフォンやパソコンを日常的に使用する現代社会において、年齢や性別を問わず誰にでも起こりうる身近な疾患です。特に女性に多く見られ、適切な治療を行わずに放置すると、日常生活に大きな支障をきたすことがあります。
本記事では、腱鞘炎の基礎知識から効果的な治し方、予防法まで、専門的な情報をわかりやすくお伝えします。

腱鞘炎とは?基礎知識を理解しよう
腱鞘炎の定義
腱鞘炎とは、骨と筋肉をつなぐ「腱(けん)」と、その腱を包み込んでスムーズな動きをサポートする「腱鞘(けんしょう)」との間に炎症が起こる疾患です。
腱は筋肉の力を骨に伝える重要な組織で、全身のさまざまな部位に存在していますが、特に動きの多い手首や指の腱鞘に炎症が起こりやすい傾向があります。
腱鞘炎が起こるメカニズム
健康な状態では、腱は腱鞘の中をスムーズに滑るように動きます。しかし、手指の使いすぎなどで腱と腱鞘が過度に摩擦すると、以下のような変化が起こります。
- 炎症の発生:腱と腱鞘の間で摩擦が繰り返されることで炎症が発生
- 腱鞘の肥厚:炎症により腱鞘が厚く腫れ、腱の通り道が狭くなる
- 腱の肥大:刺激を受けた腱も肥大し、さらに通過しにくくなる
- 動作制限:腱の動きが悪くなり、痛みや引っかかりが生じる
このように、炎症が炎症を呼ぶ悪循環に陥ることで、症状が徐々に悪化していきます。
腱鞘炎の代表的な2つのタイプ
腱鞘炎は発症する部位によって、主に以下の2つのタイプに分類されます。
1. ばね指(弾発指)
特徴と症状
ばね指は、指の付け根(手のひら側)に発症する腱鞘炎で、**弾発指(だんぱつし)**とも呼ばれます。指を曲げた後に伸ばそうとすると、まるでばねのようにカクンと勢いよく戻る「弾発現象」が特徴的な症状です。
好発部位
- 親指:最も多く発症
- 中指・薬指:次いで多い
- 人差し指・小指:比較的まれ
症状の進行
初期段階
- 指の付け根に軽い痛みや違和感
- 朝起きた時の指のこわばり
- 日中使っているうちに症状が軽減
中期段階
- 指を曲げ伸ばしする際の引っかかり感
- 弾発現象(カクンと指が伸びる)
- 痛みの増強
重症段階
- 指が曲がったまま伸びない
- 自力では指を伸ばせない(ロッキング)
- 関節の拘縮(関節が固まって動かなくなる)
2. ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)
特徴と症状
ドケルバン病は、手首の親指側に発症する腱鞘炎で、狭窄性腱鞘炎とも呼ばれます。親指を動かす2本の腱(短母指伸筋腱と長母指外転筋腱)が手首の第1背側区画という腱鞘を通る際に炎症が起こります。
主な症状
- 手首の親指側の痛みと腫れ
- 親指を動かす時の痛み
- 物をつかむ・握る動作での痛み
- 手首を小指側に曲げると痛みが増強
フィンケルシュタインテスト
ドケルバン病の診断に用いられる特徴的な検査方法です。親指を内側に入れて握りこぶしを作り、手首を小指側に曲げると、親指の付け根に強い痛みが誘発されます。
腱鞘炎の主な症状
腱鞘炎の症状は、タイプや進行度によって異なりますが、共通して見られる主な症状は以下の通りです。
痛みの特徴
- 動作時痛:手や指を動かす時に痛む
- 圧痛:患部を押すと痛む
- 夜間痛:夜間や安静時にも痛みを感じることがある
- 朝のこわばり:起床時に症状が強く現れやすい
その他の症状
- 腫れ・熱感:患部の腫れや熱っぽさ
- 動作制限:指や手首の動きが悪くなる
- 引っかかり感:ばね指特有の症状
- 握力低下:物を握る力が弱くなる
特に朝方に症状が悪化しやすいのは、就寝中の体のむくみや冷え、長時間同じ姿勢で過ごすことが影響していると考えられています。
腱鞘炎の原因とリスク因子
主な原因
1. 手指の使いすぎ(オーバーユース)
腱鞘炎の最も一般的な原因は、手や指の過度な使用です。以下のような動作や作業が腱鞘炎のリスクを高めます。
日常生活
- パソコンのキーボードやマウスの長時間操作
- スマートフォンの頻繁な使用(スマホ腱鞘炎)
- 料理や掃除などの家事作業
- 赤ちゃんの抱っこやおんぶ
職業関連
- デスクワーク(キーボード入力)
- 美容師(シザーの使用)
- 調理師(包丁の使用)
- 介護職(利用者の移乗介助)
趣味・スポーツ
- ピアノやギターなどの楽器演奏
- テニス、ゴルフ、野球などのグリップを握るスポーツ
- 編み物や刺繍などの手芸
2. ホルモンバランスの変化
女性に腱鞘炎が多く見られる理由の一つが、女性ホルモン(エストロゲン)の変動です。
妊娠・出産期
- ホルモンバランスの急激な変化
- 赤ちゃんの抱っこによる負担
- 授乳時の姿勢による手首への負荷
更年期
- エストロゲンの減少
- 腱や腱鞘の柔軟性低下
- 組織が傷みやすくなる
3. 加齢による組織の変化
年齢を重ねるにつれて、腱や腱鞘の柔軟性が低下し、血流も悪くなるため、炎症が起こりやすく治りにくくなります。
高リスク因子
以下のような条件に当てはまる方は、腱鞘炎を発症しやすい傾向があります。
性別・年齢
- 女性:男性の約2倍の発症リスク
- 20〜30代女性:出産期・育児期
- 40〜50代女性:更年期
基礎疾患
- 糖尿病:末梢血流の低下、組織の治癒力低下
- 関節リウマチ:関節や腱の炎症が起こりやすい
- 透析患者:腱や腱鞘への物質沈着
- 痛風:尿酸結晶による炎症
これらの基礎疾患がある方は、腱鞘炎を発症すると治りにくく、複数の指に症状が出る「多発性」となることも多いため、特に注意が必要です。
体型・姿勢
- 肩が内巻き(巻き肩)
- 体幹の筋力不足
- 不良姿勢での長時間作業
肩周りや体幹部分が硬かったり、うまく使えていないと、手指の力だけで動作を行おうとするため、腱鞘への負担が増大します。
腱鞘炎の診断方法
問診・視診・触診
多くの場合、腱鞘炎は問診と医師による診察だけで診断が可能です。
問診の内容
- 症状が出始めた時期
- 痛みの部位や性質
- 職業や日常生活での手の使い方
- 既往歴や家族歴
視診・触診
- 患部の腫れや発赤の確認
- 圧痛点の特定
- 指や手首の動きの確認
- 弾発現象の有無
徒手検査
フィンケルシュタインテスト(ドケルバン病)
親指を内側に入れて握りこぶしを作り、手首を小指側に曲げると、ドケルバン病では手首の親指側に強い痛みが誘発されます。
ばね指の確認
指を曲げた状態から伸ばす際の引っかかりや弾発現象の有無を確認します。
画像検査
腱鞘炎の診断には通常、画像検査は必須ではありませんが、以下のような場合に実施されることがあります。
レントゲン(X線)検査
- 骨の異常や骨折の除外
- 変形性関節症との鑑別
- 関節リウマチなど他疾患との鑑別
超音波(エコー)検査
- 腱や腱鞘の腫れや炎症の程度を直接観察
- 関節の動きや腱の滑りを確認
- エラストグラフィー(組織の硬さを測定)
- ガングリオンなどの腫瘍との鑑別
MRI検査
- 腱や腱鞘の詳細な状態の確認
- 腱鞘の狭窄程度の評価
- 重症例や手術前の精密検査
血液検査
関節リウマチが疑われる場合や、複数の指に症状が出ている場合には、血液検査を行うことがあります。
腱鞘炎の治し方|効果的な治療法
腱鞘炎の治療は、症状の程度に応じて段階的に進めていきます。基本的には保存療法から開始し、効果が不十分な場合に薬物療法や注射療法、最終的には手術療法を検討します。
1. 保存療法(基本治療)
安静
腱鞘炎治療の最も基本となるのが「安静」です。使いすぎによる炎症であるため、できるだけ患部を使わないようにすることが重要です。
安静のポイント
- 手指の使いすぎを避ける
- 痛みを伴う動作を控える
- 重い物を持たない
- 強い力を入れる作業を避ける
ただし、完全に動かさないでいると関節が硬くなる(拘縮)リスクがあるため、痛みの少ない範囲で適度に動かすことも大切です。
固定・装具療法
患部を保護し、安静を保つために、以下の方法で固定することがあります。
シーネ固定(副子固定)
- ギプスを添えて包帯で固定
- 関節の動きを制限して安静を保つ
- 仕事や家事でやむを得ず手を使う場合に有効
サポーター・装具
- 市販のサポーターやテーピング
- 手首や指の動きを適度に制限
- 日常生活で装着可能
注意点 過度に固定しすぎると関節が固まるリスクがあるため、医師や理学療法士の指導のもと、適切な期間・方法で行うことが重要です。
ストレッチ・リハビリテーション
症状が落ち着いてきたら、腱の柔軟性を高め、関節の拘縮を予防するためのストレッチやリハビリテーションを行います。詳細は後述の「セルフケアとストレッチ」の項目をご参照ください。
2. 薬物療法
外用薬
湿布薬(貼付剤)
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を含む湿布
- 炎症と痛みを抑える効果
- 患部に直接貼付
塗り薬(軟膏・クリーム)
- 鎮痛・抗炎症成分を皮膚から吸収
- 湿布が貼りにくい部位に有効
- 1日数回塗布
内服薬
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- ロキソプロフェン、イブプロフェンなど
- 炎症を抑え、痛みを和らげる
- 食後に服用(胃腸障害予防)
注意点
- 胃腸障害のリスク(胃痛、胃もたれなど)
- 長期服用は医師の指導のもとで
- 妊娠中・授乳中の方は医師に相談
3. 注射療法(ステロイド注射)
保存療法や薬物療法で十分な効果が得られない場合、腱鞘内へのステロイド注射が検討されます。
使用される薬剤
トリアムシノロン(ケナコルト)
- 強力な抗炎症作用
- 効果の持続期間:3〜6ヶ月
- ばね指やドケルバン病に高い有効性
局所麻酔薬
- ステロイドと併用
- 注射直後の痛みを軽減
効果と実施回数
多くの場合、1回の注射で症状が著明に改善します。効果が不十分な場合は、2〜3週間あけて再度注射を行うことがありますが、一般的には2〜3回までとされています。
副作用とリスク
局所の副作用
- 皮膚の陥没(皮下脂肪の萎縮)
- 注射部位の一時的な腫れ
- 結晶性滑膜炎(ステロイド結晶による炎症)
重篤な副作用
- 腱断裂のリスク(繰り返しの注射で増加)
- 感染のリスク(化膿性腱鞘炎)
- 色素沈着
注意点
- 繰り返し注射すると腱が弱くなるリスク
- 2〜3回注射しても改善しない場合は手術を検討
- 注射後に痛みが増強した場合はすぐに受診
4. 体外衝撃波治療(新しい治療法)
近年、保存的治療やステロイド注射で効果が得られない難治性の腱鞘炎に対して、体外衝撃波治療が注目されています。
治療の仕組み
高出力の圧力波(衝撃波)を患部に照射することで、以下の効果が期待できます。
- 末梢神経に作用して痛みを軽減
- 微細な損傷を作り細胞の再構築を促進
- 組織の修復・再生を促す
- 血流改善
治療の特徴
メリット
- 麻酔不要
- 1回の治療時間:5〜10分程度
- 重篤な副作用の報告が少ない
- 根本的な組織の治癒が期待できる
治療頻度
- 1〜2週間に1回のペース
- 通常3〜5回程度
デメリット
- 治療時に軽い痛みを伴う
- 現在、多くの施設で保険適用外(自費診療)
- 一部の施設では通常のリハビリに組み込んで提供
5. 手術療法
保存療法や注射療法で十分な効果が得られない場合、手術による根治的治療を検討します。
手術の適応
以下のような場合に手術が推奨されます。
- ステロイド注射を2〜3回行っても効果が不十分
- 症状が再発を繰り返す
- 指が動かない状態が続く(ロッキング)
- 関節の拘縮が進行している
- 日常生活や仕事に著しく支障をきたしている
手術の方法
腱鞘切開術
炎症を起こしている腱鞘の一部を切開し、腱の通り道を広げる手術です。
ばね指の手術
- 指の付け根のA1プーリー(腱鞘)を切開
- 切開する範囲:約1cm未満
- 手術時間:10〜15分程度
ドケルバン病の手術
- 手首の第1背側区画の腱鞘を切開
- 短母指伸筋腱と長母指外転筋腱を確認
- 解剖学的変異に注意(経験豊富な医師が望ましい)
手術の特徴
麻酔
- 局所麻酔で実施
- 日帰り手術が可能
術後経過
- 手術当日から手を使える(軽作業)
- 通常1〜2週間で抜糸
- 完全な回復まで数週間〜数ヶ月
近年の低侵襲手術
- エコーガイド下での経皮的腱鞘切開術
- 切開創が1mm程度
- 傷跡が目立たない
- 当日から水仕事が可能な場合も
手術のリスク
- 神経損傷のリスク(知覚神経が近くを走行)
- 感染のリスク
- 再発の可能性(稀)
経験豊富な整形外科医、特に手外科専門医による執刀が推奨されます。
セルフケアとストレッチの方法
腱鞘炎の予防や症状の改善には、日常的なセルフケアが非常に重要です。ここでは、自宅や職場で簡単にできる効果的なストレッチ方法をご紹介します。
ストレッチの基本原則
実施のポイント
- リラックスした状態で行う
- ゆっくりとした動作で実施
- 反動をつけたり、無理に伸ばさない
- 痛みが出る手前で止める
- 20〜30秒キープ×3〜5回
- 1日3〜4回程度実施
- 入浴後の温まった状態で行うとより効果的
注意事項
- 痛みが強い時は無理に行わない
- 痛みが増強した場合はすぐに中止
- 継続して1〜2ヶ月で効果を実感できることが多い
1. 指のストレッチ
指の末端まで血流を良くし、腱の柔軟性を高めるストレッチです。
方法
- 手首を軽く反らせる
- 反対の手で痛みのある指を持つ
- 手の甲の方向へゆっくりと反らす
- 指の手のひら側が伸びるのを感じたら30秒キープ
- ゆっくりと元に戻す
効果
- 指の血流改善
- 腱の緊張緩和
- 関節の柔軟性向上
2. 手首のストレッチ
手首周りの筋肉を伸ばし、血流を促進するストレッチです。
方法
- 腕を前に伸ばす
- 手のひらを下に向ける
- 反対の手で指(親指以外)をつかむ
- 手の甲側にゆっくりと反らす(指先が天井を向く程度)
- 30秒キープ
- 次に手のひら側に曲げて30秒キープ
効果
- 前腕の筋肉の緊張緩和
- 手首の柔軟性向上
- 腱鞘の圧迫軽減
3. 長橈側手根伸筋のストレッチ
手首を親指側に曲げたり伸ばしたりする筋肉(長橈側手根伸筋)を伸ばすストレッチで、腱鞘炎の痛みの緩和に特に効果的です。
方法
- 腕を前に伸ばす
- 手のひらを下に向ける
- 反対の手で手の甲を持つ
- 手首を手のひら側に曲げる
- さらに小指側に傾ける
- 前腕の親指側が伸びるのを感じたら30秒キープ
効果
- 筋肉の緊張緩和
- ドケルバン病の症状軽減
- 腱の柔軟性向上
4. 親指の腱鞘ストレッチ
特にドケルバン病に効果的なストレッチです。
方法
- 手首を軽く反らせた状態にする
- 親指のMP関節(付け根の関節)を最大限曲げる
- IP関節(先端の関節)は伸ばすか軽く曲げる
- 反対の手で抵抗をかけながらこの姿勢を保持
- 20〜30秒キープ
効果
- 親指の腱鞘の柔軟性向上
- 腱の通り道を広げる
- ドケルバン病の予防と改善
5. 肩・首のストレッチ
肩や首の神経は指や手首の神経とつながっているため、肩周りのストレッチも腱鞘炎の改善に効果的です。
方法
- 右手を頭の上から左側に回す
- 左耳の上あたりで頭を支える
- ゆっくりと右側に倒す
- 左の首筋が伸びるのを感じたら30秒キープ
- 反対側も同様に行う
効果
- 肩・首の筋肉の緊張緩和
- 全身の血流改善
- 姿勢改善
アイシング(冷却療法)
炎症が強く、腫れや熱感がある場合は、アイシングが効果的です。
方法
- 保冷剤や氷をタオルに包む
- 患部に10〜15分程度当てる
- 1日3〜4回実施
注意点
- 直接肌に当てない(凍傷予防)
- 慢性期で温めた方が楽な場合は温熱療法も可
ツボ押し
陽谿(ようけい)
- 手首の親指の付け根(手の甲側)
- 親指を広げた時にできるくぼみ
- 軽く押して5秒キープ
- 腱鞘炎の痛み緩和に効果的
腱鞘炎の予防法
腱鞘炎は再発しやすい疾患のため、予防が非常に重要です。日常生活で以下のポイントを意識しましょう。
1. 手指の使い方を工夫する
作業の分散
- 同じ動作を長時間続けない
- 1〜2時間ごとに休憩を取る
- 左右の手をバランスよく使う
- 作業に優先順位をつける
姿勢の改善
- 肩が内巻きにならないよう意識
- 胸を張った良い姿勢を保つ
- デスクワーク時の椅子や机の高さを調整
- 手首にクッションを置く(キーボード作業時)
スマートフォンの使い方
- 両手で持つ
- 片手操作を避ける
- 長時間の連続使用を避ける
- タブレットやスタンドを活用
2. 適切な道具の使用
サポーター
- 予防的に使用可能
- 適切なサイズを選ぶ
- 締めつけすぎない
エルゴノミクス製品
- 手首にやさしいマウスやキーボード
- リストレスト
- スマホ用グリップ
3. 定期的なストレッチ
前述のストレッチを予防的に実施することで、腱の柔軟性を保ち、腱鞘炎の発症を予防できます。
4. 体幹・肩周りの筋力維持
手指だけに頼らず、体幹や肩の筋肉を適切に使えるようにすることで、手指への負担を軽減できます。
5. 生活習慣の見直し
十分な睡眠
- 組織の修復には休息が必要
- 7〜8時間の睡眠を確保
バランスの良い食事
- タンパク質:筋肉や腱の材料
- ビタミン・ミネラル:組織の修復に必要
- 抗酸化物質:炎症の軽減
水分補給
- 関節や腱の潤滑を保つ
- 1日1.5〜2リットルを目安
6. 趣味・スポーツの工夫
楽器演奏
- 練習時間を段階的に増やす
- 適度な休憩を挟む
- 正しいフォームを習得
スポーツ
- ウォーミングアップを十分に行う
- 正しいグリップや技術を習得
- 手首や指に負担の少ない用具を選ぶ
7. 基礎疾患の管理
糖尿病や関節リウマチなどの基礎疾患がある方は、その疾患をしっかりとコントロールすることが腱鞘炎の予防につながります。
日常生活での注意点
腱鞘炎になってしまった場合、症状を悪化させないために以下の点に注意しましょう。
やってはいけないこと
- 患部を押して確認する:痛みの確認のために患部を押すと、炎症が悪化
- 引っかかりを試す:ばね現象を何度も確認すると腱や腱鞘に負担
- 無理に動かす:痛みを我慢して動かすと症状悪化
- 熱い湯での入浴:炎症期は温めすぎると悪化の可能性
- 激しい運動:手を使う運動は症状が落ち着くまで控える
育児中の方へのアドバイス
育児中は赤ちゃんの抱っこやおんぶで手首に大きな負担がかかります。
抱っこの工夫
- 手首だけで支えない
- 前腕全体に赤ちゃんを乗せる
- 体重を全身で分散させる
- 抱っこ紐を活用
授乳時の工夫
- クッションを使用して腕の負担を軽減
- 授乳クッションの活用
- 姿勢を工夫する
家事との両立
- 家族に協力を求める
- 便利な育児グッズを活用
- 無理をしない
仕事での工夫
デスクワーク
- 定期的な休憩とストレッチ
- 手首の位置を調整
- リストレストの使用
- マウスやキーボードの見直し
立ち仕事
- 作業台の高さを調整
- 重い物を持つ時は両手で
- 適切な靴の選択(姿勢改善)
いつ医療機関を受診すべきか
以下のような症状がある場合は、早めに整形外科を受診しましょう。
早期受診が推奨される症状
- 痛みが強い:日常生活に支障をきたす
- 腫れ・熱感:患部が明らかに腫れている、熱を持っている
- 動かせない:指が曲がったまま、または伸びたまま動かせない
- 弾発現象:指がカクンと跳ねるように動く
- 症状が長引く:1週間以上セルフケアをしても改善しない
- 複数の指に症状:いくつもの指に症状が出ている
- 繰り返す再発:一度治っても何度も再発する
緊急受診が必要な症状
- 発熱を伴う:感染の可能性
- 激しい痛みと腫れ:化膿性腱鞘炎の可能性
- 注射後の痛み増強:注射部位が腫れて痛みが増した
適切な診療科
整形外科
- 腱鞘炎の診断と治療を専門とする
- 注射療法や手術にも対応
手外科
- 手の疾患に特化した専門科
- より専門的な診断と治療が可能

まとめ
腱鞘炎は、現代社会において誰にでも起こりうる身近な疾患です。手や指の使いすぎが主な原因であり、特に女性はホルモンバランスの変化により発症リスクが高くなります。
治し方の基本
- まずは安静と固定で炎症を鎮める
- 外用薬や内服薬で痛みと炎症をコントロール
- 効果不十分な場合はステロイド注射を検討
- 保存療法で改善しなければ手術も選択肢
重要なポイント
- 早期発見・早期治療が重要
- 再発予防のための生活習慣の見直し
- 定期的なストレッチとセルフケア
- 症状が改善しない場合は早めに受診
腱鞘炎は放置すると症状が悪化し、指が動かなくなることもあります。「たかが腱鞘炎」と軽視せず、適切な治療と予防を心がけることで、快適な日常生活を取り戻しましょう。
参考文献
- 日本整形外科学会「ばね指(弾発指)」
- 日本臨床整形外科学会「バネ指(成人)」
- 日本臨床整形外科学会「狭窄性腱鞘炎(ドケルバン病)」
- 函館五稜郭病院「医療コラム:腱鞘炎の再発を防ぐためには―ストレッチ&アイシング―」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務