PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状とは?医師が解説する見逃せないサインと対処法

はじめに

突然のフラッシュバック、悪夢、強い不安感——これらは単なる「一時的なストレス」ではなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の重要なサインかもしれません。

PTSD(Post-Traumatic Stress Disorder)は、命の危険を感じるような強い衝撃的な体験の後に発症する精神疾患です。交通事故、災害、暴力被害、戦争体験など、さまざまなトラウマ体験が原因となります。日本では、阪神・淡路大震災や東日本大震災の後、PTSDへの認識が高まり、現在では多くの人がこの病気について耳にする機会が増えました。

しかし、「自分の症状がPTSDかどうかわからない」「いつまで続くのか不安」といった悩みを抱えている方も少なくありません。この記事では、PTSDの具体的な症状から診断基準、治療法まで、医学的に正確な情報をわかりやすく解説します。

PTSDとは何か

PTSDの定義

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、生命の危機に直面したり、重大な傷害を負ったりするような強烈な心的外傷体験(トラウマ)の後に発症する精神疾患です。

トラウマ体験から1か月以上経過しても、その出来事に関連した苦痛な記憶や症状が持続し、日常生活に支障をきたす状態を指します。重要なのは、「誰でも起こりうる正常な反応が、時間が経っても改善せずに続いている状態」だということです。

PTSDの有病率

日本におけるPTSDの生涯有病率は、一般人口の約1~2%と報告されています。しかし、トラウマ体験の種類によって発症率は大きく異なります。

厚生労働省の調査によれば、大規模災害の被災者では約10~30%、性的暴力の被害者では約50%がPTSDを発症するとされています。つまり、トラウマ体験をしたすべての人がPTSDを発症するわけではありませんが、一定の割合で発症するリスクがあるということです。

PTSDと急性ストレス障害の違い

トラウマ体験の直後から症状が現れることもありますが、これは「急性ストレス障害(ASD)」と呼ばれます。ASDは、トラウマ体験から3日以降1か月以内に症状が現れ、通常は1か月以内に改善します。

一方、PTSDは症状が1か月以上持続する場合の診断名です。また、トラウマ体験から6か月以上経過してから症状が現れる「遅発性PTSD」もあります。

PTSDの4つの主要症状群

PTSDの症状は、大きく4つのカテゴリーに分類されます。これらの症状が複合的に現れることで、患者さんの日常生活に深刻な影響を及ぼします。

1. 再体験症状(侵入症状)

再体験症状は、PTSDの最も特徴的な症状です。トラウマ体験が意図せず繰り返し思い出され、まるでその場面を再び体験しているかのような苦痛を感じます。

フラッシュバック

フラッシュバックは、トラウマの記憶が突然鮮明によみがえり、その出来事が今まさに起きているかのように感じる現象です。視覚的なイメージだけでなく、音、におい、身体感覚まで伴うことがあります。

例えば、交通事故の被害者が、車のブレーキ音を聞いただけで事故の瞬間にタイムスリップしたような感覚に襲われることがあります。このとき、心拍数が上がり、冷や汗をかき、実際に事故が起きているかのような恐怖を感じます。

侵入的な記憶

自分の意思とは無関係に、トラウマに関する不快な記憶や思考が繰り返し頭の中に浮かんできます。日常生活の中で突然思い出され、その都度強い苦痛を感じます。

仕事中や会話中など、どんな場面でも不意に記憶が侵入してくるため、集中力の低下や対人関係の困難につながることもあります。

悪夢

トラウマ体験に関連した悪夢を繰り返し見ることも、再体験症状の一つです。夢の中で再びその出来事を体験し、恐怖や無力感を感じながら目が覚めます。

悪夢による睡眠障害は、疲労の蓄積や日中のパフォーマンス低下を招きます。また、眠ることへの恐怖が生じ、不眠症状が悪化することもあります。

生理的反応

トラウマを思い起こさせる刺激(トリガー)に遭遇したときに、激しい生理的反応が起こります。動悸、発汗、震え、呼吸困難、めまいなどの身体症状が現れます。

例えば、性暴力の被害者が、加害者が使っていた香水の匂いを嗅いだだけで、パニック発作のような症状を起こすことがあります。

2. 回避症状

回避症状は、トラウマを思い出させるものを避けようとする行動パターンです。一見すると適応的な行動に見えますが、生活範囲を著しく制限し、社会機能の低下を招きます。

記憶や思考の回避

トラウマに関する記憶、思考、感情を意識的に避けようとします。「考えないようにしよう」と努力しますが、かえってそのことが頭から離れなくなる悪循環に陥ることもあります。

トラウマについて話すことを拒否したり、関連する話題になると話題を変えたりします。治療を受けることさえ回避してしまう場合もあります。

外的な刺激の回避

トラウマを思い出させる人、場所、会話、活動、物、状況を避けます。これにより、日常生活が大きく制限されます。

交通事故の被害者が車に乗ることを完全に避けたり、災害の被災者が被災地域に近づけなくなったりします。職場や学校への通勤・通学ルートを大幅に変更することもあります。

職業選択や居住地の決定など、人生の重要な選択にも影響を及ぼすことがあります。

3. 認知と気分の陰性変化

トラウマ体験によって、自分自身や世界に対する見方が否定的に変化します。これは単なる気分の落ち込みではなく、認知の歪みを伴う深刻な症状です。

重要な側面の記憶喪失

トラウマ体験の重要な部分を思い出せないことがあります。これは通常の物忘れとは異なり、解離性健忘と呼ばれる現象です。

脳が強い衝撃から心を守るために、記憶の一部を封印してしまうと考えられています。後になって断片的に思い出すこともあります。

否定的な信念

自分自身、他者、世界に対して極端に否定的で誤った信念を持つようになります。

「自分は弱い」「自分が悪かった」「誰も信用できない」「世界は危険だ」といった考えが固定化します。これらの信念は、トラウマの事実関係とは異なることが多いのですが、本人にとっては確信に近い感覚があります。

自責感と罪悪感

トラウマ体験やその結果について、自分や他者を非難します。特に、「自分がもっと注意していれば防げた」といった自責の念が強くなります。

サバイバーズ・ギルト(生存者の罪悪感)も含まれます。自分が生き残ったことに罪悪感を感じ、「なぜ自分だけが助かったのか」と苦しむこともあります。

陰性感情の持続

恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、恥などの否定的な感情が持続します。これらの感情は、トラウマと直接関係のない日常的な状況でも過剰に反応して現れることがあります。

興味や関心の喪失

以前は楽しんでいた活動への興味が失われます。趣味、仕事、人付き合いなど、あらゆる活動に対して意欲が湧かなくなります。

これはうつ病の症状と似ていますが、PTSDの場合はトラウマ体験に関連した特有の認知変化を伴います。

孤立感と疎外感

他者から切り離されているような感覚、誰も理解してくれないという孤独感が強くなります。「自分だけが違う」「普通の人とは違う」という感覚を持ちます。

社会的な場面で参加できない、楽しめないという状態が続き、対人関係が希薄になっていきます。

肯定的感情の持続的な減少

喜び、満足感、愛情といった肯定的な感情を感じることが難しくなります。幸せなはずの場面でも感情が動かない、心が凍りついたような感覚(感情の麻痺)を経験します。

家族との団らんや記念日など、本来なら喜びを感じる場面でも感情が湧いてこないことに、本人も家族も戸惑います。

4. 覚醒度と反応性の変化

過覚醒症状とも呼ばれ、常に緊張状態にあり、危険に対して過剰に警戒するようになります。

易刺激性と攻撃的行動

些細なことでイライラしたり、怒りが爆発したりします。人に対しても物に対しても攻撃的になることがあります。

普段は温厚な人が、突然キレやすくなったと感じることもあります。これは本人の性格の問題ではなく、PTSDの症状として理解する必要があります。

無謀な行動や自己破壊的行動

危険な行動をとったり、自分を傷つけるような行動をとったりします。薬物やアルコールへの依存、危険運転、無防備な性行動なども含まれます。

これらの行動の背景には、「どうせ自分はもう終わっている」という絶望感や、感情の麻痺から解放されたいという願望があることもあります。

過度の警戒心

常に周囲を警戒し、危険がないか監視するような状態が続きます。レストランでは必ず出口が見える席に座る、後ろに誰かが立つと極度に緊張するなど、日常的な場面でも警戒を解けません。

この過剰な警戒は、心身を疲弊させ、リラックスすることを困難にします。

過剰な驚愕反応

予期しない音や動きに対して、過剰にびっくりします。ドアが閉まる音、電話の着信音、背後から声をかけられることなどに、必要以上に驚いてしまいます。

これは神経系が常に「戦うか逃げるか」のモードにあることを示しています。

集中力の障害

注意を持続することが難しく、仕事や勉強に集中できなくなります。会話の内容が頭に入らない、本を読んでも内容が理解できないといった症状が現れます。

再体験症状による侵入的思考や、過覚醒による注意の分散が原因と考えられます。

睡眠障害

寝つきが悪い、何度も目が覚める、早朝に目が覚めてしまうなど、さまざまな睡眠問題が生じます。悪夢への恐怖から眠ることを避けるようになることもあります。

慢性的な睡眠不足は、他のPTSD症状を悪化させる悪循環を生み出します。

PTSDの診断基準

PTSDの診断は、アメリカ精神医学会が発行する「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)」や、世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類第11版(ICD-11)」などの国際的な診断基準に基づいて行われます。

DSM-5によるPTSD診断基準(概要)

基準A:トラウマ体験への暴露

  • 実際にまたは危うく死ぬ、重傷を負う、性的暴力を受ける出来事への暴露
  • 直接体験、目撃、身近な人への出来事を知る、職業的な反復暴露などが含まれる

基準B:侵入症状(1つ以上)

  • 侵入的記憶
  • 悪夢
  • フラッシュバック
  • 心理的苦痛
  • 生理的反応

基準C:回避症状(1つ以上)

  • 内的刺激の回避
  • 外的刺激の回避

基準D:認知と気分の陰性変化(2つ以上)

  • 記憶喪失
  • 否定的信念
  • 自責感
  • 陰性感情の持続
  • 興味の喪失
  • 孤立感
  • 肯定的感情の減少

基準E:覚醒度と反応性の変化(2つ以上)

  • 易刺激性と攻撃的行動
  • 無謀な行動
  • 過度の警戒心
  • 過剰な驚愕反応
  • 集中力の障害
  • 睡眠障害

基準F:期間

  • 症状が1か月以上持続

基準G:機能障害

  • 症状が社会的、職業的、または他の重要な領域における機能に著しい苦痛または障害を引き起こしている

基準H:除外

  • 症状が薬物や他の医学的疾患によるものではない

診断のタイミングと重要性

PTSDの症状は、トラウマ体験直後から現れることもあれば、数か月から数年経過してから現れることもあります。早期に診断し、適切な治療を開始することが、症状の慢性化を防ぐために重要です。

「これくらいなら我慢できる」「時間が解決してくれる」と考えて受診を先延ばしにすると、症状が固定化し、治療がより困難になることがあります。

PTSDの原因となるトラウマ体験

PTSDを引き起こすトラウマ体験は多様ですが、共通しているのは「生命の危機を感じるような強烈な恐怖体験」であるということです。

典型的なトラウマ体験

自然災害

  • 地震、津波、台風、洪水などの大規模災害
  • 日本では阪神・淡路大震災、東日本大震災後に多くのPTSD患者が報告されている

交通事故

  • 重大な自動車事故、電車事故など
  • 被害者だけでなく、目撃者も発症することがある

暴力被害

  • 性的暴力(レイプ、性的虐待)
  • 身体的暴行
  • 家庭内暴力(DV)
  • 強盗、拉致監禁などの犯罪被害

戦争体験

  • 戦闘への参加
  • 戦争による被害

虐待

  • 幼少期の身体的虐待、性的虐待
  • 心理的虐待やネグレクト

その他の重大な出来事

  • 重篤な疾患の診断や治療(医療トラウマ)
  • 生命を脅かす感染症への罹患
  • 愛する人の突然の死
  • 職業上の過酷な体験(救急隊員、消防士、警察官など)

発症リスクを高める要因

同じトラウマ体験をしても、すべての人がPTSDを発症するわけではありません。以下の要因が発症リスクを高めると考えられています。

個人的要因

  • 過去のトラウマ体験
  • 精神疾患の既往歴や家族歴
  • 幼少期の逆境体験
  • 女性であること(一般的に男性より発症率が高い)

トラウマの特性

  • トラウマの重症度が高い
  • 長期間にわたる繰り返しの体験
  • 意図的な人為的暴力(自然災害より発症率が高い)

社会的要因

  • 社会的サポートの欠如
  • トラウマ後の追加的ストレス
  • 経済的困難

特殊な集団におけるPTSD症状

子どものPTSD

子どものPTSDは、大人とは異なる症状の現れ方をすることがあります。

年齢別の特徴

就学前の幼児(6歳以下)

  • 言葉で説明できないため、遊びの中でトラウマを再現する
  • 退行現象(おねしょ、指しゃぶりなど)
  • 親からの分離不安
  • 夜驚症(夜中に突然恐怖で叫ぶ)

学童期

  • 学業成績の低下
  • 友人関係のトラブル
  • 身体症状(頭痛、腹痛など)
  • トラウマに関連した遊びや絵を繰り返す

思春期

  • 大人に近い症状が現れる
  • 反抗的行動、非行
  • 危険な行動への傾倒
  • 自傷行為や薬物使用

子どものPTSDは、発達段階にも悪影響を及ぼすため、早期発見と適切な対応が特に重要です。

高齢者のPTSD

高齢者のPTSDには特有の課題があります。

  • 過去のトラウマが加齢とともに再燃することがある
  • 認知機能の低下との鑑別が必要
  • 身体疾患との合併が多い
  • 社会的孤立のリスクが高い

また、戦争体験など、何十年も前のトラウマが高齢になってから症状として現れる「遅発性PTSD」もあります。

複雑性PTSD(Complex PTSD)

長期間にわたる繰り返しのトラウマ(幼少期の虐待、DVなど)を受けた場合、通常のPTSDに加えて、以下のような症状が見られることがあります。これを「複雑性PTSD」と呼びます。

感情調節の困難

  • 激しい怒りや悲しみをコントロールできない
  • 感情が麻痺する
  • 自己破壊的な行動

否定的な自己概念

  • 深い恥の感覚
  • 慢性的な罪悪感
  • 無価値感

対人関係の困難

  • 他者を信頼できない
  • 親密な関係を築けない
  • 孤立または不適切な関係への依存

複雑性PTSDは、ICD-11で正式に診断名として採用されましたが、DSM-5にはまだ独立した診断カテゴリーとしては含まれていません。

PTSDの経過と予後

自然経過

PTSDの経過は個人差が大きく、以下のようなパターンがあります。

急性型

  • トラウマ直後から症状が現れ、3か月以内に改善
  • 適切なサポートがあれば自然回復することもある

慢性型

  • 症状が3か月以上持続
  • 治療なしでは改善しにくい

遅発型

  • トラウマから6か月以上経過してから発症
  • ストレスや類似の出来事がきっかけになることが多い

予後に影響する要因

良好な予後を示す要因

  • 早期の治療開始
  • 強い社会的サポート
  • 精神疾患の既往歴がない
  • トラウマの重症度が比較的軽い

予後不良となる要因

  • 治療の遅れ
  • 社会的孤立
  • 併存する精神疾患(うつ病、不安障害など)
  • 薬物・アルコール依存
  • 継続するストレス

併存症

PTSDは他の精神疾患を併発しやすいことが知られています。

主な併存症

  • うつ病(50~80%)
  • 不安障害(パニック障害、社交不安障害など)
  • 物質使用障害(アルコール、薬物)
  • 身体症状症
  • 摂食障害

併存症がある場合は、それらも含めた包括的な治療が必要になります。

受診のタイミング

PTSDは早期発見・早期治療が重要です。以下のような症状や状況がある場合は、精神科や心療内科の受診を検討してください。

受診を考えるべきサイン

1か月以上続く症状

  • フラッシュバックや悪夢が繰り返される
  • トラウマに関連する場所や状況を避けている
  • 常に緊張していて眠れない
  • 集中できず日常生活に支障がある

日常生活への影響

  • 仕事や学校に行けない
  • 人との関わりを避けるようになった
  • 家族関係が悪化している
  • 以前楽しんでいた活動ができなくなった

危険な兆候

  • 自傷行為や自殺を考える
  • アルコールや薬物に依存している
  • 攻撃的になり他者を傷つける恐れがある

これらの症状は「気の持ちよう」や「甘え」ではありません。適切な治療によって改善が期待できる医学的な状態です。

PTSDの治療法

PTSDの治療には、心理療法(精神療法)と薬物療法があります。多くの場合、これらを組み合わせた治療が効果的です。

心理療法

認知行動療法(CBT)

認知行動療法は、PTSDに対する最も効果的な治療法の一つとされています。

  • トラウマに関連した否定的な思考パターンを認識し、修正する
  • 回避行動を減らし、現実的な対処方法を学ぶ
  • リラクゼーション技法やストレス管理を習得する

持続エクスポージャー療法(PE)

安全な環境下で、トラウマ記憶に段階的に向き合う治療法です。

  • トラウマの記憶を繰り返し語ることで、記憶の処理を促進
  • 避けていた場所や状況に段階的に近づいていく
  • 記憶が「今ここにある危険」ではないことを学習する

眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)

眼球運動などの両側性刺激を用いながら、トラウマ記憶を処理する治療法です。

  • 特殊な眼球運動を行いながらトラウマを思い出す
  • 記憶の情緒的な衝撃を軽減する
  • 比較的短期間で効果が現れることがある

認知処理療法(CPT)

トラウマに関連した思考や信念に焦点を当てる治療法です。

  • 「自分が悪かった」などの否定的信念を検証する
  • より現実的でバランスの取れた考え方を獲得する

薬物療法

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)

PTSDの第一選択薬として推奨されています。

  • セルトラリン、パロキセチンなど
  • 抑うつ気分、不安、過覚醒症状に効果
  • 効果が現れるまで数週間かかる

その他の薬物

  • 抗不安薬:不安や不眠に対して短期的に使用
  • 睡眠薬:睡眠障害に対して使用
  • 抗うつ薬(SNRI):SSRIが効果不十分な場合に使用

薬物療法は症状の緩和に役立ちますが、心理療法と組み合わせることでより効果的です。

その他の治療アプローチ

グループ療法

  • 同じような体験をした人との共有
  • 孤立感の軽減
  • 相互サポート

家族療法

  • 家族の理解を深める
  • 家族関係の改善
  • 家族のサポート能力を高める

補完的アプローチ

  • ヨガ、瞑想、マインドフルネス
  • アートセラピー、音楽療法
  • 運動療法

これらは主要な治療の補完として有用ですが、単独では十分ではありません。

日常生活での対処法

治療と並行して、日常生活でできる対処法も重要です。

セルフケアの基本

規則正しい生活リズム

  • 毎日同じ時間に起床・就寝する
  • 3食規則正しく食べる
  • 適度な運動を心がける

リラクゼーション技法

  • 深呼吸法
  • 漸進的筋弛緩法
  • マインドフルネス瞑想

トリガーへの対処

  • 自分のトリガーを認識する
  • 完全な回避ではなく、段階的な暴露を目指す
  • 安全な環境を整える

社会的サポートの活用

信頼できる人との関係

  • 家族や友人に自分の状況を説明する
  • 定期的に連絡を取り合う
  • 孤立を避ける

サポートグループ

  • 同じような経験をした人との交流
  • 情報交換や相互支援

職場や学校への配慮依頼

  • 必要に応じて休職や休学を検討
  • 職場や学校に症状を説明し、配慮を求める

避けるべきこと

アルコールや薬物での対処

  • 一時的には楽になっても、長期的には症状を悪化させる
  • 依存症のリスクが高い

完全な回避

  • 過度な回避は症状を長引かせる
  • 治療の中で安全に向き合う方法を学ぶ

孤立

  • 一人で抱え込まない
  • 専門家や信頼できる人に相談する

PTSDに対する社会の理解

PTSDは「心が弱いから」「気の持ちようで治る」といった誤解を受けやすい疾患です。しかし、PTSDは脳の機能的な変化を伴う医学的な疾患であり、適切な治療が必要です。

周囲の人ができること

理解と共感

  • PTSDについて正しい知識を持つ
  • 批判や否定をせず、話を聞く
  • 「がんばれ」などのプレッシャーを避ける

実際的なサポート

  • 受診に付き添う
  • 日常生活のサポート(買い物、家事など)
  • 安全な環境づくりに協力する

見守りと専門家への相談

  • 自殺のリスクに注意を払う
  • 必要に応じて専門家に相談する
  • 長期的な視点でサポートを続ける

まとめ

PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、トラウマ体験後に発症する精神疾患で、フラッシュバック、回避症状、認知と気分の変化、過覚醒症状などが1か月以上持続する状態を指します。

PTSDの症状は多様で、日常生活に深刻な影響を及ぼしますが、適切な治療によって改善が期待できます。認知行動療法、持続エクスポージャー療法、EMDRなどの心理療法や、薬物療法が効果的です。

「時間が解決してくれる」と考えて治療を先延ばしにすると、症状が慢性化するリスクがあります。フラッシュバックや悪夢が続く、日常生活に支障が出ているなどの症状がある場合は、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。

PTSDは「気の持ちよう」ではなく、医学的な治療が必要な疾患です。一人で抱え込まず、専門家のサポートを受けながら、回復への道を歩んでいくことが大切です。


参考文献

  1. 厚生労働省「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」
    https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_ptsd.html
  2. 国立精神・神経医療研究センター「PTSDについて」
    https://www.ncnp.go.jp/
  3. 日本トラウマティック・ストレス学会
    http://www.jstss.org/
  4. 金吉晴「トラウマとPTSD」『こころの科学』日本評論社
  5. 飛鳥井望「PTSDの理解と治療」『精神神経学雑誌』日本精神神経学会
  6. 前田正治「災害とこころのケア」岩波書店
  7. 日本精神神経学会「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」医学書院
  8. 世界保健機関(WHO)「ICD-11(国際疾病分類第11版)」
  9. 金吉晴編「PTSDとトラウマのすべてがわかる本」講談社
  10. 厚生労働省「こころもメンテしよう~若者を支えるメンタルヘルスサイト」
    https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/

※本記事は医学的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状が気になる場合は、必ず医療機関を受診してください。

監修者医師

高桑 康太 医師

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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