はじめに
お子さんの頬が突然真っ赤になって驚いた経験はありませんか。それは「リンゴ病」と呼ばれる感染症かもしれません。正式名称を「伝染性紅斑」というこの病気は、主に子どもに多く見られるウイルス性感染症です。
リンゴ病は、ほとんどの場合自然に治る軽い病気ですが、妊娠中の方や特定の基礎疾患をお持ちの方にとっては注意が必要な感染症でもあります。本記事では、リンゴ病の症状や原因、治療法、予防方法について、医学的根拠に基づいて詳しく解説していきます。

リンゴ病とは
病気の概要
リンゴ病(伝染性紅斑)は、ヒトパルボウイルスB19というウイルスによって引き起こされる感染症です。両頬がリンゴのように赤くなることから「リンゴ病」という親しみやすい名前で呼ばれていますが、医学的には「伝染性紅斑」が正式名称となります。
また、小児に発症する代表的な発疹性疾患として、麻疹、風疹、水痘、突発性発疹に次ぐ「第5病(Fifth disease)」という呼称もあります。これは、かつてこれらの病気が番号で分類されていた名残です。
流行の特徴
リンゴ病は、4〜5年周期で大きな流行を繰り返す傾向があります。近年では、2007年、2011年、2015年、そして2024年に大きな流行が確認されています。
季節的には、年始から7月上旬頃にかけて患者数が増加し、9月頃に最も少なくなるという季節性を示すことが多いとされています。ただし、流行の規模が小さい年には、明確な季節性が見られないこともあります。
年齢別の発症率
感染者の年齢層としては、5〜9歳での発生が最も多く、次いで0〜4歳に多く見られます。主に幼児期から学童期の子どもがかかりやすい病気といえますが、成人での感染も珍しくありません。
日本人の成人における抗体保有率は20〜50%程度といわれており、約半数以上の成人が免疫を持っていない状態です。そのため、小児期に感染していない成人は、大人になってからもリンゴ病にかかる可能性があります。
原因と感染経路
原因ウイルス
リンゴ病の原因は、パルボウイルス科に属する「ヒトパルボウイルスB19」です。正式名称は「エリスロウイルスB19」ですが、一般的には「ヒトパルボウイルスB19」と呼ばれています。
このウイルスは、赤血球を作る細胞(赤芽球の前駆細胞)に感染する特性を持っています。赤血球の表面にあるP抗原という物質を受容体として細胞内に侵入し、一時的に赤血球の産生を抑制します。健康な人では大きな問題になりませんが、妊婦や特定の基礎疾患を持つ方には影響が出ることがあります。
感染経路
リンゴ病は主に以下の2つの経路で感染が広がります。
1. 飛沫感染
感染者の咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことで感染します。特に感染者が風邪のような症状を示している時期は、ウイルスの排出量が多く、感染力が最も強い時期となります。
2. 接触感染
感染者が触れたドアノブや手すり、おもちゃなどを介して感染することがあります。また、感染者と同じ食器やコップを共有することでも感染のリスクが高まります。特に家庭内では、子どもとのキスや食器の共有を通じて感染が広がることがあります。
感染力が強い時期
リンゴ病の特徴的な点は、感染力が最も強い時期と診断がつく時期にズレがあることです。
最も感染力が強いのは、発疹が出る前の「風邪のような症状」が現れる時期です。この時期にはまだリンゴ病であることがわからず、通常の風邪と見分けがつきません。一方、特徴的な頬の赤みが出現してリンゴ病と診断される頃には、すでにウイルスの排出はほとんどなくなり、感染力もほぼ消失しています。
この特性により、発疹が出てから感染を予防しようとしても、すでに周囲への感染が起きている可能性が高いのです。
症状の経過
潜伏期間
ヒトパルボウイルスB19に感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は、約10〜20日(4〜28日)とされています。この長い潜伏期間のため、いつどこで感染したのか特定するのが難しい場合があります。
第1期:初期症状(感染から7〜11日)
感染の初期段階では、以下のような風邪に似た軽微な症状が現れることがあります。
- 微熱(37〜38度程度)
- 倦怠感、だるさ
- 頭痛
- 筋肉痛
- 軽い咳や鼻水
ただし、これらの症状は非常に軽いことが多く、まったく症状が現れない場合(不顕性感染)もあります。実際、小児では症状のない場合や軽い風邪症状のみで気づかれないケースが少なくありません。
**この時期が最も感染力が強く、ウイルスの排出が盛んに行われています。**しかし、まだリンゴ病とは診断できない段階であるため、知らず知らずのうちに周囲に感染を広げてしまう可能性があります。
第2期:発疹期(感染から14〜18日)
初期症状から約1週間後、リンゴ病の最も特徴的な症状が現れます。
顔面の紅斑
両頬に境界が鮮明な赤い発疹(紅斑)が出現します。まるで平手で頬を叩かれたように、あるいはリンゴのように真っ赤になることから「リンゴ病」という名前がつきました。
この紅斑は左右対称に現れ、蝶が羽を広げたような形(蝶翼状)をしているのが特徴です。発疹は少し盛り上がっており、ほてったような感じがすることもあります。多少のかゆみを伴うこともありますが、痛みはほとんどありません。
体幹・四肢の発疹
顔の紅斑に続いて、あるいはほぼ同時期に、体幹部や手足にも発疹が広がります。これらの発疹は顔面の発疹とは異なる特徴を持ちます。
- レース状または網目状の模様
- 大理石紋様と表現されることもある
- 主に腕や太ももの伸側(外側)に出現
- かゆみを伴うことがある
この発疹は通常1〜2週間程度で自然に消失します。ただし、以下のような場合に一時的に発疹が濃くなったり、一度消えた発疹が再び現れたりすることがあります。
- 日光に当たった後
- 入浴後、特に長時間の熱い風呂に入った後
- 運動後
- 気温の変化
- ストレスや疲労
このため、発疹が消えたと思っても、数週間から数ヶ月にわたって症状が続くように感じることがあります。
子どもと大人の症状の違い
子どもの症状
小児では典型的な頬の紅斑と四肢の発疹が主な症状となります。多くの場合、発熱などの全身症状は軽微で、元気に過ごせることがほとんどです。
不顕性感染の割合も高く、小児期の感染では80〜90%が何らかの症状を示すものの、10〜20%程度は症状が全く現れないまま免疫を獲得します。
大人の症状
成人がリンゴ病に感染した場合、子どもとは異なる症状が現れることがあります。
1. 関節症状
成人のリンゴ病で最も特徴的なのが関節症状です。
- 複数の関節に痛みや腫れが生じる
- 特に手指、手首、膝の関節に多い
- 左右対称に症状が出ることが多い
- 1〜2日間は歩行が困難になることもある
- 通常は数週間で改善するが、まれに数ヶ月続くこともある
2. 皮膚症状
大人では典型的な頬の紅斑が出ないことも多く、代わりに以下のような皮膚症状が見られることがあります。
- 紫斑(アザのような発疹)
- 手袋靴下症候群(Gloves and socks syndrome):手足の末端に手袋や靴下をはいたような紫斑が出現する状態
- 体幹部や四肢に左右対称の発疹
3. 全身症状
- 発熱(子どもより高熱になることがある)
- 強い倦怠感
- 頭痛
成人では不顕性感染の割合が低く、約40%程度にとどまります。つまり、感染した場合に何らかの症状が出る確率が子どもより高いのです。
診断方法
臨床診断
リンゴ病の診断は、主に特徴的な発疹の見た目から行われます。
- 両頬の蝶翼状の紅斑
- 四肢のレース状・網目状の発疹
- これらの発疹が現れる前に軽い風邪症状があった
これらの所見があれば、臨床的にリンゴ病と診断されることが多いです。
血液検査
確定診断や特殊な状況では、血液検査でヒトパルボウイルスB19に対する抗体を調べます。
IgM抗体
- 急性感染を示す抗体
- 感染後1週間程度から検出可能
- 数ヶ月間陽性が続く
- 現在感染しているか、最近感染したことを示す
IgG抗体
- 過去の感染や免疫の獲得を示す抗体
- 感染後2週間程度から検出可能
- 一度陽性になると生涯続く
- 2回の検査でIgG抗体が上昇している場合も急性感染を示す
特に妊婦の場合は、感染の有無を正確に把握するために血液検査が重要です。妊婦健診の際、周囲にリンゴ病の患者がいる場合は、医師に相談して必要に応じて抗体検査を受けることが推奨されます。
なお、妊婦さんの場合、保険適応で検査できるのはIgM抗体のみとなっています。
治療方法
対症療法が中心
残念ながら、現在のところリンゴ病に対する特効薬や抗ウイルス薬は存在しません。また、予防接種(ワクチン)も開発されていません。
そのため、治療は症状を和らげる対症療法が中心となります。幸いなことに、リンゴ病は基本的に軽症の病気であり、特別な治療をしなくても自然に回復することがほとんどです。
具体的な対処法
1. 安静と休養
- 十分な睡眠をとる
- 無理な活動は避ける
- 体力の回復を優先する
2. 水分補給
- こまめに水分を摂取する
- 特に発熱時は脱水に注意
- 経口補水液なども活用する
3. 解熱鎮痛剤
発熱や関節痛がある場合に使用します。
- アセトアミノフェン
- イブプロフェンなど非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
医師の指示に従って適切に使用しましょう。
4. かゆみ止め
発疹にかゆみがある場合は、以下の対処が有効です。
- 抗ヒスタミン薬の内服
- かゆみ止めの塗り薬
- 患部を冷やす
- 保湿剤の使用(乾燥によるかゆみの悪化を防ぐ)
5. 皮膚のケア
- 強くこすらない
- 爪を短く切っておく(掻きむしり防止)
- 長時間の熱い風呂は避ける
- 直射日光を避ける(発疹の悪化を防ぐ)
- 刺激の少ない衣類を着用する
経過観察のポイント
ほとんどの場合、経過観察をしながら自然治癒を待つことになります。ただし、以下のような症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
- 高熱が続く(38.5度以上が3日以上)
- 強い頭痛や嘔吐
- 激しい関節痛で動けない
- 呼吸困難
- 意識がもうろうとする
- 異常な出血傾向
- 極度の倦怠感
- 顔色が悪く、非常に疲れた様子
これらは合併症の可能性を示唆する症状です。
登園・登校について
出席停止の扱い
リンゴ病は、感染症法上は「5類感染症」に分類されており、全国約2,000カ所の小児科定点医療機関から発生状況が報告されています。
学校保健安全法では、リンゴ病は第3種の感染症「その他の感染症」に該当します。ただし、明確な出席停止期間は定められていません。
学校保健安全法の規定では、「発疹期には感染力はほとんど消失しているので、発疹のみで全身状態のよい者は登校(園)可能である」とされています。
登園・登校の目安
リンゴ病と診断された後の登園・登校については、以下のような考え方が一般的です。
登園・登校できる場合
- 頬が赤くなり、リンゴ病と診断された後
- 発熱などの全身症状がない
- 食欲があり、元気に過ごせる
- かゆみなどの症状が軽く、日常生活に支障がない
リンゴ病の特徴的な発疹が出現した時点では、すでにウイルスの排出はほとんどなく、感染力もほぼ消失しています。そのため、発疹が出ているだけで他の症状がなければ、登園・登校しても問題ないとされています。
登園・登校を控えるべき場合
- 発熱がある
- 風邪のような症状がある時期(診断前)
- 強い倦怠感がある
- かゆみが強く、授業や活動に集中できない
- 全身状態が良くない
特に、発疹が出る前の風邪のような症状がある時期は、最も感染力が強い時期です。この段階では無理して登園・登校せず、自宅で休養することが感染拡大の防止につながります。
登園許可証や登校届について
リンゴ病は明確な出席停止期間が定められていないため、基本的には登園許可証や登校届は不要とされています。ただし、地域や施設によっては独自のルールを設けている場合もあります。
感染が判明した際は、必ず通園・通学先に連絡し、その施設の方針に従うようにしましょう。
保護者の方へのアドバイス
- 発疹が出ても感染力はほぼないことを理解する
- 全身状態が良ければ通常の生活を送って問題ない
- 見た目が気になる場合は無理せず休養させてもよい
- 施設の方針を確認し、それに従う
- 周囲への配慮として、感染の事実を伝える
妊婦への影響と注意点
妊娠中の感染リスク
妊婦がリンゴ病に感染した場合、胎盤を通じて胎児にもウイルスが感染する可能性があります。これが、リンゴ病において最も注意すべき点です。
日本人の妊婦における抗体保有率は20〜50%程度とされており、過半数の妊婦がリンゴ病に対する免疫を持っていません。そのため、妊娠中に初めて感染するリスクがあるのです。
胎児への影響
妊婦が初めてヒトパルボウイルスB19に感染した場合、以下のような経過をたどることがあります。
胎児感染の確率
- 妊婦が感染した場合、約20〜30%の確率で胎盤を通じて胎児に感染
- 胎児が感染した場合、そのうち約20%で胎児水腫などの重篤な状態が発生
- つまり、妊婦感染全体の約4〜11%で胎児に影響が出る計算
胎児水腫
ヒトパルボウイルスB19は胎児の赤血球を作る細胞に感染し、一時的に造血機能を抑制します。その結果、胎児が重度の貧血を起こし、以下のような状態になることがあります。
- 胎児水腫:胎児の全身がむくみ、胸水や腹水が貯留する状態
- 心不全
- 胎児死亡
胎児水腫は母体感染から9週間以内に発症し、多くは2〜6週間で発症します。ただし、胎児水腫の約34%は自然に軽快するという報告もあります。
妊娠時期別のリスク
- 妊娠20週未満(特に妊娠9〜16週):最もリスクが高い時期。胎児死亡率は約8〜10%
- 妊娠20週以降(特に妊娠28週以降):胎児水腫の発症率は低下
妊娠初期〜中期の感染が特に注意が必要です。
先天異常のリスク
重要な点として、ヒトパルボウイルスB19は胎児の臓器発育には影響を及ぼしません。先天性風疹症候群のような先天奇形症候群の報告はなく、胎児が無事であれば正常に発育します。
妊婦が感染した場合の対応
1. 早期の受診と検査
リンゴ病を疑う症状(発熱、倦怠感、発疹など)がある場合は、すぐに産婦人科を受診しましょう。
血液検査でIgM抗体やIgG抗体を測定し、感染の有無と時期を確認します。
2. 胎児のモニタリング
感染が確認された場合、少なくとも8週間は毎週超音波検査を行い、胎児水腫の兆候がないか慎重に観察します。
超音波検査では以下の点を確認します。
- 胎児の浮腫(むくみ)
- 胸水、腹水の貯留
- 心臓の状態
- 胎児の動き
3. 必要に応じた専門的治療
もし胎児の貧血が疑われる場合は、以下のような専門的な対応が検討されます。
- 経皮的臍帯静脈採血:胎児の血液を採取してヘマトクリット値を測定
- 子宮内胎児輸血:重症の貧血で子宮内胎児死亡のおそれがある場合
- 高次医療施設への紹介
ただし、これらの処置が必要になるケースは限られています。
4. 予後について
- 胎児が感染しても、約3分の1は自然に回復
- 適切なモニタリングと必要に応じた治療により、多くの胎児は無事に出産できる
- 胎児の異常所見が消失すれば、感染しなかった赤ちゃんと同じ経過をたどる
妊婦の予防対策
現在、ヒトパルボウイルスB19に対するワクチンは存在しません。そのため、日常的な感染予防策が非常に重要です。
基本的な感染予防
- 手洗いの徹底
- 外出後、食事前、トイレ後は必ず手を洗う
- 石鹸を使って20秒以上洗う
- 手指消毒用アルコールも併用する
- マスクの着用
- 人混みでは必ずマスクを着用
- 咳やくしゃみをしている人の近くでは特に注意
- 咳エチケットの実践
- 咳やくしゃみをする時は口と鼻を覆う
- ティッシュやハンカチを使用する
- 使用後のティッシュは適切に廃棄
特に注意が必要な状況
- 上の子どもがいる場合
- 子どもが風邪症状を示している時は特に注意
- 食器やタオルの共有を避ける
- キスなどの濃厚接触を控える
- 子どもの手洗いも徹底させる
- 保育士、教師、医療従事者など小児と接する職業の方
- 職場での感染予防策を厳重に
- 流行状況に常に注意を払う
- 可能であれば抗体検査を受けておく
- 流行期
- 流行している地域では、人混みをなるべく避ける
- 不要不急の外出を控える
- 風邪症状のある人との接触を避ける
周囲にリンゴ病の患者がいる場合
- すぐに産婦人科の主治医に相談
- 不顕性感染の可能性もあるため、症状がなくても医師に伝える
- 必要に応じて抗体検査を受ける
- より注意深く感染予防策を実施
妊娠前の対策
妊娠を計画している女性は、事前に抗体検査を受けておくことも一つの選択肢です。抗体を持っている(過去に感染したことがある)ことがわかれば、妊娠中の感染リスクについて安心できます。
ただし、抗体がない場合でも、適切な予防策を講じることで感染リスクを大幅に減らすことができます。
特別な注意が必要な方
溶血性貧血の患者
リンゴ病のウイルスは赤血球の産生を一時的に抑制します。健康な人では特に問題にならない程度ですが、もともと赤血球の寿命が短い溶血性貧血の患者さんでは、深刻な貧血発作を引き起こすことがあります。
対象となる疾患
- 遺伝性球状赤血球症
- サラセミア
- 鎌状赤血球症
- その他の溶血性貧血
症状と対応
- 無形成発作:血小板、白血球なども一緒に減少する重篤な状態
- 急激な貧血の進行
- 輸血が必要になることもある
これらの基礎疾患をお持ちの方は、周囲でリンゴ病が流行している場合、特に注意が必要です。かかりつけ医に相談し、適切な対策を講じましょう。
免疫不全の患者
免疫機能が低下している方では、ウイルスの排出が長期間続くことがあります。
- HIV感染症の患者
- 臓器移植後で免疫抑制剤を使用している患者
- 抗がん剤治療中の患者
- その他免疫不全状態にある方
これらの方がリンゴ病に感染した場合、より慎重な経過観察と医療管理が必要です。
予防方法
ワクチンは存在しない
繰り返しになりますが、現在のところヒトパルボウイルスB19に対するワクチンは開発されていません。そのため、予防接種による予防はできません。
基本的な感染予防策
リンゴ病の予防には、他の感染症と同様の基本的な対策が有効です。
1. 手洗いの徹底
最も基本的で効果的な予防法です。
- 外出後は必ず手を洗う
- 食事前、調理前に手を洗う
- トイレの後は手を洗う
- 石鹸を使って指の間、爪の間まで丁寧に洗う
- 流水で20秒以上洗う
- 清潔なタオルやペーパータオルで拭く
2. 咳エチケット
- 咳やくしゃみをする時は、ティッシュやハンカチで口と鼻を覆う
- ティッシュがない場合は、肘の内側で覆う(手のひらで覆わない)
- 使用後のティッシュはすぐにゴミ箱に捨てる
- 咳やくしゃみの後は手を洗う
3. マスクの着用
- 風邪症状がある時は必ずマスクを着用
- 流行期には予防的にマスクを着用
- 正しい方法でマスクを装着する(鼻と口を完全に覆う)
4. 共用物の管理
- タオルや食器を共有しない
- 特に家族内で風邪症状のある人がいる場合は注意
- おもちゃなど子どもが触れるものは定期的に清掃
5. 環境の清潔保持
- ドアノブや手すりなど、よく触れる場所をこまめに清掃
- 十分な換気を行う
- 適度な湿度を保つ
流行期の対策
リンゴ病が流行している時期には、以下の点に特に注意しましょう。
- 流行状況の把握
- 保育園、幼稚園、学校での流行情報に注意
- 地域の感染症情報をチェック
- 体調管理
- 十分な睡眠をとる
- バランスの良い食事を心がける
- 疲労を溜めない
- ストレスをためない
- 早期発見
- 風邪のような症状が出たら注意深く観察
- 周囲にリンゴ病の患者がいる場合は特に注意
家族内での感染予防
上の子どもがリンゴ病になった場合、下の子どもや妊娠中の母親への感染を防ぐことが重要です。
- 隔離
- 可能な範囲で患者と他の家族の接触を減らす
- 特に風邪症状がある時期は注意
- 個人用品の分離
- タオル、食器、コップを別にする
- 寝具も別にできれば理想的
- 濃厚接触の回避
- キスなどの濃厚接触を避ける
- 食べ物の口移しをしない
- 同じスプーンや箸を使わない
- 環境の清掃
- 患者が触れた場所を適宜消毒
- 使用後のティッシュは適切に処理

よくある質問
A. はい、基本的には一度感染すると終生免疫が得られます。そのため、子どもの頃にリンゴ病にかかった人は、大人になってから再び感染することはまれです。
ただし、極めてまれに再感染の報告もあります。また、免疫機能が著しく低下している場合には、再感染のリスクがわずかに高まる可能性があります。
A. いいえ、発疹が出ている時期にはウイルスの排出はほとんどなく、感染力もほぼ消失しています。
最も感染力が強いのは、発疹が出る前の風邪のような症状がある時期です。この時期にはまだリンゴ病と診断されていないため、知らず知らずのうちに感染を広げてしまう可能性があります。
発疹が出てリンゴ病と診断された後は、全身状態が良ければ通常の生活を送っても問題ありません。
Q3. 大人がリンゴ病にかかるとどうなりますか?
A. 大人がリンゴ病に感染すると、子どもとは異なる症状が出ることがあります。
最も特徴的なのは関節症状で、複数の関節(特に手指、手首、膝)に痛みや腫れが生じます。1〜2日間は歩行困難になることもありますが、通常は数週間で改善します。
また、典型的な頬の紅斑が出ない代わりに、紫斑や手袋靴下症候群と呼ばれる特徴的な皮膚症状が現れることもあります。
成人の場合も、多くは合併症なく自然に回復しますが、症状が子どもより強く出ることがあるため、必要に応じて医療機関を受診しましょう。
Q4. 妊娠中にリンゴ病になったら必ず流産しますか?
A. いいえ、必ずしも流産するわけではありません。
妊婦が感染した場合、約20〜30%の確率で胎児にも感染が起こり、そのうちの約20%で胎児水腫などの重篤な状態が発生します。つまり、妊婦感染全体の約4〜11%で胎児に影響が出る計算になります。
また、胎児水腫の約34%は自然に軽快するという報告もあります。適切なモニタリングと必要に応じた治療により、多くの胎児は無事に出産できます。
感染を理由に妊娠中絶を選択する必要はありません。産婦人科医と相談しながら、適切な経過観察を行うことが大切です。
Q5. リンゴ病の症状が出たら病院に行くべきですか?
A. 典型的な症状のみで全身状態が良ければ、必ずしもすぐに受診する必要はありません。リンゴ病は自然に治る病気で、特別な治療法もないためです。
ただし、以下のような場合は医療機関を受診することをお勧めします。
- 診断を確定したい場合
- 高熱が続く場合
- 強い関節痛がある場合
- かゆみが強く日常生活に支障がある場合
- 妊娠中の方
- 溶血性貧血などの基礎疾患がある方
- 免疫不全の状態にある方
- 乳幼児で全身状態が気になる場合
また、登園・登校のために診断書や許可が必要な場合も受診が必要です。
Q6. リンゴ病を予防するワクチンはありますか?
A. 現在のところ、ヒトパルボウイルスB19に対するワクチンは開発されていません。
そのため、手洗い、咳エチケット、マスクの着用など、基本的な感染予防策を徹底することが最も重要です。
特に妊婦や溶血性貧血などの基礎疾患をお持ちの方は、流行期には人混みを避ける、風邪症状のある人との接触を控えるなど、より注意深い予防が必要です。
Q7. 発疹はいつまで続きますか?
A. 通常、発疹は1〜2週間程度で自然に消失します。
ただし、以下のような場合に一時的に発疹が濃くなったり、再び現れたりすることがあります。
- 日光に当たった後
- 入浴後(特に熱い風呂)
- 運動後
- 気温の変化
- ストレスや疲労
このため、完全に消えるまでには数週間から数ヶ月かかることもあります。発疹の再出現は病状の悪化ではなく、ウイルス感染後の一時的な皮膚の反応ですので、心配する必要はありません。
Q8. 家族がリンゴ病になりました。他の家族も感染しますか?
A. 家族内での感染は起こりうます。特に風邪のような症状がある時期(発疹が出る前)が最も感染力が強いため、この時期に濃厚接触があった場合は感染の可能性があります。
ただし、すでに過去に感染したことがある人(抗体を持っている人)は再感染しないため、全員が必ず感染するわけではありません。
発疹が出てリンゴ病と診断された後は、感染力はほぼないため、通常の家庭生活を送っても問題ありません。
Q9. リンゴ病以外の病気の可能性はありますか?
A. 発疹が出る病気は他にもあります。以下のような病気との鑑別が必要な場合があります。
- 麻疹(はしか):発熱、咳、鼻水、目の充血の後、全身に発疹。発疹期も感染力が強い
- 風疹:発熱、リンパ節の腫れ、全身の発疹。妊婦への影響が大きい
- 溶連菌感染症:発熱、喉の痛み、発疹、イチゴ舌
- 川崎病:高熱、目の充血、唇の発赤、発疹、リンパ節の腫れ。早期治療が必要
- アレルギー性の発疹:薬疹、じんましんなど
典型的でない症状や、診断に迷う場合は、医療機関を受診して適切な診断を受けることが大切です。
Q10. リンゴ病にかかったらプールに入れますか?
A. 発疹が出てリンゴ病と診断された後は、全身状態が良ければプールに入っても感染を広げる心配はありません。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 発疹がかゆみを伴う場合、塩素で刺激されて悪化する可能性がある
- 日光によって発疹が濃くなることがある
- 体力が低下している場合は無理をしない
- 学校や施設の規定を確認する
体調を見ながら、無理のない範囲で活動するようにしましょう。
まとめ
リンゴ病(伝染性紅斑)は、ヒトパルボウイルスB19によって引き起こされる、主に子どもに多い感染症です。両頬がリンゴのように赤くなることからこの名前がつけられました。
重要なポイント
- 感染力が強い時期
- 発疹が出る前の風邪のような症状がある時期が最も感染力が強い
- 診断された時(発疹が出た後)には感染力はほぼない
- 症状
- 両頬の蝶翼状の紅斑
- 四肢のレース状・網目状の発疹
- 大人では関節痛が特徴的
- 治療
- 特効薬やワクチンは存在しない
- 対症療法が中心
- ほとんどの場合自然に治癒
- 登園・登校
- 発疹が出た後は、全身状態が良ければ登園・登校可能
- 明確な出席停止期間は定められていない
- 妊婦への影響
- 妊婦が感染すると胎児に影響が出る可能性がある
- 特に妊娠20週未満の感染に注意
- 適切なモニタリングと治療により、多くは無事出産できる
- 予防
- 手洗い、咳エチケット、マスク着用などの基本的な感染予防策が重要
- 妊婦や基礎疾患のある方は特に注意が必要
最後に
リンゴ病は、ほとんどの場合軽症で自然に治る病気です。過度に心配する必要はありませんが、正しい知識を持ち、適切に対応することが大切です。
特に妊娠中の方や、溶血性貧血などの基礎疾患をお持ちの方は、流行期には十分な注意が必要です。不安な症状がある場合や、周囲にリンゴ病の患者がいる場合は、早めに医療機関に相談しましょう。
参考文献
- 厚生労働省「伝染性紅斑」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/fifth_disease.html - 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「伝染性紅斑とは」
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ta/5th-disease/010/5th-disease.html - 国立感染症研究所「伝染性紅斑とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/443-5th-disease.html - 大阪市「伝染性紅斑(リンゴ病)について」
https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000654558.html - 福井県「伝染性紅斑(リンゴ病)の患者報告数が増加しています!」
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kenkou/kansensyo-yobousessyu/erythema-infectiosum.html
免責事項
本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。症状や不安がある場合は、必ず医療機関を受診して専門医の診察を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務