目次
- はじめに
- ワキガ(腋臭症)とは
- ワキガが発生するメカニズム
- ワキガ体質の特徴とセルフチェック
- ワキガと遺伝の関係
- ワキガ手術の種類と特徴
- 保険適用で受けられる皮弁法(剪除法)とは
- 手術の流れと術後の過ごし方
- 術後の合併症とリスク
- 手術を受ける前に知っておきたいこと
- まとめ
- 参考文献
1. はじめに
電車の中や職場、学校など、日常のふとした瞬間に「自分のワキの臭いが気になる」と感じたことはありませんか。ワキガ(腋臭症)は、本人が気づきにくい一方で、周囲の人には感じられやすいという特徴があります。そのため、多くの方が対人関係や社会生活に不安を抱えながらも、なかなか相談できずに悩んでいるのが現状です。
ワキガは決して珍しいものではなく、日本人の約10%がワキガ体質であるとされています。しかし、欧米人やアフリカ人の大多数がワキガ体質であることと比較すると、日本では少数派であるため、周囲との違いに敏感になりやすいという背景があります。
本記事では、池袋エリアでワキガ手術をお考えの方に向けて、ワキガの原因から治療法、保険適用される手術の詳細、術後の過ごし方まで、専門的な知識をわかりやすく解説します。ワキガに悩む方が正しい情報をもとに、自分に合った治療法を選択できるよう、医学的根拠に基づいた情報をお届けします。

2. ワキガ(腋臭症)とは
ワキガは、医学的には「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれる状態です。腋窩(わきの下)から特有の臭いを発する症状を指し、単なる汗臭さとは異なる独特の臭いが特徴です。
2-1. ワキガと汗臭さの違い
一般的な「汗臭い」という体臭は、運動後や暑い日に感じるすっぱいような臭いであり、これは全身に分布するエクリン汗腺から出る汗が原因です。エクリン汗腺から分泌される汗は99%が水分で構成されており、本来は無臭です。この汗が皮膚表面の垢や皮脂と混ざり、細菌によって分解されることで発生するのが、いわゆる汗臭さです。
一方、ワキガの臭いは、アポクリン汗腺という特殊な汗腺から分泌される汗が原因です。ワキガの臭いは「ゴボウのような臭い」「ネギのような臭い」「鉛筆の芯のような臭い」「スパイスのような臭い」などと表現されることが多く、汗臭さとは明らかに異なる性質を持っています。
2-2. ワキガは病気なのか
ワキガは病気というよりも「体質」の一種と考えられています。アポクリン汗腺の数や大きさ、活動性は生まれつき決まっており、これらが多い人がワキガ体質となります。
ただし、ワキガは国際疾病分類(ICD-10)においてL75.0として正式に分類されており、医学的に治療が必要な疾患として位置づけられています。日常生活や社会生活に支障をきたすレベルのワキガは「腋臭症」という病名で診断され、保険診療の対象となります。
3. ワキガが発生するメカニズム
ワキガの臭いがどのように発生するのかを理解することは、適切な治療法を選択するうえで非常に重要です。
3-1. 2種類の汗腺
人間の皮膚には、汗を分泌する汗腺が2種類存在します。
エクリン汗腺は全身に約200万〜500万個分布しており、主に体温調節の役割を担っています。この汗腺から分泌される汗はサラサラとしており、ほとんどが水分と塩分で構成されています。暑いときや運動したときに出る汗の大部分はエクリン汗腺からのものです。
アポクリン汗腺は、体の限られた部位にのみ存在します。具体的には、腋窩(わきの下)、外耳道、乳輪周囲、へそ周囲、外陰部、肛門周囲などに分布しています。この汗腺から分泌される汗には、タンパク質、脂質、アンモニア、糖質、鉄分、色素成分(リポフスチン)などの有機成分が豊富に含まれており、やや粘り気があって乳白色をしています。
3-2. 臭いが発生する3つの要素
ワキガの臭いは、以下の3つの要素が組み合わさることで発生します。
第一に、アポクリン汗腺の活動です。アポクリン汗腺から分泌される汗には、臭いの「もと」となる有機成分が豊富に含まれています。ただし、この汗自体は分泌された直後は無臭です。
第二に、皮膚常在菌の存在です。皮膚の表面には様々な細菌が生息しており、これらの細菌がアポクリン汗に含まれる有機成分を分解する酵素を持っています。
第三に、湿潤な環境です。汗によって皮膚が湿ることで、細菌が繁殖しやすい環境が作られます。脇の下は構造上、湿気がこもりやすく、細菌の繁殖に適した条件が整いやすい部位です。
これら3つの要素が揃うことで、アポクリン汗に含まれる脂肪酸が細菌によって分解され、「3メチル2へキセノイン酸」などの揮発性物質が生成されます。この物質こそが、ワキガ特有の臭いの正体です。
3-3. アポクリン汗腺の特徴
アポクリン汗腺は、もともとフェロモンを分泌する器官として機能していたと考えられています。他の哺乳類では、アポクリン汗腺は全身に分布しており、仲間同士の識別や異性を引きつける役割を果たしています。人間においても、性ホルモンがアポクリン汗腺を活性化させる作用があるため、思春期を迎えてからワキガの症状が顕在化することが多いのです。
アポクリン汗腺は毛穴に接続するような形で存在しているため、脇毛が濃い人はアポクリン汗腺の数も多い傾向があります。
4. ワキガ体質の特徴とセルフチェック
自分がワキガ体質かどうかを客観的に判断することは、意外と難しいものです。これは、人間が同じ臭いを長時間嗅ぎ続けることで、その臭いに鈍感になる「嗅覚の順応」という現象が関係しています。ここでは、医学的根拠に基づいたセルフチェックの方法をご紹介します。
4-1. 耳垢の状態をチェック
耳の中にもアポクリン汗腺の一種である「耳垢腺」が存在します。耳垢には、乾燥してカサカサしたタイプ(乾型)と、湿ってベタベタしたタイプ(湿型)の2種類があります。
ワキガ体質の人は、耳垢が湿っているケースが非常に多く、ワキガの人の約98%が湿った耳垢を持っているというデータがあります。逆に、湿った耳垢の人の約80%がワキガ体質であるとも報告されています。これは、アポクリン汗腺が発達している人は、耳の中のアポクリン汗腺からの分泌も多くなり、耳垢が湿るためです。
4-2. 衣類の黄ばみをチェック
白いシャツやブラウスを着用した際、脇の部分に黄色や黄土色のシミができやすい場合は、ワキガ体質の可能性があります。これは、アポクリン汗腺から分泌される汗に含まれる色素成分「リポフスチン」が衣類に付着するためです。
エクリン汗腺から出る通常の汗は、乾けば無色になります。しかし、アポクリン汗腺からの汗には脂肪分やタンパク質、色素などが含まれているため、黄色いシミの原因となります。ただし、制汗剤の成分によっても黄ばみが生じることがあるため、確認する際は制汗剤を使用していない状態で試すことをお勧めします。
4-3. 脇毛の状態をチェック
アポクリン汗腺は毛穴に接続して存在しているため、脇毛が濃い人はアポクリン汗腺の数も多い可能性があります。
女性の場合、脇毛が太く、1つの毛穴から2本の毛が生えているケースでは、アポクリン汗腺が多い傾向があるとされています。男性の場合は、猫毛のように細くサラサラとした脇毛の人にアポクリン汗腺が多く見られる傾向があります。
また、脇毛に白い粉状のものが付着していることがあれば、これはアポクリン汗腺から分泌された汗の成分が結晶化したものであり、ワキガ体質である可能性が高いと考えられます。
4-4. 家族歴をチェック
ワキガは遺伝的要因が強く関与する体質です。両親のどちらか一方がワキガ体質の場合、子どもに遺伝する確率は約50%とされています。両親の両方がワキガ体質の場合は、約75〜80%の確率で遺伝すると報告されています。
家族にワキガの人がいる場合は、自分自身もワキガ体質である可能性を考慮する必要があります。
4-5. ガーゼテストによるチェック
医療機関でも採用されている方法として、ガーゼテストがあります。清潔なガーゼを脇に挟み、数分間軽い運動を行った後、そのガーゼの臭いを確認します。
臭いの強さは一般的に5段階で評価されます。レベル1はガーゼに鼻を近づけても臭わない状態、レベル2はガーゼに鼻を近づけると臭う状態、レベル3は脇からガーゼを離しても臭いがわかる状態、レベル4は1メートル以内に近づくと臭いがわかる状態、レベル5は1メートル以上離れていても臭いがわかる状態です。
一般的に、レベル3以上であれば治療が推奨されるワキガと判断されます。
5. ワキガと遺伝の関係
ワキガの発症には遺伝的要因が大きく関与しています。近年の遺伝学研究により、ワキガに関連する遺伝子が特定されています。
5-1. ABCC11遺伝子とワキガ
ワキガ体質を決定する遺伝子として、16番染色体上にあるABCC11遺伝子が知られています。長崎大学の研究グループによって、この遺伝子の一塩基多型(SNP:スニップ)が耳垢のタイプとワキガ体質に関連していることが明らかになりました。
ABCC11遺伝子のrs17822931というSNPには、AA型、GA型、GG型の3つの遺伝型があります。研究によると、調査したワキガの人の約98.7%がGA型またはGG型の遺伝型を持っていたと報告されています。AA型の遺伝型を持つ人は、ワキガになりにくいタイプとされています。
5-2. 優性遺伝の仕組み
ワキガ体質は優性遺伝(顕性遺伝)の形式をとります。これは、両親から受け継ぐ2つの遺伝子のうち1つでも「ワキガ体質の遺伝子」があれば、ワキガ体質として表現されることを意味します。
具体的には、湿型耳垢を持つG型が、乾型耳垢のA型に対して優性となります。したがって、遺伝型がGGまたはGAの人は湿型耳垢となり、ワキガ体質である可能性が高くなります。AA型の人のみが乾型耳垢となり、ワキガ体質ではないと考えられます。
5-3. 人種による違い
興味深いことに、ワキガ体質の頻度は人種によって大きく異なります。欧米人やアフリカ人ではほぼ全員が湿型耳垢(GGまたはGA型)であり、ワキガ体質です。一方、日本人を含む東アジア人では、乾型耳垢(AA型)の割合が非常に高く、約70〜80%を占めています。
この人種差は、人類の進化の過程で生じた突然変異が関係していると考えられています。かつて東アジアの寒冷な気候に適応する中で、538G→538Aという突然変異が発生し、アポクリン汗腺の活動が抑制される遺伝型(AA型)が広まったとする説があります。
日本においてワキガが特に気になる問題となりやすいのは、多数派が体臭の少ないAA型であるため、ワキガ体質の人が目立ちやすいという社会的背景があるのかもしれません。
6. ワキガ手術の種類と特徴
ワキガの治療には、手術療法と保存療法(非手術療法)があります。ここでは、それぞれの治療法の特徴を解説します。
6-1. 手術療法
手術療法は、ワキガの原因であるアポクリン汗腺を直接除去する方法であり、根本的な治療として最も高い効果が期待できます。
皮弁法(剪除法)は、わきの下の皮膚を3〜5cm程度切開し、皮膚を反転させてアポクリン汗腺を医師が目視で確認しながら除去する方法です。保険適用される唯一の手術法であり、最も確実にアポクリン汗腺を除去できることから、標準的な治療法とされています。
皮下組織削除法は、ローラーと刃がついた特殊な器具を用いて、皮膚の裏側からアポクリン汗腺を削り取る方法です。
超音波吸引法は、小さな切開から超音波メスを挿入し、汗腺を破砕して吸引する方法です。傷跡は小さくなりますが、汗腺の取り残しが生じやすく、効果が不十分になることがあります。
6-2. 非手術療法
手術以外の治療法として、いくつかの選択肢があります。
ボトックス注射は、ボツリヌス毒素製剤を脇に注入することで、汗の分泌を抑制する方法です。施術時間は10分程度と短く、傷跡も残りません。ただし、効果は3〜6カ月程度で、継続的な施術が必要です。また、主な効果は「制汗」であるため、強いワキガ臭には効果が限定的な場合があります。重度の原発性腋窩多汗症と診断された場合は保険適用となることがあります。
ミラドライは、マイクロ波を用いて汗腺を熱により破壊する治療法です。皮膚を切開せずに行えるため、傷跡が残らず、ダウンタイムも比較的短いという利点があります。破壊された汗腺は再生しないため、効果は半永久的とされています。ただし、保険適用外であり、費用は20〜50万円程度と高額になります。
外用薬や制汗剤は、皮膚を殺菌したり、毛穴を引き締めたりすることで、一時的に臭いを抑える方法です。軽度のワキガには効果的ですが、根本的な治療にはなりません。
6-3. 治療法の選択
どの治療法を選択するかは、ワキガの程度、ライフスタイル、費用、ダウンタイムの許容度などを総合的に考慮して決定します。
軽度のワキガで、傷跡を残したくない場合は、外用薬やボトックス注射から始めることも選択肢です。根本的な治療を希望し、費用を抑えたい場合は、保険適用の皮弁法が適しています。切開を避けたいがしっかり治療したい場合は、ミラドライなどの選択肢があります。
いずれにしても、まずは医師の診察を受け、自分のワキガの程度を正確に評価してもらったうえで、最適な治療法を相談することが大切です。
7. 保険適用で受けられる皮弁法(剪除法)とは
保険適用でワキガ手術を受けたいと考える方にとって、最も重要な情報が皮弁法(剪除法)についてです。ここでは、この手術法の詳細を解説します。
7-1. 皮弁法とは
皮弁法は、ワキガ治療において最も標準的かつ効果の高い手術法です。「剪除法」とも呼ばれ、厚生労働省の診療報酬点数表においても「腋臭症手術 皮弁法(K008-1)」として明確に定められています。
手術は、わきの下のシワに沿って3〜5cm程度切開を加え、皮膚を反転させてめくり、皮膚の裏側にあるアポクリン汗腺を医師が直接目で確認しながら、医療用のハサミで丁寧に切除していきます。皮膚を弁状にして反転させることから「皮弁法」と呼ばれています。
7-2. 保険適用の条件
皮弁法が保険適用となるためには、以下の2つの条件を満たす必要があります。
第一に、医師により「腋臭症」と診断されることです。これは、ワキガの臭いが医学的に治療が必要なレベルであると判断されることを意味します。単に本人が気になるというだけでなく、客観的に見て医療介入が必要と医師が判断する場合に適用されます。目安としては「鼻を近づけなくても臭いがわかるレベル」とされています。
第二に、実施する治療法が厚生労働省により保険適用として認められた方法であることです。現在、ワキガ治療において保険適用が認められているのは「皮弁法」のみです。ミラドライや吸引法、レーザー治療などは保険適用外となります。
7-3. 費用の目安
保険適用で皮弁法を受けた場合、診療報酬点数は片側6,870点(1点10円)となります。3割負担の場合、片側あたり約21,000円、両側で約42,000〜50,000円程度が自己負担額の目安です。
これに加えて、術前の血液検査費用(3,000〜5,000円程度)、診察料、薬代、術後の再診料などが必要となります。総額でも、保険適用外の治療と比較すると、3分の1程度の費用で手術を受けることができます。
また、民間の医療保険に加入している場合、手術給付金の対象となることがあります。保険会社によって条件は異なりますが、「腋臭症手術(K008-1)」として手術給付金を申請できる場合があるため、事前に確認することをお勧めします。
7-4. 皮弁法のメリット
皮弁法には、いくつかの重要なメリットがあります。
最も大きなメリットは、アポクリン汗腺を医師が直接目で確認しながら除去するため、取り残しが少なく、高い治療効果が期待できることです。海外の臨床研究では、皮弁法を受けたワキガ患者の95%以上で臭いの明らかな改善が報告されています。
保険適用されるため、費用を大幅に抑えられることも大きなメリットです。自由診療のワキガ治療では30〜50万円程度かかることもありますが、保険適用であれば5万円程度で根本的な治療が可能です。
また、手術によってアポクリン汗腺とともに毛根も除去されるため、脱毛効果も得られます。術後は脇毛が大幅に減少することが多いです。
さらに、一度除去されたアポクリン汗腺は再生しないため、効果は半永久的に持続します。
7-5. 皮弁法のデメリット
一方で、皮弁法にはいくつかのデメリットや注意点もあります。
皮膚を切開する手術であるため、傷跡が残る可能性があります。傷跡はわきのシワに沿って切開されるため、時間の経過とともに目立ちにくくなりますが、完全に消えるわけではありません。通常、術後数カ月〜1年程度で地肌になじんでいきます。
術後のダウンタイムが比較的長いことも考慮すべき点です。手術後は皮膚を再び生着させるために圧迫固定が必要であり、腕の動きが制限されます。日常生活に支障が出る期間は1〜2週間程度、完全に回復するまでには約1カ月かかることがあります。
手術の効果は医師の技術に大きく依存します。経験豊富な形成外科専門医による手術であれば高い効果が期待できますが、技術が不十分な場合は汗腺の取り残しが生じ、効果が不十分になったり、再発したりする可能性があります。
8. 手術の流れと術後の過ごし方
皮弁法によるワキガ手術の具体的な流れと、術後の過ごし方について詳しく解説します。
8-1. 手術前の準備
手術を受ける前には、いくつかの準備が必要です。
まず、初診では問診により症状や家族歴を確認し、ガーゼテストなどで臭いの程度を評価します。医師がワキガ(腋臭症)と診断し、手術の適応があると判断されれば、手術の説明を受けます。
手術前には血液検査が行われます。これは、肝臓や腎臓の機能、糖尿病や貧血、感染症の有無などを確認し、局所麻酔による手術が安全に行えるかどうかを判断するためです。
手術の2〜3日前から、脇毛を剃っておく必要があります。手術当日は、脇の下にアポクリン汗腺が分布している範囲にマーキングを行います。
8-2. 手術の流れ
手術は通常、片側ずつ行われます。これは、両側同時に手術を行うと術後に両腕の動きが制限され、日常生活に大きな支障が出るためです。確実な治療効果を得るためにも、片側ずつ十分な時間をかけて手術を行うことが推奨されています。
手術時間は片側で約60〜90分程度です。まず局所麻酔を行い、麻酔が効いてから手術を開始します。麻酔が十分に効いているため、手術中の痛みはほとんどありません。
わきの下のシワに沿って3〜5cm程度切開し、皮膚をめくって反転させます。医師が皮膚の裏側にあるアポクリン汗腺を直接確認しながら、取り残しがないよう丁寧に切除していきます。
汗腺の切除が完了したら、止血を確認し、切開部を縫合します。皮膚がしっかりと元の位置に戻るよう、ガーゼや綿球を用いた「タイオーバー」という圧迫固定を施します。
8-3. 術後の経過
術後の経過は以下のような流れになります。
手術当日は、麻酔が切れると痛みが出始めますが、処方された鎮痛剤で対処できる程度です。手術部位を濡らさないよう、腰から下のシャワー浴のみとなります。圧迫固定により腕を上げることができないため、車の運転や自転車の運転は控えます。
術後2〜3日目に再診があり、ドレーン(血を抜く管)がある場合は抜去し、創部の状態を確認します。この時点ではまだ圧迫固定は継続します。
術後4〜5日目頃に、圧迫固定(タイオーバー)を解除します。ただし、まだ腕を大きく動かすことは控えます。
術後7〜14日目頃に抜糸を行います。女性は約2〜3週間後、男性は切開範囲が広いことが多いため約3〜4週間後に抜糸となることもあります。
術後1カ月程度で、皮膚の生着を確認し、日常生活への制限が解除されていきます。術後3カ月頃には最終的な経過観察を行い、問題がなければ治療完了となります。
8-4. 術後の過ごし方と注意点
術後の過ごし方は、手術の成功と傷の回復に大きく影響します。
最も重要なのは「安静」です。特に術後1週間は、腕を肩より上に上げたり、重い物を持ったりすることは厳禁です。脇を大きく動かすと、一度生着しかけた皮膚が剥がれてしまい、内出血(血腫)や皮膚の壊死につながる恐れがあります。
洗髪については、固定期間中は自分で行うことが難しいため、家族に手伝ってもらうか、美容室で洗髪だけお願いすることをお勧めします。
入浴は、圧迫固定が解除されるまでは腰から下のシャワー浴に限定されます。固定解除後も、傷口を強くこすらないよう注意が必要です。
仕事については、デスクワークであれば術後数日〜1週間程度で復帰可能な場合もありますが、腕をよく使う仕事や肉体労働の場合は2週間以上の休職が必要になることもあります。手術を受ける際は、仕事のスケジュールを調整しておくことが大切です。
運動は、抜糸後さらに2週間程度は控えるようにします。激しい運動は術後1カ月以上経過してから再開することが望ましいです。
9. 術後の合併症とリスク
どのような手術にも合併症のリスクはあります。皮弁法によるワキガ手術で起こりうる合併症について、正しく理解しておきましょう。
9-1. 内出血(血腫)
術後のワキに最も起こりやすい合併症が内出血(血腫)です。傷の内側に血液が溜まり、凝固することで皮膚への血流が阻害され、最悪の場合は皮膚の壊死を招くことがあります。
血腫を予防するためには、術後の安静が何より重要です。医師から指示された安静度を守り、腕を動かさないようにすることが大切です。また、術後にドレーン(廃液管)を留置して体液の貯留を防ぐ処置が行われることもあります。
9-2. 感染
手術後の傷口に細菌が入り込むと、感染症を引き起こす可能性があります。感染が起こると、傷口が赤く腫れたり、膿が出たり、痛みが強くなったりします。
感染予防のためには、処方された抗生物質をきちんと服用し、傷口を清潔に保つことが重要です。傷口から異常な分泌物が出たり、発熱したりした場合は、速やかに医療機関を受診してください。
9-3. 色素沈着
手術後、有毛部全体に黒ずんだ色素沈着が見られることがあります。これは、アポクリン汗腺を除去する際に皮膚の奥にある真皮層が傷つくことで起こります。
良好な経過をたどれば、術後3カ月頃から徐々に薄くなり、1年程度で地肌になじんでいきます。ただし、体質によっては数年かかることもあります。紫外線の影響で色素沈着が悪化することがあるため、術後は日焼け対策を心がけましょう。
9-4. 傷跡
切開を伴う手術であるため、傷跡は残ります。一般的な経過では、術後2〜3週間で赤みが引き始め、1年程度でシワに紛れて目立ちにくくなります。
ただし、体質によってはケロイドや肥厚性瘢痕として目立つ傷跡が残ることがあります。ケロイド体質の方は、事前に医師に相談することが重要です。
9-5. 拘縮(こうしゅく)
手術後、皮膚の下の組織が硬くなり、拘縮が発生することがあります。特に皮下脂肪が少なく痩せている方に起こりやすい傾向があります。
拘縮が生じた場合は、ヒルドイドなどの外用薬を使用してケアを行います。時間の経過とともに改善することが多いですが、完全には戻らないこともあります。
9-6. 効果不十分・再発
手術を行っても、アポクリン汗腺を完全に除去できなかった場合、臭いが残ったり、再発したりする可能性があります。これは、医師の技術や経験によって結果が左右されやすい点です。
ただし、皮弁法は医師が直接目視で汗腺を確認しながら除去する方法であるため、他の手術法と比較して再発率は低いとされています。経験豊富な形成外科専門医による手術であれば、より確実な効果が期待できます。
10. 手術を受ける前に知っておきたいこと
ワキガ手術を検討する際に、知っておくべき重要なポイントをまとめます。
10-1. 医療機関の選び方
ワキガ手術の結果は、執刀医の技術と経験に大きく左右されます。医療機関を選ぶ際は、以下の点を確認することをお勧めします。
形成外科専門医が在籍しているかどうかは重要なポイントです。形成外科専門医は、傷跡を最小限に抑える技術や、術後の合併症に対応する知識を持っています。日本形成外科学会認定の形成外科専門医資格は、医師として7年以上の経験と十分な研修を経なければ取得できない厳格な資格です。
また、ワキガ手術の症例数や経験が豊富であるかどうかも確認しましょう。多くの症例を経験している医師であれば、様々な状況に対応できます。
カウンセリングの丁寧さも大切です。手術のメリット・デメリット、リスク、術後の過ごし方などを丁寧に説明してくれる医療機関を選びましょう。疑問点や不安を相談しやすい雰囲気であることも重要です。
アフターケア体制が整っているかどうかも確認しておきましょう。術後のフォローアップ体制が整っている医療機関であれば、万が一のトラブルにも迅速に対応してもらえます。
10-2. 手術を受けるタイミング
手術後には一定期間の安静が必要であり、日常生活に制限が生じます。以下の点を考慮して、手術のタイミングを検討しましょう。
仕事や学校のスケジュールを調整できる時期を選びましょう。長期休暇中や、業務が比較的落ち着いている時期が適しています。
傷跡が落ち着くまでには数カ月から1年程度かかるため、水着を着る予定がある場合は、夏までに余裕を持った時期に手術を受けることをお勧めします。
アポクリン汗腺は思春期に発達するため、手術を受ける年齢としては、女性は14歳以上、男性は16歳以上が目安とされています。アポクリン汗腺が未発達な状態で手術を行うと、術後に汗腺が発達して再発する可能性があります。
10-3. 片側ずつの手術について
多くの医療機関では、ワキガ手術を片側ずつ行うことを推奨しています。これには以下の理由があります。
片側ずつ行うことで、十分な手術時間を確保し、確実にアポクリン汗腺を除去することができます。両側同時に行うと、手術時間が限られ、十分な処置ができない可能性があります。
また、両側同時に手術を行うと、術後に両腕の動きが制限され、日常生活に大きな支障が出ます。片側ずつであれば、手術していない側の腕は使えるため、ある程度の日常生活は維持できます。
通常、片側の手術後、2〜4週間程度の間隔をあけてから、もう片側の手術を行います。
10-4. 期待できる効果と限界
皮弁法によるワキガ手術では、術前と比較して80〜90%程度の臭いの改善が期待できます。多くの方が、術後は臭いが気にならなくなったと実感しています。
ただし、臭いが100%完全になくなるわけではありません。これは、手術部位以外の周辺にもわずかながらアポクリン汗腺が存在すること、また取りすぎると皮膚が薄くなりすぎるリスクがあるため、全てを除去することが難しいことが理由です。
また、ワキガ臭がなくなった後、別の体臭(皮脂臭など)が気になるようになるケースもあります。これは、ワキガ臭がなくなったことで、相対的に他の臭いが感じられやすくなるためと考えられています。

11. まとめ
ワキガ(腋臭症)は、アポクリン汗腺から分泌される汗が皮膚の常在菌によって分解されることで発生する、特有の体臭です。日本人の約10%がワキガ体質とされており、遺伝的要因が大きく関与しています。
ワキガ体質かどうかは、耳垢の状態、衣類の黄ばみ、家族歴、ガーゼテストなどでセルフチェックすることができます。ただし、正確な診断は医師の診察を受けることが必要です。
ワキガの治療には様々な方法がありますが、根本的な治療として最も効果が高いのは皮弁法(剪除法)による手術です。医師が直接目で確認しながらアポクリン汗腺を除去するため、高い治療効果が期待できます。また、保険適用されるため、費用を抑えて治療を受けることができます。
手術を検討する際は、経験豊富な形成外科専門医が在籍する医療機関を選び、メリット・デメリットを十分に理解したうえで決断することが大切です。術後は医師の指示に従って安静を守り、適切なケアを行うことで、良好な経過が期待できます。
ワキガに悩んでいる方は、一人で抱え込まずに、専門の医療機関に相談することをお勧めします。正しい知識と適切な治療により、ワキガの悩みから解放され、自信を持った日常生活を送ることができるようになります。
12. 参考文献
- 公益社団法人日本皮膚科学会「汗の病気―多汗症と無汗症― Q5」
https://qa.dermatol.or.jp/qa32/q05.html - 科学技術振興機構(JST)「ヒトの耳垢型がABCC11遺伝子の一塩基の変化で決定されることを発見」
https://www.jst.go.jp/pr/info/info248/index.html - 日本医科大学武蔵小杉病院 形成外科「ワキガ(腋臭症)の治療〜ニオイの診断と手術~」
https://www.nms.ac.jp/kosugi-h/section/plastic-surgery/guide_wakiga.html - 厚生労働省「診療報酬点数表 K008 腋臭症手術」
https://shirobon.net/medicalfee/latest/ika/r06_ika/r06i_ch2/r06i2_pa10/r06i2a_sec1/r06i2a1_sub1/r06i2a11_cls1/r06i2a111_K008.html - 公益社団法人日本皮膚科学会「一般公開ガイドライン」
https://www.dermatol.or.jp/modules/guideline/index.php?content_id=2 - Yoshiura K, Kinoshita A, Ishida T, et al. A SNP in the ABCC11 gene is the determinant of human earwax type. Nat Genet 38, 324-330 (2006).
- Liu Q, Zhou Q, Song Y, et al. Surgical subcision as a cost-effective and minimally invasive treatment for axillary osmidrosis. J Cosmet Dermatol 9: 44-9, 2010
- Qian JG, Wang XJ. Effectiveness and complications of subdermal excision of apocrine glands in 206 cases with axillary osmidrosis. J Plast Reconstr Aesthet Surg, 63: 1003-7, 2010
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務