現代社会において、ストレスは避けて通れない存在となっています。仕事や人間関係、経済的な問題、健康への不安など、私たちは日々さまざまなストレス要因に直面しています。適切に対処されないストレスは、心身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。本記事では、医学的なエビデンスに基づいた効果的なストレス発散方法について、詳しく解説していきます。

ストレスとは何か
ストレスという言葉は日常的に使われていますが、その正確な意味を理解することが、適切な対処への第一歩となります。厚生労働省のe-ヘルスネットによると、ストレスとは外部からの刺激などによって体の内部に生じる反応のことを指します。
ストレスの原因となる外的刺激をストレッサーといい、暑さ寒さや有害物質などの物理的・化学的なもの、病気や飢え・睡眠不足などの生理的なもの、職場や家庭における不安・緊張・恐怖・怒りなど心理的・社会的なものなどがあります。特に現代社会では、心理的・社会的ストレスが大きな比重を占めているとされています。
ストレスが心身に与える影響
ストレスが生じると、体内ではそれを解消しようとする防御反応が働きます。しかし、同じストレッサーでも、受け止める人によって良いストレスになるか悪いストレスになるかが大きく異なります。ストレッサーをうまく制御できなかった場合には、不適応を起こして身体にさまざまな影響が現れます。
身体面での影響としては、消化性潰瘍や高血圧、気管支喘息などの心身症が挙げられます。精神面においては、不安や抑うつ、錯乱状態などのさまざまな反応性精神障害を引き起こす可能性があります。また、心的外傷後ストレス障害(PTSD)や急性ストレス反応なども、ストレスによる不適応反応の一つとされています。
慢性的なストレス状態が続くと、肥満、高血圧、2型糖尿病、心疾患や脳血管障害の発症リスクが上昇することも明らかになっており、死亡率の上昇にも関与することが研究で示されています。
運動によるストレス発散
運動は、最も効果的で科学的根拠が確立されているストレス発散方法の一つです。厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動基準2013」では、身体活動や運動が生活習慣病の罹患率や死亡率を低下させるとともに、気分転換やストレス解消につながり、メンタルヘルスの改善にも効果があるとされています。
運動がストレス解消に効果的な理由
運動を行うことで、心を安定化させる働きをもつセロトニンやエンドルフィンといった脳内物質が分泌されます。セロトニンは精神の安定や安心感、平常心を保ち、頭の回転をよくして直観力を上げるなど、脳を活発に働かせる鍵となる物質です。特にストレスに対して効能があり、自らの体内で自然に生成されるもので、精神安定剤とよく似た分子構造をしています。
エンドルフィンは痛みの緩和、免疫力向上、リラックス効果など、気分を良くするホルモンです。運動によって交感神経が優位である時間が長くなり、ポジティブになりやすいことも分かっています。
また、運動は睡眠リズムを整える作用ももたらします。ストレスが溜まると、寝ようと思って布団に入っても考えごとをしてしまい、寝付きが悪くなりがちです。しかし、運動をすることで適度な疲労感を身体に与えると、スムーズに入眠しやすくなり、睡眠の質向上にもつながります。
効果的な運動の種類と方法
健康長寿ネットによると、ウォーキング、軽いランニングやサイクリング、ダンスなどの有酸素運動がストレス緩和に適しているとされています。気分転換のために外に出て散歩をすることや、リラックス効果が得られる緑の多い公園で活動的に過ごすことも推奨されています。
運動強度は、身体が温まり、軽く汗ばむ程度で、「ああ、スッキリした」と思えるぐらいが適切です。運動時間は1日20分を目安にして、1回にたくさん運動を行うよりも継続することが大切だとされています。
また、腹式呼吸でリラクゼーション効果の得られるヨガや、筋肉の柔軟性が促され、血流が改善することで筋肉のコリをほぐす作用のあるストレッチなどもおすすめです。
運動実践のポイント
厚生労働省のこころもメンテしようでは、身体を動かすことから始めることを推奨しています。東京医科大学精神医学分野の研究によると、一般就労者を対象にした調査で、精神的健康の維持において1日あたり3.5~4時間程度、単なる歩行や家事も含めて何らかの形で体を動かすことが望ましいことが明らかになっています。
ただし、運動を一生懸命に行いすぎてしまうと、かえって疲労し、次の日の生活にも差し支えてしまいます。無理せず、焦らず、やり過ぎずに適度な運動を続けるようにしましょう。
良質な睡眠によるストレス対策
睡眠は、ストレス対策において極めて重要な役割を果たします。厚生労働省は2024年2月に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を発表し、良質な睡眠が生活習慣病や精神疾患の予防、事故の防止、職場におけるパフォーマンスや生産性の向上につながることを示しています。
睡眠とメンタルヘルスの関係
日本で成人を対象とした研究では、睡眠による休養感が低い者ほど、抑うつの度合いが強いことを示唆する結果が出ています。睡眠の質は「睡眠休養感」と表現され、睡眠によって十分に休養が取れていると感じることが重視されています。
睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛などの心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連する作業効率の低下などを招きます。また、うつ病などの精神疾患においても、発症初期から睡眠の問題が認められることが多いことが知られています。
良質な睡眠のための推奨事項
健康づくりのための睡眠ガイド2023では、成人に対して以下の推奨事項が示されています。
まず、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保することが重要です。適正な睡眠時間には個人差がありますが、6時間以上を目安として自分に合った睡眠時間を確保しましょう。
次に、食生活や運動などの生活習慣や寝室の睡眠環境などを見直して、睡眠休養感を高めることが推奨されています。睡眠休養感の低下が、肥満、糖尿病、脂質異常症を含めた代謝機能障害と関連することが分かっています。心の健康にも、睡眠休養感が大きく影響します。
睡眠の質を高める生活習慣
睡眠休養感を高めるためには、以下のような点に注意が必要です。
睡眠不足を避けることはもちろん、日中のストレスへの対処、就寝直前の食事を避けること、朝食をしっかり摂ること、運動不足を解消することなどが重要です。また、寝室の環境を整えることも大切で、光、温度、音の3つの要素を考慮した環境づくりが推奨されています。
規則正しい生活習慣は睡眠の質を高めます。日中の活動と夜間の休息・睡眠のメリハリをつけることが、良質な睡眠には欠かせません。
リラクゼーション技法
リラクゼーション技法は、心身の緊張を和らげ、ストレス反応を軽減するための有効な方法です。厚生労働省のこころの耳でも、さまざまなストレス軽減のノウハウが紹介されています。
深呼吸と腹式呼吸
呼吸法は、いつでもどこでも実践できる手軽なリラクゼーション技法です。特に腹式呼吸は、副交感神経を活性化し、心身の緊張を和らげる効果があります。ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口からゆっくりと吐き出すことを繰り返すことで、自律神経のバランスが整い、リラックス状態を作り出すことができます。
ストレッチとヨガ
デスクワークが多い方や肩こり・腰痛に悩む方には、ストレッチやヨガが特におすすめです。これらの活動は、筋肉の柔軟性を高め、血流を改善することで筋肉のコリをほぐす効果があります。また、呼吸を意識しながら行うことで、リラクゼーション効果が高まります。
食生活とストレス対策
適切な食生活は、ストレスへの抵抗力を高める上で重要な役割を果たします。厚生労働省のこころの耳では、「食う・寝る・遊ぶの充電法」として、ストレス対処法における生活習慣の重要性が説明されています。
栄養バランスの重要性
ストレスによって消費されやすいビタミンB群やビタミンC、マグネシウムなどの栄養素を十分に摂取することが大切です。また、セロトニンの原料となるトリプトファンを含む食品(大豆製品、乳製品、バナナなど)を意識的に摂取することも効果的です。
朝食を抜くことは睡眠休養感を低下させる要因となるため、規則正しく3食を摂ることが推奨されます。また、就寝直前の食事は睡眠の質を低下させるため、就寝の2~3時間前までには食事を済ませることが望ましいとされています。
嗜好品との付き合い方
カフェインやアルコールなどの嗜好品は、適量であれば気分転換に役立ちますが、過度な摂取はストレス対策として逆効果になることがあります。特に就寝前のカフェイン摂取は睡眠の質を低下させるため、夕方以降は控えることが推奨されています。
アルコールは一時的に入眠を助けるように感じられますが、睡眠の質を低下させ、中途覚醒を増やす原因となります。ストレス解消のための飲酒は、かえって睡眠の問題を悪化させる可能性があるため注意が必要です。
趣味・レジャー活動
趣味やレジャー活動は、心理的なストレスから一時的に離れ、気分転換を図る効果的な方法です。自分が楽しいと感じる活動に取り組むことで、ストレス反応を軽減し、心の健康を保つことができます。
創造的活動の効果
絵を描く、楽器を演奏する、手芸をするなどの創造的な活動は、集中力を高め、達成感を得られることで自己肯定感の向上につながります。また、創造的な活動に没頭することで、日常のストレスから心を解放する効果があります。
自然とのふれあい
緑の多い公園での散歩や、森林浴などの自然環境での活動は、リラックス効果が高いことが研究で示されています。自然の中で過ごす時間を持つことは、心身のストレス反応を軽減し、回復力を高める効果があります。
社会的つながりとコミュニケーション
人との良好な関係性は、ストレスへの抵抗力を高める重要な要素です。信頼できる人と悩みを共有したり、楽しい時間を過ごしたりすることは、ストレス軽減に効果的です。
傾聴の重要性
厚生労働省のこころの耳では、「話を聴く~積極的傾聴とは~」として、コミュニケーションの重要性が説明されています。自分の気持ちを誰かに話すことで、気持ちの整理がつき、ストレスが軽減されることがあります。
また、他者の話に耳を傾けることも、良好な人間関係を築く上で重要です。職場や家庭において、お互いに支え合える関係性を構築することが、ストレス対策として有効です。
孤立を避ける
社会的孤立は、ストレスへの脆弱性を高める要因となります。家族、友人、同僚などとの定期的な交流を持つことで、心理的なサポートを得ることができます。必要に応じて、地域のコミュニティ活動やサークルなどに参加することも検討しましょう。
認知行動的アプローチ
ストレスへの対処方法として、考え方や受け止め方を変えることも効果的です。同じ出来事でも、どのように受け止めるかによって、ストレス反応の強さは大きく変わります。
ストレス思考パターンの認識
完璧主義的な考え方、白黒思考、破滅的思考などは、ストレスを増大させる要因となります。自分の考え方のクセに気づき、より柔軟で現実的な考え方に修正していくことが重要です。
問題解決志向のアプローチ
ストレス要因に対して、何ができるかを具体的に考え、実行可能な対策を立てることも有効です。すぐに解決できない問題については、長期的な視点で段階的に取り組む計画を立てることが大切です。
日常生活で実践できる具体的な方法
ここまで説明してきたストレス発散方法を、日常生活の中で実践するための具体的なヒントを紹介します。
朝のルーティン
朝、起床後すぐに太陽の光を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の良質な睡眠につながります。朝食をしっかり摂り、軽いストレッチや深呼吸を行うことで、一日を前向きにスタートすることができます。
仕事の合間のリフレッシュ
デスクワークが続く場合は、1時間に一度は席を立ち、軽いストレッチや短い散歩を行いましょう。深呼吸を数回行うだけでも、緊張がほぐれ、集中力を回復させることができます。
帰宅後のリラックスタイム
仕事から帰宅したら、意識的にリラックスする時間を設けましょう。好きな音楽を聴く、入浴でゆっくり体を温める、趣味の時間を持つなど、自分なりのリラックス方法を見つけることが大切です。
休日の過ごし方
休日は、平日のストレスを解消する貴重な時間です。過度に寝すぎることは逆効果となるため、規則正しい生活リズムを保ちながら、運動や趣味、社会的活動などに時間を使いましょう。
専門家の助けが必要な場合
ストレス対策を実践しても症状が改善しない場合や、日常生活に支障をきたすほどの症状がある場合は、専門家に相談することが重要です。
受診を検討すべきサイン
以下のような症状が2週間以上続く場合は、医療機関への受診を検討しましょう。
- 持続的な気分の落ち込みや不安感
- 睡眠障害(不眠または過眠)が続く
- 食欲の著しい低下または増加
- 集中力や判断力の著しい低下
- 身体症状(頭痛、胃痛、動悸など)が続く
- 日常生活や仕事に支障が出ている
相談窓口の活用
厚生労働省のこころの耳では、働く人のメンタルヘルスに関する相談窓口の情報が提供されています。また、各地域の保健所や精神保健福祉センターでも、メンタルヘルスに関する相談を受け付けています。
職場によっては、産業医や保健師による健康相談サービスが利用できる場合もあります。まずは気軽に相談してみることが、早期対応につながります。
ストレスチェックの活用
労働安全衛生法に基づき、従業員50人以上の事業場では年1回のストレスチェックが義務付けられています。厚生労働省のストレスチェック制度では、実施方法や活用方法について詳しい情報が提供されています。
ストレスチェックを通じて、自分のストレス状態を客観的に把握することができます。結果を参考に、自分に合ったストレス対策を見つけることが重要です。また、高ストレス者と判定された場合は、医師による面接指導を受けることができます。

まとめ
ストレスは現代社会において避けることのできないものですが、適切な対処方法を知り、実践することで、その影響を最小限に抑えることができます。
本記事で紹介したストレス発散方法の中から、自分に合った方法を選び、日常生活の中で継続的に実践することが大切です。特に重要なポイントをまとめると以下の通りです。
- 定期的な運動:1日20分程度の軽い運動を習慣化する
- 良質な睡眠:6時間以上の睡眠時間を確保し、睡眠休養感を高める
- バランスの取れた食生活:規則正しく栄養バランスの良い食事を摂る
- リラクゼーション:深呼吸、ストレッチ、ヨガなどを日常的に取り入れる
- 趣味や社会的活動:楽しめる活動や人とのつながりを大切にする
これらの方法は、一度に全て完璧に実践する必要はありません。できることから少しずつ始め、自分のペースで続けていくことが重要です。また、セルフケアで対応できない場合は、早めに専門家に相談することも大切です。
ストレスと上手に付き合いながら、心身ともに健康な生活を送るために、本記事で紹介した方法をぜひ実践してみてください。
参考文献
- 厚生労働省「e-ヘルスネット:ストレス」
- 厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」
- 厚生労働省「ストレス軽減ノウハウ」
- 厚生労働省「こころもメンテしよう:体を動かす」
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 厚生労働省「ストレス対処法としての生活習慣」
- 厚生労働省「ストレスチェック制度について」
- 公益財団法人 長寿科学振興財団「健康長寿ネット:ストレス緩和の運動とは」
- 公益社団法人日本看護協会「個人での対応(セルフケア)」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務