はじめに
お昼ごはんを食べた後、どうしても眠くなってしまう。午後の仕事や勉強に集中できず、困っている。そんな経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。食後の眠気は、多くの人が日常的に経験する現象です。
しかし、この眠気があまりにも強い場合や、毎日のように繰り返される場合は、単なる生理現象ではなく、何らかの健康上の問題が隠れている可能性もあります。特に近年注目されている「血糖値スパイク」は、放置すると糖尿病などの深刻な病気につながるリスクもあるため、注意が必要です。
この記事では、食後の眠気がなぜ起こるのか、そのメカニズムを医学的に解説するとともに、眠気を軽減するための具体的な対策方法、そして医療機関を受診すべきサインについて、わかりやすくお伝えします。食後の眠気に悩んでいる方は、ぜひ最後までお読みください。

食後の眠気が起こる4つのメカニズム
食後に眠気を感じるのは、体の中でさまざまな生理的変化が起きているためです。主に以下の4つのメカニズムが関係しています。
1. 血糖値の変動による影響
食後の眠気に最も大きく関わっているのが、血糖値の変動です。
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖(グルコース)の濃度のことを指します。ブドウ糖は体内でエネルギー源として利用される重要な物質で、特に脳細胞はエネルギーを主にブドウ糖から得ています。
食事を摂ると、食べ物に含まれる炭水化物が消化・吸収されてブドウ糖に変換され、血液中に取り込まれます。その結果、血糖値が上昇します。特に、ご飯やパン、麺類などの炭水化物を多く含む食事を摂ると、血糖値は急激に上昇する傾向があります。
厚生労働省のe-ヘルスネットによると、健康な人の空腹時血糖値は70~110mg/dL程度とされています。食事を摂ると誰でも一時的に血糖値が上昇しますが、健康な人の場合、食後30分~1時間でピークを迎え、その後2時間以内に正常値に戻ります。
この血糖値の上昇に対応するため、膵臓から「インスリン」というホルモンが分泌されます。インスリンは血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませ、エネルギーとして利用させる働きをします。また、余ったブドウ糖を脂肪などに変換して体内に蓄える働きも促します。これらの働きにより、インスリンは血糖値を低下させる役割を果たしています。
しかし、特に炭水化物を大量に摂取した場合、血糖値が急激に上昇し、それに反応して大量のインスリンが分泌されることがあります。その結果、血糖値が急激に下降し、一時的に低血糖状態になることがあります。この血糖値の乱高下によって、強い眠気や倦怠感が引き起こされるのです。
また、最近の研究では、血糖値が高くなると、脳内で覚醒を促す神経伝達物質である「オレキシン」の分泌が抑制されることが分かっています。オレキシンは全身の栄養状態をモニターしており、血糖値が高くなるとこの神経活動がオフになり、眠気が襲ってくるというメカニズムも関係していると考えられています。
2. 消化活動による血流の変化
食事をすると、胃や小腸などの消化器官が食べ物を分解して栄養素を吸収するために、活発に働き始めます。この消化活動には多くのエネルギーが必要となるため、体内の血液が消化器官に集中します。
その結果、相対的に脳や筋肉への血液供給が一時的に減少し、脳への酸素や栄養素の供給も低下します。これは、体が食べ物の消化に優先的にリソースを割り当てている状態といえます。この脳への血流低下が、頭がぼんやりしたり、眠気を感じたりする原因の一つとなっています。
特に、高脂肪や高タンパク質の食事は消化に時間がかかるため、これらを多く含む食事の後は眠気が強くなる傾向があります。揚げ物やステーキなどのボリュームのある食事の後に眠気を感じやすいのは、このためです。
また、食べ過ぎや早食いによって胃腸に過度な負担がかかると、消化活動がさらに活発になり、より多くの血液が消化器官に集中します。その結果、脳への血流がさらに減少し、眠気が強まることになります。
3. 自律神経の働き
食後に眠気を感じるもう一つの重要な要因が、自律神経の働きです。
自律神経は、意識せずとも体の機能を調整している神経で、交感神経と副交感神経の2つに分けられます。
- 交感神経:活動的なときに優位になり、心拍数を上げ、血圧を上昇させ、体を「戦闘モード」にします
- 副交感神経:リラックスしているときや休息時に優位になり、心拍数を下げ、消化活動を促進し、体を「休息モード」にします
食事を摂ると、消化を促進するために副交感神経が優位になります。副交感神経が優位になると、体がリラックスモードに入り、自然と眠気を感じやすくなります。これは健康な人でも起こる生理的な反応であり、食後の眠気の大きな要因となっています。
特に、満腹になるまで食べた場合は、副交感神経がより強く働くため、眠気やだるさをより強く感じることになります。
4. ホルモンの影響
食事によって引き起こされるホルモンの変化も、食後の眠気に関係しています。
特に注目されているのが「セロトニン」というホルモンです。セロトニンは「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神の安定に関わる重要な神経伝達物質ですが、同時に眠気を誘発する作用もあります。
食事、特に炭水化物を摂取すると、脳内でセロトニンの分泌が促進されます。さらに、セロトニンは体内で最終的に「メラトニン」(睡眠ホルモン)に変換されるため、眠気がさらに強まる可能性があります。
また、炭水化物を多く摂取すると、トリプトファンというアミノ酸が脳内に入りやすくなり、これがセロトニンの原料となるため、さらに眠気を感じやすくなるという仮説もあります。
このように、食後の眠気には複数のメカニズムが複雑に絡み合っています。ある程度の眠気は自然な生理現象ですが、日常生活に支障をきたすほどの強い眠気がある場合は、注意が必要です。
血糖値スパイクとは?危険なサインかもしれません
食後の眠気が特に強い場合、「血糖値スパイク」が起きている可能性があります。血糖値スパイクは、健康リスクを高める危険な状態であり、近年注目されている健康問題の一つです。
血糖値スパイクのメカニズム
血糖値スパイクとは、食事の前後で血糖値が急激に上昇し、その後急激に低下する状態を指します。血糖値の変動がグラフで見ると尖った「とげ(スパイク)」のような形になることから、この名称がついています。
厚生労働省のe-ヘルスネットでは、食後2時間が過ぎても血糖値が140mg/dL以上の高い状態が続くことを「食後高血糖」と定義しています。通常の健康診断では空腹時の血糖値しか測定しないため、血糖値スパイクの有無を判断することは困難です。そのため、「隠れ糖尿病」とも呼ばれ、気づかないうちに進行してしまうリスクがあります。
血糖値スパイクは以下のようなメカニズムで起こります:
- 長時間の空腹状態:朝食を抜いたり、食事の間隔が長く空いたりすると、低血糖の状態が続きます
- 急激な糖質摂取:その後、炭水化物を多く含む食事を摂ると、血糖値が急激に上昇します
- インスリンの過剰分泌:急激な血糖値上昇に対応するため、膵臓から大量のインスリンが分泌されます
- 急激な血糖値低下:大量のインスリンによって、血糖値が急激に下がり、低血糖状態になります
この血糖値の乱高下により、食後に強い眠気やだるさ、めまい、気分の悪さなどが引き起こされることがあります。
血糖値スパイクが起きやすい人の特徴
以下のような生活習慣がある方は、血糖値スパイクが起きやすいとされています:
- 朝食を抜くことが多い:ダイエット中の方や、忙しくて朝食を食べる時間がない方
- 食事の時間が不規則:仕事や家事で食事の時間が決まっていない方
- 炭水化物に偏った食事:ラーメン・チャーハン、パスタ・パン、蕎麦・丼ものなど、炭水化物中心の食事をすることが多い方
- 早食いや大食いの習慣:短時間で大量に食べてしまう方
- 野菜や食物繊維の摂取が少ない:野菜をあまり食べない食生活の方
- 運動不足:日常的に運動する習慣がない方
血糖値スパイクの健康リスク
血糖値スパイクを繰り返すと、以下のような深刻な健康リスクが高まります:
1. 糖尿病のリスク上昇
血糖値スパイクが繰り返されると、膵臓が疲弊し、インスリンの分泌量が徐々に減少していきます。また、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が生じることもあります。その結果、正常に血糖値を処理できなくなり、最終的には糖尿病へとつながる危険性があります。
2. 動脈硬化と心血管疾患
血糖値の急激な変動は、動脈硬化を引き起こす大きな要因となります。動脈硬化とは、動脈の血管が硬くなり、弾力性が失われた状態をいいます。動脈硬化が心臓や脳の太い血管に生じると、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な病気を招く可能性が高まります。
3. 自律神経の乱れ
血糖値の急上昇後に急下降が起こると、体は低血糖という危機的状態を回避しようとして、血糖値を上昇させるために交感神経を過剰に興奮させます。これが繰り返されると、交感神経と副交感神経の切り替えがうまくいかなくなり、自律神経失調症のような症状が現れることがあります。
4. 認知機能への影響
最近の研究では、血糖値スパイクが認知機能の低下や、将来的な認知症のリスクを高める可能性も指摘されています。
血糖値スパイクの検査方法
血糖値スパイクを正確に判断するためには、通常の健康診断とは異なる検査が必要です。
最も正確な検査方法は「75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)」です。これは、10時間以上の絶食後、空腹時に75gのブドウ糖を含む液体を飲み、その後30分・60分・90分・120分後に採血をし、血糖値の変化を測定する検査です。この検査により、食後の血糖値の推移を詳しく調べることができます。
また、最近では血糖値を連続的に測定できる「持続血糖モニター(CGM)」という装置も普及してきており、より詳細な血糖値の変動パターンを知ることができます。
食後に強い眠気を感じることが多い方、特に眠気以外にもだるさやめまい、集中力の低下などの症状がある方は、一度医療機関で血糖値の検査を受けることをおすすめします。
食後の眠気が示す病気の可能性
食後の眠気があまりにも強い場合や、毎日のように繰り返される場合は、何らかの疾患が隠れている可能性も考慮する必要があります。ここでは、食後の眠気に関連する主な疾患について解説します。
1. 糖尿病
食後の強い眠気は、糖尿病の初期症状の一つである可能性があります。
糖尿病とは、インスリンの分泌量が減ったり、インスリンの効きが悪くなったりすることにより、血糖値が高い状態が慢性的に続く病気です。糖尿病の方は、血糖値を下げるインスリンが正常に働かないため、食後の血糖値が高い状態が続きます。
また、覚醒を促すホルモンであるオレキシンが分泌されなくなることもあり、食後に極度の眠気を感じます。さらに、インスリンの分泌が低下したり、インスリンの働きが弱まったりすると、細胞内にブドウ糖を取り込めず、細胞がエネルギー不足(飢餓状態)になります。いくら食べて満腹になっても、実は細胞にエネルギーが届かないため、細胞は常に空腹の状態になり、倦怠感や眠気を引き起こします。
糖尿病を疑うべき症状
食後の眠気に加えて、以下のような症状がある場合は、糖尿病の可能性を考慮すべきです:
- 異常な喉の渇き
- 頻尿(特に夜間)
- 体重の急激な減少または増加
- 傷が治りにくい
- 視力の低下やかすみ
- 手足のしびれ
- 疲れやすさ、倦怠感
これらの症状に心当たりがある方は、早めに医療機関を受診し、血糖値の検査を受けることをおすすめします。
2. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が何度も止まる病気です。医学的には、10秒以上息が止まる状態を無呼吸といい、平均して1時間に5回以上、睡眠中に無呼吸が見られる場合、この疾患と診断されます。
睡眠時無呼吸症候群の方は、夜間の睡眠の質が著しく低下するため、日中に強い眠気を感じやすくなります。特に、食後はその影響が現れやすい時間帯であり、食事をしていないときでも、昼食後などに我慢できないほどの眠気に襲われることがあります。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状
- 激しいいびき
- 就寝中に息が止まっていると指摘される
- 夜中に何度も目が覚める
- 起床時の頭痛や口の渇き
- 日中の強い眠気
- 集中力や記憶力の低下
- 疲労感、倦怠感
- 夜間頻尿
睡眠時無呼吸症候群は、放置すると高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病などの合併症を引き起こすリスクが高まります。また、日中の眠気による事故のリスクも無視できません。実際に、睡眠時無呼吸症候群を背景とした交通事故は多数報告されています。
いびきや無呼吸を家族に指摘された方、日中に強い眠気を感じる方は、早めに医療機関(呼吸器内科、循環器内科、耳鼻咽喉科など)を受診することをおすすめします。
3. 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの分泌が低下することで、全身の代謝が低下する病気です。この病気では、体がエネルギーを作り出す能力が低下するため、常に疲労感や眠気を感じるようになります。
食後は特に、消化活動にエネルギーが使われるため、さらに眠気が強まることがあります。
甲状腺機能低下症の主な症状
- 疲労感、倦怠感
- 日中の眠気
- 寒がり、体温の低下
- 体重増加
- むくみ
- 便秘
- 皮膚の乾燥
- 抜け毛
- 記憶力や集中力の低下
- 抑うつ気分
これらの症状に心当たりがある方は、内科や内分泌内科を受診し、甲状腺機能の検査を受けることをおすすめします。
4. 食後低血圧
食後低血圧とは、食後に血圧が低下してしまう症状です。脳の血流も低下するため、眠気を感じることがあります。その他の症状には、めまい、立ちくらみ、体のだるさ、失神などがあります。
高齢者に多く見られる症状で、原因ははっきりと解明されていませんが、食事によって内臓に血液が集中し、脳への血液が不足してしまうことが有力な原因の一つと考えられています。
5. ナルコレプシーなどの過眠症
ナルコレプシーは、日中に強い眠気に繰り返し襲われる病気です。突然の脱力感(情動脱力発作)、金縛り、入眠時幻覚などの症状が見られることもあります。
また、突発性過眠症は、眠気が1日中続く病気で、長時間眠っても眠気が取れないという特徴があります。
これらの過眠症は、食後に限らず日中の様々な場面で強い眠気に襲われるため、日常生活や仕事に大きな支障をきたします。専門的な検査と治療が必要な疾患です。
6. その他の要因
その他、以下のような要因も食後の眠気に関係することがあります:
- 月経前症候群(PMS):月経前の3~10日ほどの期間に、眠気を含む様々な心身の症状が現れます
- うつ病:不眠や睡眠障害を伴うことが多く、日中に強い眠気を感じることがあります
- 薬の副作用:抗ヒスタミン薬(花粉症の薬など)や一部の精神科の薬は、副作用として眠気を引き起こすことがあります
- 慢性的な睡眠不足:単純に夜間の睡眠が不足している場合も、食後に眠気が強まります
食後の眠気を防ぐ7つの対策
食後の眠気を軽減するためには、日々の食事習慣や生活習慣を見直すことが重要です。ここでは、具体的な対策方法を7つご紹介します。
1. 食べる順番を工夫する
食事の順番を工夫することで、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。
推奨される食べる順番:
- 野菜・海藻・きのこ類(食物繊維):最初に5分以上かけて食べる
- 肉・魚・卵・大豆製品(タンパク質):次に食べる
- ご飯・パン・麺類(炭水化物):最後に食べる
野菜に含まれる食物繊維は、腸壁をコーティングし、後から入ってくる糖質の吸収を穏やかにする作用があります。その結果、血糖値の急上昇を防ぎ、血糖値スパイクを起こりにくくすることができます。
また、副菜を食べてから主食までの時間を少し空けることで、食物繊維の効果がより発揮されやすくなります。ただし、副菜だけで満腹になりがちな方や、筋肉量の低下が気になる方は、副菜と主菜(タンパク質)を同時に食べるのも良い方法です。
2. よく噛んでゆっくり食べる
早食いは血糖値の急上昇を招く大きな要因です。よく噛んでゆっくり食べることで、以下のような効果が期待できます:
- 血糖値の上昇が緩やかになる:ゆっくり食べることで、糖質の吸収速度が遅くなります
- インスリンやGLP-1の分泌が促進される:よく噛むことで、血糖値を下げる働きをするホルモンが分泌されやすくなります
- 満腹中枢が刺激される:よく噛むことで満腹感を得やすくなり、食べ過ぎを防ぐことができます
厚生労働省も「噛ミング30」をキャッチフレーズに、1口30回噛むことを推奨しています。これは、肥満予防や生活習慣病予防を目的としたものですが、血糖値対策としても有効です。
目安として、1口20~30回以上噛むことを意識し、一食あたり20~30分かけて食べることを目標にしましょう。
3. 糖質の量を適度にコントロールする
血糖値を上げるのは主に糖質(炭水化物)です。糖質を摂り過ぎないことを心掛けましょう。
糖質は、ご飯やパン、麺類といった主食のほか、砂糖や甘いもの、果物類、いも類などに多く含まれています。これらの食品の食べ過ぎには要注意です。
ただし、糖質は脳や神経のエネルギー源となる重要な栄養素です。不足すると集中力の低下や疲労感、意識障害などの原因となる恐れがあります。
厚生労働省は、炭水化物(糖質)から摂取するエネルギー量を1日の総エネルギー摂取量の50~65%にするという目標量を設定しています。極端な糖質制限は避け、適度な量を摂取することが大切です。
糖質コントロールのポイント:
- 主食の量を少し減らす(ご飯なら茶碗8分目程度)
- 炭水化物の重ね食べを避ける(ラーメン+チャーハン、パスタ+パンなど)
- 甘い飲み物やお菓子を控える
- 低GI食品を選ぶ(玄米、全粒粉パン、蕎麦など)
4. バランスの良い食事を心がける
タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取することで、急激なホルモン変動を抑えることができます。
バランスの良い食事のポイント:
- タンパク質:肉、魚、卵、大豆製品などを毎食取り入れる。タンパク質は血糖値の上昇を緩やかにする効果があります
- 野菜・海藻・きのこ:食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富で、血糖値の急上昇を防ぎます
- 良質な脂質:オメガ3脂肪酸を含む青魚、ナッツ類、オリーブオイルなどを適量摂取する
- 発酵食品:味噌、納豆、ヨーグルトなどの発酵食品は腸内環境を整え、代謝の改善に役立ちます
5. 規則正しい食事時間を守る
食事の間隔があくと、血糖値の急激な変化が起こりやすくなります。特に、朝食を抜くと血糖値が上下しやすくなることが分かっています。
規則正しい食事のポイント:
- 1日3食を規則正しく摂る
- 朝食は必ず食べる
- 食事の間隔は4~5時間程度に保つ
- 欠食後のドカ食いを避ける
朝食を抜くことが多い方は、まずは朝食を食べる習慣をつけることから始めましょう。忙しい朝は、バナナとヨーグルト、おにぎりと味噌汁など、簡単なもので構いません。
6. 食後に軽い運動をする
食後に運動をすると、食べ物に含まれるブドウ糖がエネルギーとして消費されるため、食後血糖値の上昇が抑えられます。また、余分なブドウ糖が脂肪として蓄えられることも防ぐため、肥満の防止にも効果的です。
食後の運動のポイント:
- タイミング:食後30分~1時間後が最も効果的
- 運動の種類:ウォーキング、軽いストレッチ、階段の昇降など、軽い有酸素運動
- 時間:10~20分程度(20分以上継続すると、体脂肪の燃焼も促進されます)
- 強度:息切れしない程度の強度で、会話ができる程度
ただし、食事直後の激しい運動は胃腸に負担をかけ、消化不良や腹痛の原因となる可能性があるため避けましょう。軽い運動から始めることが重要です。
オフィスで働いている方は、昼食後に外を少し歩く、階段を使う、デスクで軽いストレッチをするなど、できる範囲で体を動かすことを心がけましょう。
7. その他の眠気対策
食事や運動以外にも、以下のような方法で食後の眠気を軽減できます:
カフェインの適度な摂取
コーヒー、緑茶、紅茶などに含まれるカフェインには、中枢神経を刺激し、覚醒感を高める効果があります。食後に適量のカフェイン入り飲料を飲むことで、眠気を軽減できます。
ただし、カフェインの過剰摂取は不快感や不眠症の原因となる可能性があるため、1日の摂取量は400mg以下(コーヒーなら4~5杯程度)に抑えましょう。また、夕方以降のカフェイン摂取は夜間の睡眠に影響するため控えめにしましょう。
ガムを噛む
ガムを噛むと脳の血流が促進され、眠気覚ましになることが研究で分かっています。特に、ミントなど辛味のあるガムをかむと、眠気対策に有効であるという報告もあります。
換気をする
オフィスなど密閉された空間では二酸化炭素が充満しがちです。二酸化炭素には脳の血管を拡張させ、眠気を引き起こす作用があります。定期的に換気をしたり、外に出て新鮮な空気を吸ったりすることで、眠気の軽減が期待できます。
短時間の仮眠
可能であれば、食後に15~30分程度の短い仮眠を取ることも効果的です。短時間でも脳と体を休めることで、気分がスッキリし、午後の作業効率が向上します。ただし、30分以上眠ると深い睡眠に入ってしまい、かえって目覚めが悪くなるため注意が必要です。
明るい光を浴びる
食後に明るい光を浴びることで、メラトニンの分泌を抑制し、眠気を軽減できる可能性があります。可能であれば、昼食後に外に出て日光を浴びることをおすすめします。
医療機関を受診すべきサイン
食後の眠気は多くの場合、生活習慣の改善で対処できます。しかし、以下のような場合は、何らかの疾患が隠れている可能性があるため、医療機関を受診することをおすすめします。
すぐに受診すべき症状
- 食後に我慢できないほどの強い眠気が毎日のように続く
- 眠気とともに、めまい、動悸、冷や汗、手の震えなどの症状がある(低血糖の可能性)
- 異常な喉の渇き、頻尿、体重の急激な変化がある(糖尿病の可能性)
- 食事をしていないときでも、日中に強い眠気に襲われる
- 家族に、いびきや無呼吸を指摘された(睡眠時無呼吸症候群の可能性)
- 起床時に頭痛がある、夜中に何度も目が覚める
- 疲労感、倦怠感が続き、日常生活に支障がある
受診の目安
以下のような状態が2週間以上続く場合は、医療機関への受診を検討しましょう:
- 食後の眠気が強く、仕事や学業に支障が出ている
- 生活習慣を改善しても、眠気が改善しない
- 体重の増加または減少が続いている
- 以前よりも疲れやすくなった
- 集中力や記憶力の低下を感じる
どの診療科を受診すべきか
症状によって適切な診療科が異なります:
- 食後の眠気、血糖値が気になる:内科、内分泌内科、糖尿病内科
- いびき、無呼吸がある:呼吸器内科、循環器内科、耳鼻咽喉科
- 全身の倦怠感、寒がり、体重増加:内科、内分泌内科
- 抑うつ気分、不眠も伴う:精神科、心療内科
かかりつけ医がいる場合は、まずかかりつけ医に相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうのも良い方法です。

まとめ
食後の眠気は、血糖値の変動、消化活動による血流の変化、副交感神経の働き、ホルモンの影響など、複数のメカニズムが関係して起こる現象です。ある程度の眠気は健康な人でも感じる自然な生理現象ですが、日常生活に支障をきたすほどの強い眠気がある場合は注意が必要です。
特に、「血糖値スパイク」と呼ばれる血糖値の急激な上昇と下降は、放置すると糖尿病や心血管疾患などの重大な健康リスクを高める可能性があります。また、睡眠時無呼吸症候群や甲状腺機能低下症など、他の疾患が隠れている場合もあります。
食後の眠気を軽減するためには、以下のような対策が効果的です:
- 食べる順番を工夫する(野菜→タンパク質→炭水化物)
- よく噛んでゆっくり食べる
- 糖質の量を適度にコントロールする
- バランスの良い食事を心がける
- 規則正しい食事時間を守る
- 食後に軽い運動をする
- カフェインの適度な摂取、換気、短時間の仮眠なども活用する
これらの対策を実践しても眠気が改善しない場合や、眠気以外にも気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
食後の眠気は、体からの重要なサインである可能性もあります。日々の生活習慣を見直し、必要に応じて医療機関のサポートを受けながら、健康的な毎日を送りましょう。
参考文献
- 厚生労働省「血糖値」e-ヘルスネット
- 厚生労働省「食後高血糖」e-ヘルスネット
- 厚生労働省「糖尿病を改善するための運動」e-ヘルスネット
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」
- 全国健康保険協会「食後に眠気がでるのはなぜ?」北海道支部コラム
- 独立行政法人国立病院機構 近畿中央呼吸器センター「睡眠時無呼吸症候群」
- 済生会「日中にひどく眠い!それ、睡眠時無呼吸症候群かも…」
- バイオメカニズム学会誌「健常成人が感じる昼間の眠気とその対応について」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務