マラセチアとは?皮膚に潜むカビが引き起こす疾患と治療法を詳しく解説

「背中や胸にニキビのようなブツブツができて、なかなか治らない」「頭皮のフケが気になる」「体に茶色や白っぽいまだら模様のシミができた」——このような症状でお悩みの方は少なくありません。実は、これらの皮膚トラブルには共通する原因があることがあります。それが「マラセチア」という皮膚の常在菌(カビ)です。

マラセチアは私たちの皮膚に普段から存在している真菌(カビ)の一種で、通常は無害です。しかし、さまざまな条件が重なると過剰に増殖し、マラセチア毛包炎や癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎といった皮膚疾患を引き起こすことがあります。これらの疾患はニキビや湿疹と見た目が似ているため、間違ったケアを続けてしまい、症状が改善しないまま長引いてしまうケースも珍しくありません。

この記事では、マラセチアとは何か、マラセチアが関わる皮膚疾患の症状や原因、診断方法、治療法、そして日常生活での予防方法まで詳しく解説します。気になる症状がある方は、ぜひ参考にしてください。

図10

目次

  1. マラセチアとは
  2. マラセチアが引き起こす主な皮膚疾患
  3. マラセチア毛包炎について
  4. 癜風(でんぷう)について
  5. 脂漏性皮膚炎について
  6. マラセチアとアトピー性皮膚炎の関係
  7. マラセチアが増殖しやすい条件と好発部位
  8. マラセチア関連疾患の診断方法
  9. マラセチア関連疾患の治療法
  10. 日常生活での予防とスキンケア
  11. よくある質問(Q&A)
  12. まとめ
  13. 参考文献

この記事のポイント

マラセチア(皮膚常在真菌)の過剰増殖はマラセチア毛包炎・癜風・脂漏性皮膚炎を引き起こす。ニキビと誤認されやすいが抗真菌薬治療が有効で、再発予防には皮膚清潔保持と高温多湿の回避が重要。

🦠 1. マラセチアとは

マラセチア(Malassezia)は、私たちの皮膚に常在する真菌(カビ)の一種です。真菌と聞くと不潔なイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、マラセチアは健康な方の皮膚にも普通に存在しており、成人の90%以上がこの菌を保有しているといわれています。

⚡ マラセチアの特徴

マラセチア属真菌は現在14種類に分類されていますが、人間の皮膚から検出される頻度が高いのはMalassezia globosa(マラセチア・グロボーサ)およびMalassezia restricta(マラセチア・レストリクタ)です。これらは皮膚の常在真菌として私たちと共生しています。

マラセチアには以下のような特徴があります。

  • 脂質を好む性質(脂質要求性)があり、皮脂を栄養源として生息
  • 皮脂腺が発達している部位(頭皮、顔面、胸部、背部など)に多く存在
  • リパーゼという酵素を産生し、皮脂を分解してエネルギー源とする

マラセチアはリパーゼという酵素を産生し、皮脂を分解してエネルギー源としています。この分解過程で生じる遊離脂肪酸が、時として皮膚に炎症を引き起こす原因となります。

👶 マラセチアはいつから皮膚にいるのか

いくつかの研究によると、マラセチアは生後間もなく、主に母親とのスキンシップを通じて赤ちゃんの皮膚に伝播し定着すると考えられています。生後1年間の皮脂量の変化を調べた研究では、皮脂量は生後5日までに増加し、1カ月後に最高値を示した後に減少していくことがわかっています。これはマラセチアが増加し、乳児湿疹や赤ちゃんニキビがみられるようになるタイミングと一致しています。

このように、マラセチアは赤ちゃんの頃から私たちの体に定着し、特別な治療をしない限り生涯にわたって皮膚に存在し続けます。通常は問題を起こしませんが、特定の条件下で過剰に増殖すると、さまざまな皮膚トラブルの原因となります。


Q. マラセチアとはどのような菌ですか?

マラセチアは成人の90%以上が保有する皮膚の常在真菌(カビ)です。脂質を栄養源とし、皮脂腺が発達した頭皮・顔・胸・背中に多く存在します。通常は無害ですが、高温多湿や免疫低下などの条件が重なると過剰増殖し、マラセチア毛包炎・癜風・脂漏性皮膚炎を引き起こします。

🏥 2. マラセチアが引き起こす主な皮膚疾患

マラセチアが関与する皮膚疾患は主に3つあります。

主な疾患一覧

  • マラセチア毛包炎:マラセチアが毛穴(毛包)で増殖して炎症を起こす感染症で、ニキビに似た赤いブツブツが特徴です。主に胸や背中、上腕に発症し、夏場に多くみられます。
  • 癜風(でんぷう):マラセチアが皮膚の表面で過剰に増殖することで生じる感染症で、境界がはっきりした褐色または白色の斑が胸や背中に現れます。かゆみがほとんどないのが特徴です。
  • 脂漏性皮膚炎:マラセチアが直接の原因というわけではありませんが、マラセチアが産生するリパーゼが皮脂を分解し、その分解産物(オレイン酸など)が皮膚に炎症を引き起こすことで発症すると考えられています。頭皮のフケやかゆみ、顔面の赤みなどの症状がみられます。

近年では、マラセチアがアトピー性皮膚炎の増悪因子となる可能性についても注目されており、研究が進んでいます。

日本医真菌学会の疫学調査によると、皮膚真菌症全体の中でマラセチア症が占める割合は約3%程度とされています。白癬(水虫)が87%以上を占める中では少数派ですが、日常診療ではしばしば遭遇する疾患です。

高桑康太 医師・当院治療責任者

マラセチア関連疾患は見た目がニキビや湿疹に似ているため、適切な診断を受けずに市販薬で様子を見る患者さんが多いのが現状です。しかし原因菌が異なるため、通常のニキビ治療薬では改善しません。特に夏場に体にできるブツブツは、その多くがマラセチア毛包炎の可能性があります。早期の適切な診断と治療により、症状は確実に改善しますので、気になる症状があれば専門医にご相談ください。


🔴 3. マラセチア毛包炎について

🎯 マラセチア毛包炎とは

マラセチア毛包炎は、マラセチア属真菌が毛包(毛穴)に侵入して増殖し、炎症を起こす感染症です。見た目がニキビ(尋常性ざ瘡)に似ていることから「体のニキビ」と誤解されやすいですが、原因となる菌がまったく異なります。通常のニキビはアクネ菌(Cutibacterium acnes)が原因であるのに対し、マラセチア毛包炎はマラセチアというカビ(真菌)が原因です。

日本皮膚科学会の皮膚真菌症診療ガイドライン2019によると、夏に体にできるニキビのようなブツブツは、その多くがマラセチア毛包炎であるとされています。

📋 マラセチア毛包炎の症状

マラセチア毛包炎の主な症状は以下の通りです。

  • 毛穴を中心とした小さな赤い丘疹(ブツブツ)や膿疱がみられます
  • ブツブツの大きさがそろっていることが特徴的
  • 白ニキビ(面皰・コメド)がみられない
  • 丘疹の表面はやや光沢があり、テカテカして見える
  • 軽度のかゆみを伴うことが多い

🎯 好発部位

マラセチア毛包炎は主に以下の部位に発症します:

  • 胸部
  • 背部
  • 上腕
  • まれに顔面

🌡️ マラセチア毛包炎の原因

マラセチア毛包炎が発症しやすくなる主な要因:

  • 高温多湿の環境:気温が高くなる夏に発症しやすい
  • 過剰な皮脂分泌:思春期以降の若年層に多い
  • 衣服による蒸れ:通気性の悪い衣服
  • ステロイド薬の使用:免疫機能の低下
  • 免疫機能の低下、糖尿病などの基礎疾患

🔍 ニキビとの見分け方

項目ニキビマラセチア毛包炎
発症部位顔面に多い胸や背中など体幹部
見た目大きさや状態がさまざま同じ大きさの赤いブツブツ
白ニキビありなし
かゆみ通常なし軽いかゆみあり
季節性関係なし夏に多い
治療への反応ニキビ用薬が効く抗真菌薬が必要

Q. マラセチア毛包炎とニキビの違いは何ですか?

マラセチア毛包炎は真菌(カビ)が原因で、通常のニキビはアクネ菌が原因です。症状の違いとして、マラセチア毛包炎は胸・背中に大きさのそろった赤いブツブツが現れ、白ニキビ(面皰)がなく、軽いかゆみを伴い夏に多い点が特徴です。ニキビ用薬では改善せず、抗真菌薬による治療が必要です。

🎨 4. 癜風(でんぷう)について

🎯 癜風とは

癜風(でんぷう)は、マラセチア属真菌(主にMalassezia globosa)が皮膚の表面で過剰に増殖することで生じる感染症です。胸や背中、肩などの皮膚に、境界がはっきりとした円形や楕円形の斑(色が変化した部分)が複数現れるのが特徴です。

癜風は子どもに発症することは少なく、思春期以降、特に20~40代の青壮年に多くみられます。男性にやや多いとされています。

📋 癜風の症状

癜風の主な症状は、皮膚に境界明瞭な斑が複数生じることです。斑の色調は人によって異なり、以下のようなタイプがあります。

色調による分類

  • 黒色癜風:淡褐色から褐色の斑(比較的肌の色が薄い方に多い)
  • 白色癜風:白色から淡い色素脱失斑(比較的肌の色が濃い方に多い)

その他の特徴

  • 斑の表面は少しカサカサした鱗屑(フケのようなもの)を伴う
  • メスなどでこすると微細な落屑(粉のようなもの)が生じる(「かんな屑様鱗屑」)
  • 通常、かゆみなどの自覚症状はほとんどなし
  • 日光を浴びても日焼けしないため、夏場に周囲の皮膚が日焼けすると斑が目立つ

🎯 好発部位

癜風は以下の部位に好発します:

  • 胸部
  • 背部
  • 頸部
  • 時に顔面や腹部

🌡️ 癜風の原因

癜風が発症しやすくなる主な要因:

  • 高温多湿の環境:熱帯地方で特に多い(人口の20~30%が罹患)
  • 多汗:スポーツ選手、高温職場での労働者
  • 皮脂の過剰分泌:思春期以降に発症しやすい
  • 肥満
  • ステロイド薬の使用や内分泌疾患

🔄 癜風の再発について

癜風は治療で比較的容易に改善しますが、再発率が非常に高いことが知られています。

  • 1年以内に40%が再発
  • 2年以内に80%が再発

これは、マラセチアが皮膚の常在菌であり、治療後も完全に除去することができないためです。再発予防には、日常的なスキンケアと環境調整が重要になります。

また、癜風が治癒した後も、皮膚の色がもとに戻るまでには数カ月から数年かかることがあります。


💧 5. 脂漏性皮膚炎について

🎯 脂漏性皮膚炎とは

脂漏性皮膚炎は、皮脂腺の多い部位(脂漏部位)に生じる慢性的な皮膚の炎症です。マラセチアが直接感染して起こる疾患ではありませんが、マラセチアが病態に深く関与していることがわかっています。

脂漏性皮膚炎は、生後3カ月未満の乳児と、30歳以上の成人に多く発症します。また、女性よりも男性にやや多くみられます。

📋 脂漏性皮膚炎の症状

頭皮での症状

  • フケの増加
  • かゆみ
  • 赤み
  • 重症時:厚い黄色い痂皮(かさぶた)が付着

顔面での症状

  • 眉毛の周辺
  • 鼻の周り(特に鼻唇溝)
  • 耳の後ろや入り口
  • 少しカサカサした赤い発疹
  • 「こふきいも」のような状態

その他の部位

  • 胸の中央部(前胸部)
  • わきの下
  • 股間

⚗️ 脂漏性皮膚炎とマラセチアの関係

脂漏性皮膚炎の発症メカニズムには、マラセチアが産生するリパーゼという酵素が深く関わっています。

  1. マラセチアがリパーゼを使って皮脂を分解
  2. 遊離脂肪酸(特にオレイン酸)を産生
  3. この遊離脂肪酸が皮膚に刺激を与え、炎症を引き起こす

また、マラセチアに対するアレルギー反応(過敏症)が関与しているという報告もあります。

⚠️ 脂漏性皮膚炎の悪化要因

  • ストレス、疲労、睡眠不足:皮脂分泌を増加
  • ビタミンB群の不足
  • ホルモンバランスの乱れ
  • 洗顔・洗髪不足(皮脂のたまりすぎ)
  • 洗いすぎ(皮膚を刺激)
  • 偏った食生活:脂肪分の多い食事、糖分過剰摂取、アルコールや香辛料の摂りすぎ

👶 乳児と成人の違い

乳児脂漏性皮膚炎

  • 生後2~3週頃から出現
  • 4~8カ月頃までに自然に治る
  • 頭皮に黄色い痂皮(乳痂)
  • 顔に赤い丘疹

成人脂漏性皮膚炎

  • 慢性的な経過をたどる
  • いったん治っても再発しやすい
  • 症状のコントロールが重要

🔗 6. マラセチアとアトピー性皮膚炎の関係

🎯 アトピー性皮膚炎の増悪因子としてのマラセチア

近年、マラセチアがアトピー性皮膚炎の増悪因子となる可能性が注目されています。アトピー性皮膚炎の患者さんでアレルギー検査を行うと、スギやハウスダスト、ダニなどに加えて、マラセチアにも反応が出ていることが少なくありません。

アトピー性皮膚炎の患者さんでは、皮膚のバリア機能が低下しているため、マラセチアをはじめとするさまざまなアレルゲンが皮膚から侵入しやすくなっています。

🧬 マラセチアアレルギーとは

マラセチアアレルギーとは、皮膚に常在するマラセチア菌に対して、免疫が過剰に反応してしまう状態を指します。このアレルギー反応によって、かゆみや湿疹が悪化することがあります。

特に、以下の部位のアトピー性皮膚炎症状が強い場合は、マラセチアアレルギーが関与している可能性があります:

  • 上胸部(皮脂分泌が多くマラセチア菌が繁殖しやすい部位)

💦 汗とマラセチアの関係

アトピー性皮膚炎と汗の関係についての研究では、汗の中にマラセチアが産生するタンパク質が含まれており、このタンパク質がアトピー性皮膚炎を悪化させる要因のひとつではないかという報告もあります。

これは、汗をかいた後にかゆみが強くなるアトピー性皮膚炎患者さんが多いことの一因かもしれません。ただし、汗をかくこと自体が悪いわけではなく、かいた汗をそのまま放置することが問題です。

💊 マラセチアが関与するアトピー性皮膚炎への対応

マラセチアがアトピー性皮膚炎の悪化に関与していると疑われる場合は、通常のステロイド外用薬に加えて、抗真菌薬の外用を併用することで症状が改善することがあります。

ただし、すべてのアトピー性皮膚炎患者さんにマラセチアが関与しているわけではありません。治療方針は個々の症状や検査結果に基づいて、皮膚科専門医が判断します。


Q. 癜風はどんな皮膚疾患で再発率はどのくらいですか?

癜風はマラセチアが皮膚表面で過剰増殖することで生じる感染症で、胸・背中などに境界明瞭な褐色または白色の斑が現れます。かゆみはほとんどありません。再発率は非常に高く、1年以内に約40%、2年以内に約80%が再発するとされ、治療後も日常的な予防ケアの継続が重要です。

🌡️ 7. マラセチアが増殖しやすい条件と好発部位

🌡️ マラセチアが増殖しやすい条件

マラセチアは以下のような条件下で増殖しやすくなります。

環境要因

  • 高温多湿の環境:夏季や梅雨の時期
  • 皮脂分泌が多い状態:皮脂を栄養源とするため
  • 汗をかきやすい状況:運動後、暑い環境での作業後
  • 通気性の悪い衣服の着用:皮膚が蒸れる状態

体調・健康状態

  • 免疫機能の低下
  • 糖尿病などの基礎疾患
  • ステロイド薬の使用
  • 栄養状態が悪い状態

🎯 マラセチアが好む部位(脂漏部位)

マラセチアは皮脂を栄養源としているため、皮脂腺が発達している以下の部位に多く存在しています。

主要な部位

  • 頭皮:皮脂腺が最も発達、脂漏性皮膚炎やフケの原因
  • 顔面:特にTゾーン(額、鼻)、眉毛周辺、鼻唇溝
  • 胸部・背部:癜風やマラセチア毛包炎の好発部位
  • 肩・上腕:マラセチア毛包炎が発症しやすい

その他の部位

  • 耳の後ろ
  • わきの下
  • 股間

📊 年齢による変化

マラセチアの検出率は年齢によって変化します。

  • 2歳以下と10歳以上で多く検出
  • 60歳以上では低下傾向
  • 思春期以降:皮脂分泌増加のため疾患発症しやすい
  • 20~40代の青壮年:最も多くみられる

🔬 8. マラセチア関連疾患の診断方法

マラセチア関連疾患の診断には、臨床症状の観察に加えて、以下のような検査が行われます。

🔍 直接鏡検(KOH直接鏡検法)

最も基本的で重要な検査方法です。病変部から鱗屑(フケ状のもの)や膿疱の内容物を採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液で処理した後、顕微鏡で観察します。

癜風での所見

  • 太く短い菌糸と丸い胞子の集団を観察
  • 特徴的な像は「スパゲティとミートボール」に例えられる

マラセチア毛包炎での所見

  • 円形または楕円形の胞子(酵母形)の状態で存在
  • 多数のマラセチアの胞子が観察できれば診断確定

染色法

  • ズームブルー染色
  • 酸性メチレンブルー染色
  • これらの染色により菌がより観察しやすくなる

🧫 真菌培養

直接鏡検で診断が難しい場合や、原因菌種を同定する必要がある場合に行われます。マラセチアは脂質要求性があるため、特殊な培地(クロモアガーマラセチアなど)を用いて培養します。

ただし、マラセチアは培養が難しい菌であるため、培養結果が陰性でもマラセチア関連疾患を否定することはできません。

🔬 病理組織検査

通常の表在性マラセチア感染症では生検を行うことはほとんどありませんが、他の疾患との鑑別が必要な場合に行われることがあります。

  • PAS染色
  • Grocott染色
  • これらの特殊染色により、組織内の菌要素が観察しやすくなる

💡 ウッド灯検査

暗所で365nmの長波長紫外線(ウッド灯)を病変部に照射すると、癜風では黄色の蛍光が観察されることがあります。病変の範囲を確認するのに役立ちますが、すべての症例で蛍光がみられるわけではありません。

🩸 アレルギー検査

アトピー性皮膚炎の患者さんで、マラセチアがアレルギーの原因となっている可能性が疑われる場合は、血液検査でマラセチアに対する特異的IgE抗体を測定することがあります。

🔍 ニキビとの鑑別のポイント

マラセチア毛包炎とニキビは見た目が似ているため、鑑別が重要です。背中や胸にできたブツブツがニキビ用の薬で改善しない場合は、マラセチア毛包炎の可能性があります。

皮膚科では、臨床所見に加えて直接鏡検を行うことで、両者を鑑別します。


Q. マラセチア関連疾患はどのように診断しますか?

マラセチア関連疾患の診断には、病変部から採取した鱗屑を水酸化カリウム(KOH)溶液で処理し顕微鏡で観察する「直接鏡検法」が基本です。癜風では「スパゲティとミートボール」に例えられる特徴的な菌の像が確認できます。また、ウッド灯照射で癜風が黄色蛍光を示すことも診断の補助として活用されます。

💊 9. マラセチア関連疾患の治療法

マラセチア関連疾患の治療は、基本的に抗真菌薬による薬物療法が中心となります。日本皮膚科学会の皮膚真菌症診療ガイドライン2019に基づいて、各疾患の治療法を解説します。

🔴 マラセチア毛包炎の治療

マラセチア毛包炎の治療では、抗真菌薬の内服療法が最も効果的です。

内服療法(推奨度A)

  • イトラコナゾール(イトリゾール)が主に使用
  • 外用療法よりも速やかに効果を発揮
  • 症状が広範囲に及ぶ場合や外用療法で効果が不十分な場合に特に有用
  • 治療期間:4~8週間程度

外用療法(推奨度B)

  • ケトコナゾール(ニゾラール)クリームやローション
  • 軽症例では効果が期待できる
  • 毛包内で菌が増殖しているため、外用薬だけでは十分な効果が得られないことも

※日本では抗真菌薬外用薬はマラセチア毛包炎に対する保険適用がないため、実際の治療では内服療法が選択されることが多いです。

🎨 癜風の治療

癜風の治療では、抗真菌薬の外用療法が第一選択となります。

外用療法(推奨度A)

  • イミダゾール系:ケトコナゾール、ルリコナゾールなど
  • アリルアミン系:テルビナフィンなど
  • 使用法:1日1回患部に塗布

内服療法(推奨度A)

以下の場合に考慮:

  • 病変が広範囲な場合
  • 外用療法で効果が不十分な場合
  • 再発を繰り返す場合
  • イトラコナゾールが使用される

治療後の注意点

  • 比較的早期に症状が改善
  • 皮膚の色がもとに戻るまでには治癒後数カ月から数年かかることがある

💧 脂漏性皮膚炎の治療

脂漏性皮膚炎の治療では、複数の薬剤を組み合わせて使用します。

抗真菌薬外用

  • ケトコナゾール(ニゾラール)クリームやローション
  • マラセチアの増殖を抑制
  • 副作用が少なく、症状が落ち着いた後も予防的に使用可能

ステロイド外用薬

  • 赤みや炎症が強い場合に使用
  • 症状がひどいときに短期間使用
  • 症状が落ち着いたら抗真菌薬のみに切り替え
  • 注意:顔面への長期使用でステロイド酒さのリスク

カルシニューリン阻害薬

  • タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)
  • ステロイドでも顔の赤みが繰り返し再発する場合に有効
  • 長期使用による皮膚の薄化などの副作用が起こりにくい

抗真菌成分配合シャンプー

  • ミコナゾールなどの抗真菌成分を配合
  • 頭皮の脂漏性皮膚炎(フケ症を含む)に有効
  • 市販品としても購入可能

補助療法

  • ビタミンB群の内服が補助的に使用されることもある

⚠️ 治療上の注意点

抗真菌薬内服(イトラコナゾール)での注意

  • 他の薬との相互作用(飲み合わせ)に注意
  • 併用禁忌の薬剤もある
  • 現在服用中の薬がある場合は必ず医師に報告

副作用管理

  • 肝機能障害などの副作用が生じることがある
  • 内服中は定期的な血液検査を実施する場合がある

ジェネリック医薬品について

  • 一部で先発品と同等の効果が得られにくいという報告
  • 効果が不十分な場合は医師に相談を推奨

🧴 10. 日常生活での予防とスキンケア

マラセチア関連疾患は再発しやすいため、治療と並行して日常生活での予防対策が重要です。

🚿 皮膚を清潔に保つ

汗の管理

  • 汗をかいたらこまめに拭き取るか、可能であればシャワーで洗い流す
  • 汗をかいた状態で長時間放置すると、マラセチアが増殖しやすい環境が作られる

入浴・シャワー

  • 1~2日に1回は行い、皮脂や汗をしっかり落とす
  • やさしく洗うことが大切(ゴシゴシ洗いすぎは皮膚を傷つける)

頭皮のケア

  • 抗真菌成分(ミコナゾール、ケトコナゾールなど)を配合したシャンプーを使用
  • 市販品として購入可能(コラージュフルフルシリーズなど)
  • シャンプーやリンスを使いすぎない
  • しっかり泡立てて洗い、十分にすすぐ
  • 洗髪後はドライヤーでよく乾かす

👕 衣服や寝具の工夫

衣服の選び方

  • 通気性のよい衣服を選ぶ(綿など吸湿性のある素材)
  • 汗で濡れた衣服は早めに着替える
  • 下着や肌着は毎日清潔なものに替える

寝具の管理

  • 定期的に洗濯・乾燥させ、清潔を保つ

🌡️ 室内環境の調整

温湿度管理

  • 室温や湿度を適切に管理(高温多湿はマラセチアが増殖しやすい)
  • エアコンや除湿器を活用して快適な室内環境を保つ

🌙 生活習慣の改善

睡眠・ストレス管理

  • 十分な睡眠をとる(睡眠不足は皮脂分泌を増加)
  • ストレスを溜めない(免疫機能の低下や皮脂分泌の増加につながる)

食事管理

  • バランスのよい食事を心がける
  • ビタミンB群を十分に摂取(レバー、卵、ほうれん草など)

控えるべき食事

  • 脂肪分の多い食事
  • 糖分の過剰摂取
  • アルコールや香辛料の摂りすぎ

🔄 再発予防のためのスキンケア

癜風やマラセチア毛包炎は再発率が高いため、症状が改善した後も予防的なケアを続けることが重要です。

予防的ケア

  • 週に1~2回程度、抗真菌成分配合のボディソープやシャンプーで体や頭皮を洗う
  • 脂漏性皮膚炎では、抗真菌薬外用剤を症状が落ち着いた後も予防的に塗り続けることが推奨されることがある

👥 他人への感染について

マラセチアは誰の皮膚にも存在する常在菌であるため、マラセチア関連疾患が他人にうつる心配はありません。タオルの共用なども含め、日常生活で特に制限する必要はありません。


👥 他人への感染について

よくある質問

Q. マラセチアは人にうつりますか?

A. マラセチアは誰の皮膚にも存在する常在菌であるため、人にうつることはありません。癜風やマラセチア毛包炎、脂漏性皮膚炎は感染症ではなく、その人自身の皮膚に存在するマラセチアが過剰に増殖して起こる疾患です。そのため、タオルの共用なども問題ありません。

Q. 背中のニキビが治らないのですが、マラセチア毛包炎でしょうか?

A. 背中や胸にできるニキビ様のブツブツがニキビ用の薬で改善しない場合は、マラセチア毛包炎の可能性があります。マラセチア毛包炎の特徴として、ブツブツの大きさがそろっていること、白ニキビ(面皰)がないこと、軽いかゆみを伴うこと、夏に悪化しやすいことなどがあります。皮膚科を受診して、直接鏡検による確定診断を受けることをお勧めします。

Q. 脂漏性皮膚炎は完治しますか?

A. **乳児の脂漏性皮膚炎**は、多くの場合、生後4~8カ月頃までに自然に治癒します。一方、**成人の脂漏性皮膚炎は慢性的な経過をたどることが多く**、完治というよりも症状をコントロールしながら付き合っていく疾患です。適切な治療とスキンケアにより、症状を抑えることは十分に可能です。

Q. 癜風が治った後も肌の色が戻りません。どうすればよいですか?

A. **癜風の治療により菌自体は消えても、皮膚の色がもとに戻るまでには数カ月から、場合によっては数年かかる**ことがあります。これは菌の影響でメラニン色素の産生が乱れたためで、菌が消えた後も色素が回復するのに時間がかかるためです。特別な治療法はありませんが、時間の経過とともに徐々に目立たなくなっていきます。

Q. 抗真菌薬を塗るとよくなるのですが、やめるとまた症状が出てきます。どうすればよいですか?

A. **マラセチアは皮膚の常在菌であるため、治療で一時的に減少しても、完全に除去することはできません**。そのため、条件が揃えば再び増殖し、症状が再発することがあります。再発を防ぐためには、薬による治療に加えて、日常生活での予防対策(皮膚を清潔に保つ、高温多湿を避ける、適切な衣服を選ぶなど)を継続することが大切です。脂漏性皮膚炎では、症状が落ち着いた後も予防的に抗真菌薬を塗り続けることが推奨されることがあります。

Q. 市販の水虫薬でマラセチア毛包炎は治りますか?

A. 市販の水虫薬には抗真菌成分が含まれているため、理論的にはマラセチアにも効果がある可能性があります。しかし、**マラセチア毛包炎は毛包内で菌が増殖しているため、外用薬だけでは十分な効果が得られないことが多い**です。また、自己判断で治療を続けると症状が悪化したり、他の疾患を見逃したりする可能性があります。背中や胸のブツブツが気になる場合は、皮膚科を受診して正確な診断と適切な治療を受けることをお勧めします。

Q. マラセチアとアトピー性皮膚炎は関係がありますか?

A. 近年、**マラセチアがアトピー性皮膚炎の増悪因子となる可能性**が注目されています。特に、顔や首など皮脂分泌が多い部位の症状が強い場合や、汗をかくとかゆみが強くなる場合は、マラセチアが関与している可能性があります。アトピー性皮膚炎でマラセチアの関与が疑われる場合は、通常の治療に加えて抗真菌薬を併用することで症状が改善することがあります。


📝 12. まとめ

マラセチアは私たちの皮膚に普通に存在する常在菌(カビ)ですが、さまざまな条件が重なると過剰に増殖し、マラセチア毛包炎、癜風、脂漏性皮膚炎といった皮膚疾患を引き起こすことがあります。

マラセチア毛包炎は、夏に背中や胸にできるニキビ様のブツブツとして現れることが多く、通常のニキビとは治療法が異なります。ニキビ用の薬で改善しない場合は、マラセチア毛包炎の可能性を考えて皮膚科を受診することをお勧めします。

癜風は、皮膚に茶色や白色の斑が現れる疾患で、かゆみがほとんどないのが特徴です。治療で改善しますが、再発率が高いため、日常的な予防対策が重要です。

脂漏性皮膚炎は、頭皮のフケや顔面の赤みとして現れる慢性的な皮膚疾患で、マラセチアが病態に深く関与しています。成人では再発しやすいため、長期的なケアが必要です。

これらの疾患は、抗真菌薬による治療が有効です。日本皮膚科学会の皮膚真菌症診療ガイドライン2019に基づいた適切な治療を受けることで、症状の改善が期待できます。

また、再発を予防するためには、以下の日常生活での対策も大切です:

  • 皮膚を清潔に保つ
  • 高温多湿の環境を避ける
  • 通気性のよい衣服を着用する
  • 生活習慣を整える

気になる皮膚症状がある方は、自己判断せずに専門医にご相談ください。正確な診断と適切な治療により、症状の改善と再発予防が可能です。


📚 参考文献

監修者医師

高桑 康太 医師

保有資格

ミラドライ認定医

略歴

  • 2009年 東京大学医学部医学科卒業
  • 2009年 東京逓信病院勤務
  • 2012年 東京警察病院勤務
  • 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
  • 2019年 当院治療責任者就任
  • 皮膚腫瘍・皮膚外科領域で15年以上の臨床経験と30,000件超の手術実績を持ち、医学的根拠に基づき監修を担当
  • 専門分野:皮膚腫瘍、皮膚外科、皮膚科、形成外科
  • 臨床実績(2024年時点) 皮膚腫瘍・皮膚外科手術:30,000件以上、腋臭症治療:2,000件以上、酒さ・赤ら顔治療:1,000件以上
  • 監修領域 皮膚腫瘍(ほくろ・粉瘤・脂肪腫など)、皮膚外科手術、皮膚がん、一般医療コラムに関する医療情報

佐藤 昌樹 医師

保有資格

日本整形外科学会整形外科専門医

略歴

  • 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
  • 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
  • 2012年 東京逓信病院勤務
  • 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
  • 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務
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