はじめに
健康診断で「カリウムの値が低い」と指摘されたことはありませんか?カリウムは私たちの体にとって非常に重要なミネラルですが、その値が正常範囲を下回ると「低カリウム血症」という状態になります。
低カリウム血症は、軽症の場合は症状が現れないこともありますが、重症化すると筋力低下や不整脈など、日常生活に支障をきたす症状が現れることがあります。特に高齢者や特定の薬を服用している方は注意が必要です。
この記事では、低カリウム血症の原因、症状、診断方法、治療法について、一般の方にもわかりやすく詳しく解説していきます。

低カリウム血症とは
カリウムの役割
カリウムは、ナトリウムやカルシウムと並んで体内で重要な働きをする電解質(ミネラル)の一つです。体内のカリウムの約98%は細胞内に存在し、残りの2%が血液中や細胞外液に含まれています。
カリウムは以下のような重要な役割を担っています:
- 神経伝達の調整: 神経細胞が信号を伝えるために必要
- 筋肉の収縮: 心臓を含むすべての筋肉の正常な働きに必須
- 血圧の調整: ナトリウムとのバランスを保ち、血圧を適切に保つ
- 体液バランスの維持: 細胞内外の浸透圧を調整
- 酸塩基平衡の維持: 体内のpHバランスを保つ
低カリウム血症の定義
低カリウム血症(hypokalemia)とは、血液中のカリウム濃度が正常範囲よりも低下した状態を指します。
正常なカリウム値: 3.5~5.0 mEq/L(ミリ当量/リットル)
低カリウム血症は、その重症度によって以下のように分類されます:
- 軽度: 3.0~3.5 mEq/L
- 中等度: 2.5~3.0 mEq/L
- 重度: 2.5 mEq/L未満
血清カリウム値が3.5 mEq/L未満になると低カリウム血症と診断されますが、実際に症状が現れるのは3.0 mEq/L未満になってからのことが多いとされています。
低カリウム血症の頻度
低カリウム血症は、一般的な電解質異常の一つです。入院患者の約20%、利尿薬を服用している患者の約40~50%に認められるという報告があります。
特に以下のような方に多く見られます:
- 利尿薬を服用している高血圧患者
- 下痢や嘔吐が続いている方
- 過度な運動をするアスリート
- 摂食障害のある方
- 高齢者
低カリウム血症の原因
低カリウム血症の原因は大きく分けて、「摂取不足」「排泄過多」「細胞内への移動」の3つに分類されます。
1. カリウムの摂取不足
食事からの摂取不足
現代の日本では、極端な偏食や拒食をしない限り、食事だけで低カリウム血症になることは稀です。しかし、以下のような状況では摂取不足が起こりえます:
- 極端なダイエット: 栄養バランスを考えない過度な食事制限
- 摂食障害: 神経性食欲不振症(拒食症)など
- 嚥下障害: 高齢者や脳卒中後などで食事が十分に取れない
- 消化器疾患: 慢性的な食欲不振を伴う疾患
成人のカリウムの推奨摂取量は、男性で1日2,500mg、女性で2,000mg(厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020年版」より)とされています。
輸液によるカリウム補給不足
入院中に点滴治療を受けている場合、輸液にカリウムが十分含まれていないと低カリウム血症になることがあります。特に長期間にわたって経口摂取ができない状態が続く場合は注意が必要です。
2. カリウムの排泄過多
消化管からの喪失
嘔吐・下痢
嘔吐や下痢は、低カリウム血症の最も一般的な原因の一つです。
- 下痢: 腸液にはカリウムが多く含まれているため、激しい下痢や長期間続く下痢では大量のカリウムが失われます
- 嘔吐: 胃液自体にはそれほど多くのカリウムは含まれていませんが、嘔吐に伴う代謝性アルカローシスにより尿中へのカリウム排泄が増加します
感染性腸炎、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)、過敏性腸症候群などで慢性的な下痢がある場合は特に注意が必要です。
下剤の乱用
便秘解消や体重減少を目的とした下剤の長期使用・過剰使用も低カリウム血症の原因となります。特に刺激性下剤を常用している方は要注意です。
消化管瘻・吸引
手術後や疾患により消化管に瘻孔(ろうこう:穴)がある場合や、鼻からの持続的な胃内容物の吸引を行っている場合も、カリウムの喪失が起こります。
腎臓からの喪失
利尿薬の使用
低カリウム血症の原因として最も頻度が高いのが、利尿薬の使用です。
利尿薬は高血圧や心不全、むくみの治療に広く使用されていますが、特に以下の種類の利尿薬はカリウムの排泄を促進します:
- ループ利尿薬: フロセミド(ラシックス®)など
- チアジド系利尿薬: トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアジドなど
これらの利尿薬は、尿量を増やすことで血圧を下げたりむくみを取ったりしますが、同時にカリウムも尿中に排泄されてしまいます。
逆に、スピロノラクトン(アルダクトン®)などのカリウム保持性利尿薬は、カリウムの排泄を抑える働きがあります。
原発性アルドステロン症
副腎から分泌されるホルモンの一つであるアルドステロンが過剰に産生される疾患です。アルドステロンはナトリウムの再吸収を促進し、カリウムの排泄を増やす作用があるため、低カリウム血症と高血圧を引き起こします。
以前は稀な疾患と考えられていましたが、最近の研究では高血圧患者の5~10%程度に原発性アルドステロン症が存在するとされており、決して珍しくない疾患です。
クッシング症候群
副腎皮質からコルチゾールというホルモンが過剰に分泌される疾患です。コルチゾールにもアルドステロンと似た作用があり、低カリウム血症を引き起こします。
尿細管疾患
腎臓の尿細管に異常があり、カリウムの再吸収がうまくいかない疾患群です:
- バーター症候群
- ギッテルマン症候群
- ファンコニー症候群
- 腎尿細管性アシドーシス
これらは遺伝性のものと後天性のものがあります。
マグネシウム欠乏
マグネシウムが不足すると、腎臓でのカリウムの再吸収が障害され、低カリウム血症が起こりやすくなります。マグネシウム欠乏自体も、利尿薬の使用や下痢、アルコール多飲などで起こります。
低カリウム血症がマグネシウムを補正しても改善しない場合は、マグネシウム欠乏の併存を疑う必要があります。
皮膚からの喪失
大量発汗
汗にもカリウムが含まれているため、激しい運動や高温環境での作業により大量の汗をかくと、カリウムが失われます。
特に夏場のスポーツや屋外作業では注意が必要です。水分補給と同時に、適切な電解質の補給も重要です。
3. 細胞内への移動
血液中のカリウムが細胞の中に移動することで、血中カリウム濃度が低下する場合があります。この場合、体全体のカリウム総量は正常ですが、血液検査では低カリウム血症と判定されます。
インスリンの作用
インスリンはカリウムを細胞内に取り込む作用があります。糖尿病の治療でインスリンを使用した場合や、高血糖の状態が急速に改善された場合に、一時的に低カリウム血症になることがあります。
カテコールアミンの作用
アドレナリンなどのカテコールアミンもカリウムを細胞内に移動させます。強いストレスや交感神経が亢進する状態で起こることがあります。
アルカローシス(アルカリ血症)
血液が正常よりもアルカリ性に傾くと、カリウムが細胞内に移動します。過呼吸症候群や嘔吐による代謝性アルカローシスなどが原因となります。
周期性四肢麻痺
遺伝性または甲状腺機能亢進症に伴って起こる疾患で、一時的にカリウムが細胞内に大量に移動し、血中カリウム濃度が急激に低下します。突然の筋力低下や麻痺が特徴です。
アジア人、特に日本人や韓国人、中国人に多く見られる疾患です。
その他の原因
薬剤性
利尿薬以外にも、以下のような薬剤が低カリウム血症の原因となることがあります:
- 気管支拡張薬: β2刺激薬(喘息の治療薬)
- 副腎皮質ステロイド: プレドニゾロンなど
- 抗生物質: アンホテリシンB、ペニシリン系抗生物質の大量投与
- 下剤: 刺激性下剤の長期使用
- 漢方薬: 甘草(グリチルリチン)を含むもの
特に甘草を含む漢方薬は、長期間服用することで低カリウム血症を引き起こすことがあります。甘草にはアルドステロン様作用があり、カリウムの排泄を促進します。
低カリウム血症の症状
低カリウム血症の症状は、カリウム低下の程度とスピードによって異なります。ゆっくりと低下した場合は、かなり低い値でも症状が現れないこともありますが、急激に低下した場合は軽度でも症状が出ることがあります。
初期症状・軽度の低カリウム血症
血清カリウム値が3.0~3.5 mEq/Lの場合、多くの方は無症状です。症状が現れる場合も、以下のような軽微なものが中心です:
全身症状
- 倦怠感: 理由なく疲れやすい
- 脱力感: 体に力が入らない感じ
- 疲労感: 十分休んでも疲れが取れない
これらの症状は非特異的で、他の多くの疾患でも見られるため、低カリウム血症と気づかれにくいことがあります。
筋肉症状
- 筋力低下: 特に下肢の筋力低下が起こりやすい
- 筋肉痛: ふくらはぎなどの筋肉が痛む
- こむら返り: 足がつりやすくなる
カリウムは筋肉の収縮に必須のミネラルであるため、不足すると筋肉の機能が低下します。
消化器症状
- 便秘: 腸管の動きが悪くなる
- 腹部膨満感: お腹が張る感じ
- 食欲不振: 食欲が落ちる
中等度の低カリウム血症
血清カリウム値が2.5~3.0 mEq/Lになると、より明確な症状が現れます。
筋肉・神経症状
- 筋力低下の進行: 階段の上り下りが困難になる、立ち上がれないなど
- 筋肉の痙攣: 筋肉がピクピクと動く
- 知覚異常: しびれ感、ピリピリ感
- 腱反射の低下: 医師が診察で確認できる所見
循環器症状
- 動悸: 心臓がドキドキする
- 不整脈: 心電図異常が出現する
- 血圧上昇: カリウムには血圧を下げる作用があるため、不足すると血圧が上がることがある
その他の症状
- 多尿: 尿量が増える
- 口渇: 喉が渇く
- 精神症状: 集中力低下、イライラ感
重度の低カリウム血症
血清カリウム値が2.5 mEq/L未満になると、生命に危険が及ぶ可能性があります。
重篤な筋肉症状
- 筋肉麻痺: 四肢の麻痺、動けなくなる
- 横紋筋融解症: 筋肉が壊れて、筋肉痛や褐色尿が出現
- 呼吸筋麻痺: 呼吸困難、呼吸停止のリスク
重篤な循環器症状
- 致死的不整脈: 心室頻拍、心室細動など
- 心停止: 最悪の場合、心臓が止まる可能性
消化器症状
- 腸閉塞: 腸管の動きが完全に止まる(麻痺性イレウス)
- 腹部膨満: 著明な腹部膨満
腎臓への影響
- 腎機能障害: 長期間の低カリウム血症により腎臓がダメージを受ける
- 尿細管障害: 尿を濃縮する機能が低下
特に注意が必要な方
以下のような方は、低カリウム血症の症状が現れやすく、また重症化しやすいため注意が必要です:
- 心疾患のある方: 不整脈のリスクが高い
- ジギタリス製剤を服用中の方: 低カリウム血症によりジギタリス中毒が起こりやすくなる
- 高齢者: 筋力低下により転倒・骨折のリスクが高まる
- 糖尿病の方: 血糖コントロールに影響する可能性
低カリウム血症の診断
血液検査
低カリウム血症の診断は、主に血液検査で行います。
血清カリウム値
最も基本的な検査で、静脈から採血した血液のカリウム濃度を測定します。
注意点:
- 採血時に拳を強く握ったり開いたりすると、筋肉から一時的にカリウムが放出されて高めの値が出ることがあります(偽性高カリウム血症)
- 採血後、検体を長時間放置すると赤血球からカリウムが漏れ出て高めの値になることがあります
- 白血球や血小板が極端に多い場合も、偽性高カリウム血症となることがあります
その他の血液検査
低カリウム血症の原因を調べるため、以下のような検査を追加で行うことがあります:
- 血清ナトリウム、クロール、重炭酸イオン: 電解質バランスの評価
- 血清マグネシウム: マグネシウム欠乏の有無
- 血糖値: 糖尿病の評価
- 腎機能(クレアチニン、BUN): 腎臓の機能評価
- 肝機能: 全身状態の評価
- 血液ガス分析: 酸塩基平衡の評価
- ホルモン検査: アルドステロン、コルチゾール、レニン活性など(内分泌疾患が疑われる場合)
尿検査
腎臓からのカリウム排泄が亢進しているかどうかを調べるため、尿中カリウム濃度を測定します。
尿中カリウム濃度・排泄量
- 尿中カリウム濃度 < 20 mEq/L または 1日尿中カリウム排泄量 < 25 mEq/日: 腎外性の原因(消化管からの喪失や摂取不足)が疑われます
- 尿中カリウム濃度 > 20 mEq/L または 1日尿中カリウム排泄量 > 25 mEq/日: 腎性の原因(腎臓からの過剰な排泄)が疑われます
尿中塩素濃度
利尿薬使用や嘔吐などの鑑別に役立ちます。
心電図検査
低カリウム血症では特徴的な心電図変化が現れます。これらの変化は、カリウム値が低いほど顕著になります。
低カリウム血症の心電図所見
- U波の出現: T波の後に小さな波(U波)が現れる(最も早期に見られる変化)
- T波の平低化・陰性化: T波が小さくなったり、下向きになる
- ST低下: ST部分が下がる
- QT間隔の延長: 心室の興奮から回復までの時間が長くなる
- 不整脈: 期外収縮、心房細動、心室頻拍、心室細動など
これらの変化は、血清カリウム値が3.0 mEq/L以下になると出現しやすくなります。
画像検査
必要に応じて、原因疾患を調べるために以下のような検査を行います:
- 腹部超音波検査・CT検査: 副腎腫瘍の検索(原発性アルドステロン症の診断)
- 副腎静脈サンプリング: 原発性アルドステロン症の局在診断
病歴聴取と身体診察
検査と同様に重要なのが、詳しい病歴聴取と身体診察です。
医師は以下のようなことを確認します:
- 服用中の薬剤: 利尿薬、下剤、漢方薬など
- 食生活: 偏食、ダイエット、アルコール摂取量
- 消化器症状: 嘔吐、下痢の有無と持続期間
- 尿量: 多尿の有無
- 既往歴: 高血圧、糖尿病、腎疾患、内分泌疾患など
- 家族歴: 低カリウム血症、腎疾患、内分泌疾患など
これらの情報から、低カリウム血症の原因を推定し、必要な追加検査を決定します。
低カリウム血症の治療
低カリウム血症の治療は、その重症度と原因によって異なります。基本的な治療方針は以下の通りです:
- カリウムの補充
- 原因疾患の治療
- 再発予防
カリウムの補充療法
経口補充(軽度~中等度の場合)
血清カリウム値が2.5 mEq/L以上で、症状が軽度または無症状の場合は、経口でのカリウム補充を行います。
カリウム製剤
- 塩化カリウム: 最も一般的に使用される
- アスパラカリウム®、ケーサプライ®など
- 錠剤、散剤、シロップ剤がある
- L-アスパラギン酸カリウム: 吸収が良い
- グルコン酸カリウム: 胃腸障害が少ない
投与量
- 通常、1日40~100 mEq(約3~8g)を2~3回に分けて服用
- カリウム値の低下が軽度の場合は、1日20~40 mEq程度から開始
注意点
- 空腹時の服用は胃腸障害(吐き気、腹痛、下痢)を起こしやすいため、食後の服用が推奨されます
- 水に溶かして服用すると、胃腸障害が軽減されることがあります
- 錠剤は噛まずに服用します(食道や胃の粘膜障害を防ぐため)
食事からの摂取
カリウムを多く含む食品を積極的に摂取することも大切です:
- 野菜類: ほうれん草、小松菜、アボカド、かぼちゃ、さつまいも、里芋
- 果物類: バナナ、メロン、キウイフルーツ、柿、プルーン
- 海藻類: 昆布、わかめ、ひじき
- 豆類: 大豆、納豆、豆腐
- いも類: じゃがいも、さつまいも
- ナッツ類: アーモンド、カシューナッツ
ただし、腎機能が低下している方は、カリウムの過剰摂取に注意が必要です。主治医や管理栄養士に相談してから食事内容を調整しましょう。
静脈内補充(中等度~重度の場合)
以下のような場合は、静脈からのカリウム補充が必要です:
- 血清カリウム値が2.5 mEq/L未満
- 症状が強い(筋力低下、不整脈など)
- 経口摂取ができない
- 緊急性が高い
投与方法
- カリウムを含む輸液を点滴で投与します
- 通常、1時間あたり10~20 mEqの速度で投与
- 重症の場合でも、40 mEq/時を超える速度での投与は避けます(心停止のリスクがあるため)
- 投与中は心電図モニタリングを行うことが推奨されます
注意点
- カリウムの急速投与は危険なため、必ず医療機関で慎重に行います
- 末梢静脈から高濃度のカリウムを投与すると、血管痛や血管炎を起こすことがあります
- 中心静脈カテーテルからの投与が望ましい場合もあります
マグネシウムの補充
低カリウム血症がマグネシウム欠乏を伴っている場合、マグネシウムを補充しないとカリウム値が改善しにくいことがあります。
血清マグネシウム値が低い場合や、カリウム補充に反応しない場合は、マグネシウムの補充も併せて行います。
原因疾患の治療
低カリウム血症を根本的に改善し、再発を防ぐためには、原因疾患の治療が重要です。
薬剤性の場合
- 利尿薬の調整:
- 減量または中止を検討
- カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトン、トリアムテレンなど)への変更
- ACE阻害薬やARBの併用(これらの薬もカリウム保持作用がある)
- 他の原因薬剤の中止または変更: 下剤、ステロイド、甘草含有漢方薬など
消化器疾患の治療
- 嘔吐・下痢の原因治療: 感染性腸炎、炎症性腸疾患などの治療
- 制吐薬・止痢薬の使用: 症状のコントロール
内分泌疾患の治療
- 原発性アルドステロン症:
- 副腎腫瘍がある場合は手術による摘出
- 両側の副腎過形成の場合はアルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)による薬物療法
- クッシング症候群: 原因に応じた治療(手術、薬物療法など)
腎疾患の治療
尿細管疾患などの場合は、専門医による継続的な管理が必要です。
カリウム保持性利尿薬の使用
慢性的に低カリウム血症になりやすい方(利尿薬を中止できない方など)には、カリウム保持性利尿薬を併用することがあります。
- スピロノラクトン(アルダクトン®): アルドステロン拮抗薬
- トリアムテレン、アミロライド: 別の機序でカリウムの排泄を抑える
ただし、これらの薬は高カリウム血症のリスクがあるため、定期的な血液検査でのモニタリングが必要です。
治療中のモニタリング
低カリウム血症の治療中は、以下のようなモニタリングが重要です:
- 定期的な血清カリウム値の測定: 治療開始初期は頻回に(数時間~1日おき)、安定してきたら週1回~月1回程度
- 心電図検査: 特に初期や症状がある場合
- 症状の観察: 筋力低下、動悸、不整脈などの改善を確認
- 腎機能のチェック: カリウム補充により腎機能が悪化していないか確認
- マグネシウム値の測定: 低マグネシウム血症の有無
入院治療が必要な場合
以下のような場合は入院治療が推奨されます:
- 血清カリウム値が2.5 mEq/L未満
- 重篤な症状がある(筋力麻痺、不整脈、呼吸困難など)
- 急速な補充が必要
- 原因疾患の精密検査や治療が必要
- 外来での管理が困難
低カリウム血症の予防
低カリウム血症を予防するためには、以下のようなポイントに注意しましょう。
1. バランスの良い食事
カリウムを含む食品を日常的に摂取することが基本です。
カリウムを多く含む食品
前述の通り、野菜、果物、海藻、豆類、いも類などに多く含まれています。
1日の目標摂取量
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、カリウムの目標量として以下が推奨されています:
- 成人男性: 3,000 mg/日以上
- 成人女性: 2,600 mg/日以上
ただし、腎機能が低下している方は制限が必要な場合があるため、主治医に相談してください。
調理の工夫
カリウムは水溶性のため、調理方法によって摂取量が変わります:
- 生で食べる: カリウムの損失が少ない
- 蒸す・焼く: 比較的カリウムが保たれる
- 茹でる: 茹で汁にカリウムが溶け出すため、汁ごと食べる料理(味噌汁、スープなど)にするとよい
2. 適切な水分・電解質補給
以下のような場合は、意識的に水分と電解質を補給しましょう:
運動時
- 激しい運動や長時間の運動では、汗とともにカリウムも失われます
- スポーツドリンクなどで適切に電解質を補給
- こまめな水分補給を心がける
夏場の暑い時期
- 大量の発汗によりカリウムが失われやすい
- 水だけでなく、塩分やカリウムを含む飲料や食品を摂取
- 熱中症予防も兼ねて、こまめな水分・電解質補給を
体調不良時
嘔吐や下痢があるときは、経口補水液などで水分と電解質を補給します。症状が続く場合は早めに医療機関を受診しましょう。
3. 薬剤管理
利尿薬を服用している方
- 定期的な血液検査でカリウム値をチェック
- 必要に応じてカリウム製剤の併用
- カリウムを多く含む食品を意識的に摂取
- 自己判断で服薬を中止せず、気になることがあれば医師に相談
下剤の適切な使用
- 便秘の場合、まず食物繊維の摂取や運動、水分補給などの生活習慣改善を試みる
- 下剤を使用する場合は、必要最小限にとどめる
- 刺激性下剤の長期連用は避ける
- 便秘が続く場合は医師に相談
漢方薬の注意
- 甘草を含む漢方薬を長期間服用する場合は、定期的にカリウム値をチェック
- 複数の医療機関や薬局から漢方薬を入手している場合は、重複に注意
- 症状が改善したら漫然と続けず、医師や薬剤師に相談
4. 定期健診
- 年1回以上の健康診断を受け、血液検査でカリウム値をチェック
- 低カリウム血症のリスクがある方(利尿薬服用中、消化器疾患がある、など)は、より頻回の検査を
- 異常値が出た場合は、必ず医療機関を受診して原因を調べる
5. 原因疾患の管理
- 高血圧、糖尿病、消化器疾患などの持病がある方は、適切に治療を継続
- 内分泌疾患(原発性アルドステロン症など)が見つかった場合は、専門医による治療を受ける
- 定期的な通院と検査を欠かさない

よくある質問(FAQ)
A: 軽度で一時的な原因(下痢や発汗など)による低カリウム血症は、原因が解消すれば自然に改善することもあります。しかし、薬剤性や疾患が原因の場合は、適切な治療を受けないと改善しません。血液検査で低カリウム血症を指摘された場合は、必ず医師に相談しましょう。
A: バナナは確かにカリウムを含む果物ですが、バナナだけで1日に必要なカリウムをすべて摂取することは現実的ではありません。野菜、果物、海藻、豆類など、様々な食品からバランスよく摂取することが大切です。
ちなみに、バナナ1本(可食部約100g)に含まれるカリウムは約360mgです。1日の目標量(男性3,000mg、女性2,600mg)には、バナナだけでは到底足りません。
Q3: カリウムのサプリメントを飲んでもいいですか?
A: 日本では、カリウムを主成分とするサプリメントはあまり一般的ではありません。医師の処方による医薬品としてのカリウム製剤が主流です。
海外製のサプリメントでは高用量のカリウムを含むものがありますが、自己判断での使用は避けましょう。過剰摂取は高カリウム血症を引き起こし、心臓に悪影響を及ぼす可能性があります。
低カリウム血症の治療や予防が必要な場合は、必ず医師に相談してください。
Q4: 運動中に足がつるのは低カリウム血症のせいですか?
A: 運動中や運動後に足がつる(こむら返り)原因は複数あり、低カリウム血症もその一つです。他にも、脱水、筋肉疲労、マグネシウムやカルシウムの不足、冷え、準備運動不足なども原因となります。
頻繁に足がつる場合や、他の症状(筋力低下、動悸など)も伴う場合は、一度血液検査を受けることをお勧めします。
Q5: 低カリウム血症になりやすい体質はありますか?
A: 遺伝性の疾患(バーター症候群、ギッテルマン症候群、周期性四肢麻痺など)では、低カリウム血症になりやすい体質といえます。
また、以下のような方は低カリウム血症になるリスクが高いといえます:
- 利尿薬を服用している
- 過敏性腸症候群などで慢性的に下痢をしやすい
- 摂食障害がある
- アルコールを多量に飲む
- 激しい運動を頻繁に行う
Q6: 高齢者で低カリウム血症になると危険ですか?
A: はい、高齢者は低カリウム血症によるリスクが高いといえます。理由は以下の通りです:
- 筋力低下により転倒・骨折のリスクが高まる
- もともと心疾患を持っている方が多く、不整脈が起こりやすい
- 複数の薬を服用していることが多く、薬剤性低カリウム血症のリスクが高い
- 食事摂取量が少なく、摂取不足になりやすい
- 腎機能が低下していることが多い
高齢者の方は、定期的な血液検査と適切な食事管理が特に重要です。
Q7: 妊娠中に低カリウム血症になることはありますか?
A: 妊娠中、特につわりが激しい時期は、嘔吐によりカリウムが失われて低カリウム血症になることがあります。
妊娠悪阻(にんしんおそ:重症のつわり)で入院が必要になるケースでは、点滴でカリウムを補充することもあります。
つわりが辛い場合や、脱力感、動悸などの症状がある場合は、早めに産婦人科医に相談しましょう。
Q8: カリウムを摂りすぎると害はありますか?
A: 腎機能が正常な方では、余分なカリウムは尿中に排泄されるため、通常の食事で過剰摂取になることはほとんどありません。
ただし、以下のような場合は高カリウム血症(血中カリウム濃度が高くなりすぎる状態)になるリスクがあります:
- 腎機能が低下している(慢性腎臓病、急性腎不全など)
- カリウム保持性利尿薬を服用している
- ACE阻害薬やARBを服用している
- カリウム製剤を過剰に服用した
高カリウム血症も低カリウム血症と同様に、不整脈など重篤な症状を引き起こす可能性があります。腎機能が低下している方は、カリウム制限が必要な場合があるため、必ず主治医や管理栄養士の指導に従ってください。
Q9: 低カリウム血症は完治しますか?
A: 一時的な原因(急性の下痢、嘔吐、発汗など)による低カリウム血症は、原因が解消し適切にカリウムを補充すれば完治します。
しかし、慢性疾患(原発性アルドステロン症、尿細管疾患など)や、中止できない薬剤(利尿薬など)が原因の場合は、継続的な管理が必要になります。この場合、「完治」というよりも「良好なコントロール」を目指すことになります。
定期的な血液検査と、必要に応じたカリウム補充や原因疾患の治療を継続することで、正常なカリウム値を維持することができます。
Q10: 健康診断でカリウムが低いと言われましたが、症状がありません。治療は必要ですか?
A: カリウム値が3.0~3.5 mEq/Lの軽度低カリウム血症で、症状がない場合は、まず原因を調べることが重要です。
一時的な原因(検査前の下痢や発汗、食事の偏りなど)であれば、食事内容の見直しで改善することもあります。しかし、原因が不明な場合や、繰り返し低い値が出る場合は、精密検査が必要です。
また、症状がなくても、慢性的な低カリウム血症は腎臓や心臓に負担をかける可能性があります。自己判断せず、必ず医師に相談し、適切な検査と治療方針を決めましょう。
まとめ
低カリウム血症は、血液中のカリウム濃度が正常範囲よりも低下した状態で、比較的よく見られる電解質異常の一つです。
主な原因は、摂取不足、排泄過多(消化管や腎臓からの喪失)、細胞内への移動の3つに分類されます。特に利尿薬の使用、下痢や嘔吐、原発性アルドステロン症などが代表的な原因です。
症状は、カリウム低下の程度により異なります。軽度では無症状のこともありますが、筋力低下、倦怠感、便秘などが現れることがあります。重度になると、筋肉麻痺や致死的不整脈など、生命に危険が及ぶ症状が出現する可能性があります。
診断は血液検査が基本ですが、原因を特定するために尿検査、心電図検査、ホルモン検査なども行われます。
治療は、カリウムの補充(経口または静脈投与)と原因疾患の治療が中心です。軽度であれば食事療法とカリウム製剤の内服で改善することが多いですが、重度の場合は入院治療が必要になります。
予防には、バランスの良い食事、適切な水分・電解質補給、薬剤の適切な管理、定期的な健診が重要です。
低カリウム血症は、早期発見と適切な治療により十分に管理できる疾患です。健康診断で異常を指摘された場合や、気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました:
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
- 日本腎臓学会「腎臓病診療ガイドライン」
- 日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン」
- 日本内分泌学会「内分泌代謝科専門医研修ガイドブック」
- 国立循環器病研究センター「循環器病情報サービス」
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「低カリウム血症」
- e-ヘルスネット(厚生労働省)「カリウム」
- 日本医師会「健康の森」
本記事は医学的知識の提供を目的としており、特定の診断や治療を推奨するものではありません。ご自身の健康状態については、必ず医療機関を受診し、医師の診断と指導を受けてください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務