はじめに
「脂肪肝」という言葉を健康診断で耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。近年、生活習慣の変化に伴い、脂肪肝は日本人の3人に1人が該当すると言われるほど身近な疾患となっています。
脂肪肝は肝臓に脂肪が蓄積した状態を指しますが、「放置しても大丈夫」と軽視されがちな一方で、実は肝硬変や肝がんへと進行する可能性もある重要な疾患です。本記事では、脂肪肝の基礎知識から原因、症状、診断方法、治療法、そして予防策まで、包括的に解説していきます。

脂肪肝とは何か
脂肪肝の定義
脂肪肝(しぼうかん)とは、肝臓に中性脂肪が異常に蓄積した状態を指します。医学的には、肝臓を構成する肝細胞の30%以上に脂肪が沈着している状態、または肝臓全体の重量の5%以上を脂肪が占めている状態を脂肪肝と定義しています。
正常な肝臓にも少量の脂肪は含まれていますが、過剰に蓄積すると肝臓の正常な機能が損なわれ、様々な健康問題を引き起こす可能性があります。
肝臓の役割と重要性
脂肪肝を理解する上で、まず肝臓の役割を知っておくことが重要です。肝臓は人体最大の臓器で、成人で約1.2〜1.5kgの重さがあります。肝臓は以下のような多彩な機能を担っています。
代謝機能
- 糖質、脂質、タンパク質の代謝
- エネルギーの貯蔵と供給
- ビタミンの貯蔵
解毒機能
- アルコールや薬物の分解
- アンモニアの無毒化
- 老廃物の処理
合成機能
- 血液凝固因子の合成
- アルブミンなどのタンパク質の合成
- コレステロールの合成
胆汁の生成
- 脂肪の消化を助ける胆汁の生成と分泌
これらの重要な機能を持つ肝臓に脂肪が過剰に蓄積すると、肝機能が徐々に低下していく可能性があります。
脂肪肝の種類
脂肪肝は大きく分けて、アルコール性と非アルコール性の2つのタイプに分類されます。
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
NAFLD(Non-Alcoholic Fatty Liver Disease) は、アルコールをほとんど飲まない人(男性で1日30g未満、女性で1日20g未満のアルコール摂取)に発症する脂肪肝です。日本では成人の約25〜30%がNAFLDを有していると推定されており、最も一般的なタイプの脂肪肝となっています。
NAFLDはさらに以下の2つに分類されます。
単純性脂肪肝(NAFL) 肝臓に脂肪が蓄積しているものの、肝細胞の炎症や線維化がほとんど見られない状態です。比較的予後が良好で、生活習慣の改善により改善する可能性が高いタイプです。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH) NASH(Non-Alcoholic Steatohepatitis) は、脂肪の蓄積に加えて肝細胞の炎症や線維化を伴う状態です。NAFLDの約10〜20%がNASHに該当すると考えられています。NASHは進行すると肝硬変や肝がんへと発展するリスクがあり、より注意が必要な病態です。
アルコール性脂肪肝(AFLD)
AFLD(Alcoholic Fatty Liver Disease) は、過度のアルコール摂取によって引き起こされる脂肪肝です。アルコールは肝臓で代謝される際に中性脂肪の合成を促進し、同時に脂肪の分解を抑制するため、肝臓に脂肪が蓄積しやすくなります。
長期間の大量飲酒を続けると、単純な脂肪肝からアルコール性肝炎、さらには肝硬変へと進行する危険性があります。アルコール性脂肪肝の場合、禁酒によって改善する可能性が高いという特徴があります。
脂肪肝の原因
脂肪肝の原因は多岐にわたりますが、主な要因について詳しく見ていきましょう。
生活習慣に関連する原因
過剰なカロリー摂取 食事から摂取するカロリーが消費カロリーを上回ると、余剰なエネルギーは中性脂肪として肝臓に蓄積されます。特に以下のような食生活は脂肪肝のリスクを高めます。
- 高脂肪食の過剰摂取
- 糖質(特に精製された炭水化物)の過剰摂取
- 果糖(フルーツジュースや清涼飲料水に含まれる)の過剰摂取
- 夜間の高カロリー食
- 早食いや過食
運動不足 運動不足は筋肉量の減少とエネルギー消費の低下を招き、余剰なカロリーが脂肪として蓄積されやすくなります。厚生労働省のe-ヘルスネットでも、適度な運動が肝機能改善に重要であることが指摘されています。
肥満とメタボリックシンドローム BMI(Body Mass Index)が25以上の肥満、特に内臓脂肪型肥満は脂肪肝の主要なリスク因子です。メタボリックシンドロームの診断基準に該当する場合、脂肪肝のリスクは大幅に上昇します。
メタボリックシンドロームの診断基準には以下が含まれます。
- 内臓脂肪蓄積(腹囲が男性85cm以上、女性90cm以上)
- 高血糖
- 脂質異常
- 高血圧
これらの条件が複数該当する場合、脂肪肝だけでなく、心血管疾患のリスクも高まります。
アルコール摂取
過度のアルコール摂取は、直接的に肝臓での脂肪合成を促進し、脂肪の分解を抑制します。一般的に、以下の量を超えるアルコール摂取は脂肪肝のリスクを高めるとされています。
- 男性:1日あたり純アルコール30g以上(日本酒約1.5合、ビール中瓶約1.5本相当)
- 女性:1日あたり純アルコール20g以上(日本酒約1合、ビール中瓶約1本相当)
女性は男性よりもアルコールの影響を受けやすいため、より少ない量でも脂肪肝を発症しやすい傾向があります。
糖尿病と脂肪肝
2型糖尿病と脂肪肝は密接な関係にあります。糖尿病患者の約70%に脂肪肝が認められるという報告もあり、両者は互いに影響し合っています。
インスリン抵抗性(インスリンの効きが悪い状態)があると、肝臓での脂肪合成が亢進し、脂肪肝が発症しやすくなります。逆に、脂肪肝があるとインスリン抵抗性が悪化し、糖尿病のコントロールが困難になるという悪循環が生じます。
脂質異常症
高トリグリセライド血症(中性脂肪が高い状態)や高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症などの脂質異常症も、脂肪肝の重要なリスク因子です。血液中の脂質バランスが崩れると、肝臓への脂肪蓄積が促進されます。
薬剤性脂肪肝
一部の薬剤は副作用として脂肪肝を引き起こすことがあります。以下のような薬剤が知られています。
- ステロイド剤(長期使用の場合)
- 一部の抗がん剤
- 抗てんかん薬
- 抗不整脈薬
- ホルモン剤
薬剤による脂肪肝が疑われる場合は、主治医と相談の上、薬剤の変更や中止を検討する必要があります。
その他の原因
急激な体重減少 極端なダイエットや絶食により急激に体重が減少すると、逆説的に脂肪肝が発症することがあります。これは、脂肪組織から大量の脂肪酸が肝臓に流入するためです。
遺伝的要因 脂肪肝の発症には遺伝的要因も関与していることが分かっています。PNPLA3遺伝子などの特定の遺伝子多型を持つ人は、脂肪肝を発症しやすいことが報告されています。
脂肪肝の症状
脂肪肝の特徴的な点は、初期段階ではほとんど自覚症状がないことです。これが「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の特徴でもあり、脂肪肝が見過ごされやすい理由でもあります。
初期の症状
単純性脂肪肝の段階では、以下のような軽微な症状が現れることがありますが、多くの場合は無症状です。
- 軽度の倦怠感
- 右上腹部の重苦しさ
- 食欲不振
- 軽度の腹部膨満感
これらの症状は非特異的であり、日常生活の疲労やストレスと区別がつきにくいため、脂肪肝が原因であることに気づかないことがほとんどです。
進行した場合の症状
脂肪肝が進行してNASHや肝硬変へと発展すると、より明確な症状が現れます。
NASH段階での症状
- 慢性的な疲労感
- 持続的な腹部不快感
- 体重減少
- 黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)
肝硬変段階での症状
- 黄疸の悪化
- 腹水(お腹に水が溜まる)
- 浮腫(むくみ)
- 吐血や下血(食道静脈瘤破裂の場合)
- 意識障害(肝性脳症)
- 易出血性(出血しやすくなる)
- 手掌紅斑(手のひらが赤くなる)
- クモ状血管腫
これらの症状が現れた時点では、すでに肝機能が相当低下している可能性が高く、早期発見・早期治療の重要性が分かります。
脂肪肝の診断方法
脂肪肝の診断には、いくつかの検査方法が用いられます。
血液検査
脂肪肝を疑う最初の手がかりとなるのが、血液検査での肝機能検査です。
AST(GOT)とALT(GPT) 肝細胞が損傷を受けると血液中に放出される酵素です。特にALTは肝臓に特異的で、脂肪肝ではALTがASTよりも高値を示すことが多くあります。ただし、肝機能検査が正常でも脂肪肝が存在する可能性はあります。
γ-GTP(ガンマGTP) アルコール性肝障害で特に上昇しやすい酵素です。飲酒習慣のある方で高値を示す場合、アルコール性脂肪肝が疑われます。
その他の検査項目
- 血小板数(肝硬変への進行を評価)
- アルブミン(肝臓での合成能を反映)
- 総ビリルビン(肝機能を反映)
- 中性脂肪、コレステロール値
- 血糖値、HbA1c(糖尿病の評価)
画像検査
腹部超音波検査(エコー検査) 脂肪肝の診断に最も広く用いられる検査です。非侵襲的で安全性が高く、脂肪肝がある場合、肝臓が通常よりも白く(高輝度に)映ります。健康診断でも実施されることが多く、早期発見に有用です。
CT検査(コンピュータ断層撮影) 肝臓と脾臓の濃度(CT値)を比較することで、脂肪肝の程度を定量的に評価できます。脂肪が蓄積すると肝臓のCT値が低下し、脾臓よりも黒く映ります。
MRI検査(磁気共鳴画像診断) 特にMRエラストグラフィーという技術を用いると、肝臓の硬さ(線維化の程度)を非侵襲的に評価できます。NASHの診断や病期判定に有用です。
フィブロスキャン(振動制御過渡エラストグラフィー) 肝臓の硬さと脂肪の量を同時に測定できる検査です。痛みを伴わず、短時間で実施できるため、近年注目されています。
肝生検
肝臓の組織を針で採取し、顕微鏡で観察する検査です。脂肪肝の確定診断、炎症や線維化の程度の評価に最も正確な方法ですが、侵襲的な検査であるため、診断や治療方針の決定に必要な場合にのみ実施されます。
特にNASHの診断や、肝硬変への進行リスクの評価が必要な場合に検討されます。
診断のフローチャート
一般的な脂肪肝の診断は以下のような流れで進みます。
- 健康診断での異常: 肝機能検査の異常や腹部超音波検査での脂肪肝の指摘
- 問診: 飲酒歴、食生活、運動習慣、既往歴、服薬歴の確認
- 身体診察: 身長、体重、腹囲の測定、腹部の触診
- 詳細な血液検査: 肝機能、脂質、血糖などの評価
- 画像検査: 超音波、CT、MRIなどで脂肪肝の程度と合併症を評価
- 必要に応じて肝生検: NASHの診断や病期評価が必要な場合
脂肪肝の治療法
脂肪肝の治療は、その原因と病態によって異なりますが、基本的には生活習慣の改善が最も重要です。
生活習慣の改善
食事療法
脂肪肝の治療において、食事療法は最も基本的かつ重要な治療法です。
適切なカロリー制限 まず、自分の適正体重と必要エネルギー量を把握することが重要です。一般的に、標準体重1kgあたり25〜30kcalが目安とされています。肥満がある場合は、現在の体重から5〜10%の減量を目標に設定します。
栄養バランスの改善
- 炭水化物:総エネルギーの50〜60%
- タンパク質:総エネルギーの15〜20%(1.0〜1.2g/kg標準体重)
- 脂質:総エネルギーの20〜25%
推奨される食品と食習慣
- 野菜を積極的に摂取(1日350g以上が目標)
- 全粒穀物を選ぶ(白米より玄米、白パンより全粒粉パン)
- 良質なタンパク質(魚、大豆製品、鶏肉など)
- 不飽和脂肪酸(青魚、ナッツ類、オリーブオイル)
- 食物繊維を豊富に含む食品
- 1日3食、規則正しい食事時間
- ゆっくりよく噛んで食べる
- 夜遅い時間の食事を避ける
避けるべき食品
- 砂糖や果糖を多く含む飲料(清涼飲料水、フルーツジュース)
- 精製された炭水化物(白米、白パン、お菓子類)
- 飽和脂肪酸の多い食品(脂身の多い肉、バター、生クリーム)
- トランス脂肪酸を含む食品(マーガリン、ショートニング使用の菓子)
- アルコール飲料(特にアルコール性脂肪肝の場合)
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」を参考に、バランスの取れた食事を心がけましょう。
運動療法
運動は脂肪肝の改善に極めて効果的です。肝臓の脂肪を減少させるだけでなく、インスリン抵抗性の改善、体重減少、心血管機能の向上など、多面的な効果があります。
有酸素運動 週に150〜250分(1日30〜40分、週5日程度)の中等度の有酸素運動が推奨されています。
推奨される運動:
- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳
- サイクリング
- エアロビクス
筋力トレーニング 週2〜3回の筋力トレーニングを有酸素運動と組み合わせることで、より効果的な改善が期待できます。筋肉量が増えると基礎代謝が向上し、太りにくい体質になります。
日常生活での活動量増加
- エレベーターではなく階段を使う
- 通勤時に一駅分歩く
- 家事を積極的に行う
- 座りっぱなしを避け、こまめに立ち上がる
運動開始前に、特に心血管疾患のリスクがある方や長期間運動習慣がなかった方は、医師に相談することをお勧めします。
体重管理
肥満がある場合、3〜6ヶ月で現在の体重の5〜10%の減量を目標にします。急激な減量は逆効果になることがあるため、月1〜2kgのペースでゆっくりと減量することが推奨されます。
研究によると、7〜10%の体重減少でNASHの改善が見られることが報告されています。
禁酒または節酒
アルコール性脂肪肝の場合、禁酒が最も効果的な治療法です。非アルコール性脂肪肝の場合でも、飲酒は肝障害を悪化させる可能性があるため、節酒または禁酒が推奨されます。
アルコールを完全にやめることが難しい場合は、少なくとも以下を守ることが重要です。
- 1日の飲酒量を適量以下に制限
- 週に2日以上の休肝日を設ける
- 飲酒時は食事を必ず摂る
薬物療法
生活習慣の改善だけでは効果が不十分な場合や、合併症がある場合には薬物療法が検討されます。
肝庇護薬 肝細胞を保護し、肝機能を改善する薬剤です。ウルソデオキシコール酸(UDCA)などが使用されることがあります。
糖尿病治療薬 糖尿病を合併している場合、血糖コントロールが脂肪肝の改善につながります。特に以下の薬剤は脂肪肝に対する効果が報告されています。
- ビグアナイド薬(メトホルミン)
- チアゾリジン薬(ピオグリタゾン)
- GLP-1受容体作動薬
- SGLT2阻害薬
脂質異常症治療薬 スタチン系薬剤は、コレステロールを下げるだけでなく、肝臓の炎症を抑える効果も期待されています。
ビタミンE NASHに対する抗酸化作用が研究されていますが、長期使用の安全性については慎重な評価が必要です。
その他の薬剤 現在、脂肪肝やNASHに対する新しい治療薬の研究開発が進められています。今後、より効果的な薬物療法が登場する可能性があります。
いずれの薬剤も、医師の処方と指導のもとで使用する必要があります。
定期的なフォローアップ
脂肪肝と診断された後は、定期的な経過観察が重要です。
推奨される検査頻度
- 血液検査:3〜6ヶ月ごと
- 腹部超音波検査:6〜12ヶ月ごと
- 必要に応じてCTやMRI検査
特にNASHと診断されている場合や、肝硬変への進行リスクが高い場合は、より頻繁なフォローアップが必要です。
脂肪肝の予防
脂肪肝は生活習慣病の一つであり、日常生活の改善によって予防することが可能です。
健康的な食生活
地中海式食事 地中海式食事は脂肪肝の予防に効果的であることが多くの研究で示されています。
- オリーブオイルを主な脂肪源とする
- 魚介類を週に数回摂取
- 野菜、果物、全粒穀物、豆類を豊富に摂取
- 適量のナッツ類
- 赤肉や加工肉は控えめに
- 適度なワイン(飲む場合)
日本型食事 伝統的な日本食も脂肪肝予防に適しています。
- 魚中心のタンパク質
- 大豆製品(豆腐、納豆、味噌)
- 海藻類
- 野菜の煮物、漬物
- 玄米や雑穀米
- 緑茶
食事のタイミングと頻度
- 朝食を抜かない
- 夕食は就寝3時間前までに済ませる
- 間食は控えめに
- 夜食を避ける
適度な運動習慣
運動は脂肪肝の予防だけでなく、全身の健康維持に不可欠です。
運動習慣の確立
- 毎日30分以上の身体活動を目標にする
- 自分が楽しめる運動を選ぶ
- 仲間と一緒に運動する
- 運動の記録をつける(歩数計やアプリの活用)
日常生活での工夫
- 通勤時に一駅分歩く
- 昼休みに散歩をする
- テレビを見ながらストレッチ
- 買い物は徒歩や自転車で
適正体重の維持
肥満は脂肪肝の最大のリスク因子です。以下を参考に適正体重を維持しましょう。
BMIの計算 BMI = 体重(kg) ÷ 身長(m) ÷ 身長(m)
日本肥満学会の基準:
- 18.5未満:低体重
- 18.5〜25未満:普通体重
- 25以上:肥満
腹囲の管理 内臓脂肪型肥満の指標として腹囲も重要です。
- 男性:85cm未満
- 女性:90cm未満
適度な飲酒
飲酒の適量 飲酒する場合は、以下の適量を守りましょう。
- 日本酒:1合(180ml)
- ビール:中瓶1本(500ml)
- ワイン:グラス2杯(200ml)
- ウイスキー:ダブル1杯(60ml)
これらは純アルコール約20gに相当します。
休肝日の設定 週に少なくとも2日は飲酒しない日を設けることが推奨されます。
定期的な健康診断
早期発見・早期対応のために、年に1回は健康診断を受けましょう。
健康診断での重要な検査項目
- 身長、体重、腹囲測定
- 血圧測定
- 血液検査(肝機能、脂質、血糖)
- 腹部超音波検査
異常を指摘された場合は、放置せずに医療機関を受診し、適切な対応を行うことが重要です。
脂肪肝の合併症と進行
脂肪肝を放置すると、様々な合併症や病態の進行が起こる可能性があります。
肝疾患の進行
NASH(非アルコール性脂肪肝炎)への進行 単純性脂肪肝の約10〜20%がNASHに進行すると考えられています。NASHになると肝細胞の炎症と破壊が起こり、肝線維化が進行します。
肝硬変への進行 NASHの約10〜20%が10〜20年で肝硬変に進行します。肝硬変は肝臓全体が硬くなり、正常な肝機能が失われた状態です。
肝硬変になると以下のような合併症が起こります。
- 腹水
- 食道静脈瘤
- 肝性脳症
- 肝腎症候群
- 肝肺症候群
肝がんの発症 肝硬変にまで進行すると、肝がん(肝細胞がん)を発症するリスが大幅に上昇します。NASHから肝硬変を経て肝がんに至るケースは年々増加しており、日本における肝がんの新たな原因として注目されています。
日本肝臓学会のガイドラインでも、NASH由来の肝硬変に対する定期的なサーベイランス(監視)の重要性が強調されています。
心血管疾患リスクの上昇
脂肪肝は肝臓だけの問題ではなく、全身の代謝異常を反映しています。脂肪肝のある人は、以下のような心血管疾患のリスクが高まります。
動脈硬化の進行 脂肪肝があると、動脈硬化が進行しやすくなります。これは、肝臓から放出される炎症性物質や脂質代謝異常が血管に悪影響を与えるためです。
虚血性心疾患 狭心症や心筋梗塞のリスクが上昇します。研究によると、脂肪肝のある人はない人に比べて心血管疾患による死亡リスクが約1.5〜2倍高いことが報告されています。
脳血管疾患 脳梗塞や脳出血のリスクも上昇します。
糖尿病との相互関係
脂肪肝と2型糖尿病は密接に関連しており、互いに悪化させ合う関係にあります。
脂肪肝から糖尿病へ 脂肪肝があるとインスリン抵抗性が悪化し、糖尿病の発症リスクが高まります。脂肪肝のある人は、ない人に比べて2型糖尿病の発症リスクが約2〜5倍高いとされています。
糖尿病から脂肪肝へ 逆に、糖尿病があると脂肪肝の発症リスクが高まり、さらにNASHや肝硬変への進行リスクも上昇します。
慢性腎臓病(CKD)
脂肪肝は慢性腎臓病の発症リスクも高めることが分かっています。これは、脂肪肝による全身の代謝異常が腎臓にも影響を与えるためです。
その他の合併症
睡眠時無呼吸症候群 肥満を伴う脂肪肝では、睡眠時無呼吸症候群を合併することが多くあります。これにより、さらに心血管疾患のリスクが高まります。
大腸ポリープ・大腸がん 脂肪肝のある人は、大腸ポリープや大腸がんのリスクも高いことが報告されています。

脂肪肝に関するよくある質問(Q&A)
A: 脂肪肝、特に単純性脂肪肝の場合、生活習慣の改善によって完全に正常な状態に戻ることは十分可能です。適切な食事療法と運動療法を継続することで、多くの場合、3〜6ヶ月で改善が見られます。ただし、NASHや肝硬変まで進行している場合は、完全に元の状態に戻ることは困難ですが、進行を止めたり遅らせたりすることは可能です。
A: アルコールを飲まなくても脂肪肝になることはあります。これが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)です。主な原因は、過剰なカロリー摂取、運動不足、肥満、糖尿病、脂質異常症などです。現代の日本では、NAFLDが脂肪肝の大部分を占めており、決して珍しいことではありません。
Q3: 痩せていても脂肪肝になりますか?
A: はい、なります。BMIが正常範囲でも内臓脂肪が多い「隠れ肥満」の状態では脂肪肝が発症することがあります。また、筋肉量が少ない「サルコペニア」の状態でも、代謝が低下して脂肪肝になりやすくなります。体重だけでなく、体組成(筋肉と脂肪のバランス)も重要です。
Q4: 脂肪肝の食事で特に避けるべきものは何ですか?
A: 特に避けるべきは以下のものです。
- 砂糖や果糖を多く含む飲料(清涼飲料水、フルーツジュース)
- 精製された炭水化物(白米、白パン、お菓子)
- 飽和脂肪酸の多い食品(脂身の多い肉、バター、揚げ物)
- アルコール飲料
特に果糖の過剰摂取は脂肪肝を悪化させることが分かっています。フルーツは適量であれば問題ありませんが、ジュースにして大量に摂取することは避けましょう。
Q5: サプリメントで脂肪肝は改善しますか?
A: 一部のサプリメント(ビタミンE、オメガ3脂肪酸など)には脂肪肝の改善効果が報告されていますが、基本的にはサプリメントだけで脂肪肝が改善することは期待できません。生活習慣の改善が最も重要であり、サプリメントはあくまで補助的な役割と考えるべきです。また、サプリメントの使用については医師に相談することをお勧めします。
Q6: 脂肪肝と診断されました。どのくらいの頻度で検査を受けるべきですか?
A: 一般的には、以下の頻度が推奨されます。
- 血液検査(肝機能):3〜6ヶ月ごと
- 腹部超音波検査:6〜12ヶ月ごと
ただし、NASHの疑いがある場合や肝機能が悪化している場合は、より頻繁な検査が必要になることがあります。主治医の指示に従ってください。
Q7: 遺伝するのでしょうか?家族も検査すべきですか?
A: 脂肪肝そのものが直接遺伝するわけではありませんが、脂肪肝になりやすい体質(遺伝子多型)は存在します。また、家族で生活習慣が似ているため、家族内で脂肪肝が多発することもあります。ご家族に脂肪肝や肝疾患がある場合、定期的な健康診断を受けることをお勧めします。
Q8: 脂肪肝があると献血できませんか?
A: 軽度の脂肪肝であれば献血は可能ですが、肝機能検査(ALT値)が基準値を超えている場合は献血できません。具体的な基準は献血施設によって異なりますので、献血前に確認することをお勧めします。
Q9: 妊娠中に脂肪肝と診断されました。胎児への影響はありますか?
A: 妊娠中の脂肪肝には注意が必要です。妊娠後期に急性妊娠脂肪肝(AFLP)という重篤な病態が発症することがあり、母体と胎児の両方に危険が及ぶ可能性があります。妊娠中に肝機能異常を指摘された場合は、必ず産科医に相談してください。
Q10: コーヒーは脂肪肝に良いと聞きましたが、本当ですか?
A: 複数の研究で、コーヒーの摂取が脂肪肝の改善や肝硬変、肝がんの予防に効果がある可能性が示されています。コーヒーに含まれるカフェインやクロロゲン酸などの成分が、肝臓の脂肪蓄積を抑制したり、抗炎症作用を発揮したりすると考えられています。
ただし、砂糖やクリームを大量に加えると逆効果になるため、ブラックコーヒーまたは少量のミルクで飲むことが推奨されます。1日2〜3杯程度が適量とされています。
まとめ
脂肪肝は、現代の日本人にとって非常に身近な疾患です。初期段階では症状がほとんどないため見過ごされがちですが、放置すると肝硬変や肝がんへと進行する可能性もある重要な病態です。
脂肪肝の重要ポイント
- 早期発見が重要: 定期的な健康診断で早期に発見することが大切です
- 生活習慣の改善が基本: 食事療法と運動療法が最も効果的な治療法です
- 体重管理: 肥満がある場合、5〜10%の体重減少で改善が期待できます
- 禁酒または節酒: アルコール性脂肪肝では禁酒が必須です
- 定期的なフォローアップ: 診断後も継続的な経過観察が必要です
脂肪肝は、多くの場合、生活習慣の改善によって改善可能な疾患です。しかし、そのためには継続的な努力が必要です。一時的な改善で満足せず、健康的な生活習慣を長期的に維持することが重要です。
参考文献
- 日本肝臓学会「NAFLD/NASH診療ガイドライン」
https://www.jsh.or.jp/ - 厚生労働省「e-ヘルスネット – 脂肪肝」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/ - 厚生労働省「日本人の食事摂取基準」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/syokuji_kijyun.html - 国立国際医療研究センター「糖尿病情報センター」
https://dmic.ncgm.go.jp/ - 日本消化器病学会「肝疾患に関する情報」
https://www.jsge.or.jp/
【医療監修について】 本記事は、最新の医学的知見に基づいて作成されていますが、個々の症状や治療方針については、必ず医師にご相談ください。
※本記事の情報は2025年11月時点のものです。最新の情報については、専門医療機関にご確認ください。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務