はじめに
「しっかり睡眠をとっているはずなのに、日中も眠くて仕方がない」「会議中や仕事中に強い眠気に襲われる」「朝起きてもすっきりしない」といったお悩みを抱えていませんか。十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず、日中に耐えがたい眠気を感じる状態は、単なる疲労や睡眠不足ではなく、何らかの身体的・精神的な問題が隠れているサインかもしれません。
特に女性の場合、ホルモンバランスの変化や貧血、甲状腺機能の異常など、女性特有の要因が眠気の原因となっていることが少なくありません。また、睡眠時無呼吸症候群やうつ病といった疾患も、過度な眠気を引き起こす重要な原因です。
この記事では、女性が「寝ても寝ても眠い」と感じる原因について、医学的な根拠に基づいて詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせながら、適切な対処法を見つけていただければ幸いです。

なぜ女性は眠くなりやすいのか
睡眠と眠気の問題は、実は男性よりも女性に多く見られることが様々な調査で明らかになっています。アメリカで行われた100万人以上を対象にした大規模調査では、どの年代においても男性より女性のほうが不眠の訴えが多く、かつ50歳前後で急速に増えていることが報告されています。
また、厚生労働省の国民生活基礎調査によると、40代、50代の女性では睡眠時間が少なくなる傾向があることも分かっています。さらに、厚生労働省のe-ヘルスネットによれば、一般成人の30から40パーセントが何らかの不眠症状を有しており、女性に多いことが知られています。
女性の睡眠問題や眠気が多い背景には、月経や妊娠、出産、更年期といった女性特有のライフイベントに伴うホルモンバランスの変化が大きく関わっています。加えて、社会的な役割の多様化により、家事、育児、仕事といった複数の責任を担うことで生じるストレスや疲労も、睡眠の質や日中の眠気に影響を及ぼしていると考えられます。
女性特有の眠気の原因
1. ホルモンバランスの変化
女性の体は月経周期、妊娠・出産、更年期といったライフステージを通じて、大きなホルモン変動にさらされています。これらのホルモンの変化は、睡眠と覚醒のリズムに直接的な影響を与えます。
月経周期と眠気
厚生労働省のe-ヘルスネット「女性の睡眠障害」では、生理前の強い眠気について詳しく解説されています。月経周期に伴い、女性ホルモンが大きく変動することで、睡眠の変化が起こります。
月経開始とともに卵胞期となり、エストロゲンが徐々に増加します。排卵後の黄体期には、プロゲステロンが増加し、卵胞期に比べ基礎体温が高くなります。深部体温リズムを連続測定すると、黄体期では一日の体温リズムのメリハリがなくなっているため、月経前には睡眠が浅くなったり日中の眠気が強くなったりすると考えられています。
月経前症候群では、程度の差はあれほとんどの女性が何らかの心身の不調を経験しており、なかでも睡眠の変化は共通の悩みとなっています。イライラや気分の悪さ、頭痛といった症状とともに、「生理前にやたらと眠くなる」という訴えは非常に多く見られます。
妊娠期の眠気
妊娠中は、ホルモンバランスの大きな変化により、眠気や不眠といった睡眠の問題が生じやすくなります。妊娠初期から中期にかけては、プロゲステロンの増加により日中の眠気が強くなることがあります。また、妊娠後期になるとお腹が大きくなり、横隔膜が押し上げられて肺が圧迫されるため、睡眠時無呼吸症候群のリスクも高まります。
妊娠中の体重増加も気道を狭くする要因となり、いびきや無呼吸が出現することで睡眠の質が低下し、日中の眠気につながることがあります。妊娠に伴う鉄分の需要増加により貧血が生じやすく、これも眠気やだるさの原因となります。
更年期と眠気
更年期に入ると、女性ホルモンの分泌が不規則になり、不眠症状が増えることがあります。のぼせや発汗といった血管運動神経症状が夜間の睡眠を妨げることも多く、結果として日中の眠気や倦怠感につながります。
閉経後は女性ホルモンの分泌が減少することで、気道の筋肉が弱くなり気道が狭まりやすくなるため、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。更年期障害の症状と睡眠時無呼吸症候群の症状が似ているため、婦人科を受診していたところ実は睡眠時無呼吸症候群だったというケースもあります。
2. 貧血(鉄欠乏性貧血)
女性に「寝ても寝ても眠い」という症状を引き起こす大きな原因の一つが貧血、特に鉄欠乏性貧血です。
女性に貧血が多い理由
働く女性の心とからだの応援サイトによると、日本女性の40パーセント、特に月経のある20代から40代の女性の約65パーセントが「貧血」もしくは「かくれ貧血」とされています。
女性には月に1回の月経で定期的な出血があるため、貧血になりやすい状態にあります。月経以外にも、妊娠や授乳、出産時の出血などで鉄分が失われやすく、子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科系疾患で貧血を起こす場合もあります。
貧血による眠気のメカニズム
貧血とは、血液中のヘモグロビン濃度が低下した状態を指します。ヘモグロビンは鉄とタンパク質が結合したもので、全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。鉄分が不足すると、ヘモグロビンが十分に作られず、体内が酸欠状態になります。
脳への酸素供給が不足すると、脳の活動が低下し、判断力が鈍り、ぼーっとして眠気を起こします。また、貧血の人は日常的に疲れやすく、少し動くと息切れしたり、集中力が低下したりします。身体全体に酸素が不足しているため、常に疲労を感じやすく、この疲労感が眠気として現れることがあります。
かくれ貧血(潜在性鉄欠乏症)
体内の鉄分は「ヘモグロビン鉄」と「フェリチン鉄」(貯蔵鉄)の二つが存在しています。鉄分が不足すると、まずフェリチン鉄が減少し、これが枯渇するとヘモグロビン鉄が減少していきます。
一般的な健康診断ではヘモグロビン値を測定しますが、フェリチン値は測定されません。そのため、ヘモグロビン値は正常でもフェリチン鉄が不足している「かくれ貧血」の状態では、疲れやすさやだるさ、眠気を感じることがあります。月経のある女性の半数以上が、このかくれ貧血の状態にあるともいわれています。
貧血の症状チェック
以下のような症状がある場合、鉄欠乏性貧血の可能性があります。
- だるい、頭痛、疲れやすい
- 朝起きたときのだるさや眠気
- イライラする
- 息切れ、動悸
- めまい、立ちくらみ
- 集中力の低下
- 爪が割れやすい、変形する
- 氷をとても食べたくなる
- 肌荒れ、むくみ
3. 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症も、女性に眠気を引き起こす重要な原因の一つです。
甲状腺ホルモンと睡眠の関係
甲状腺は首の前面、のど仏のすぐ下にある蝶のような形をした臓器で、甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進し、脳や胃腸の活性化、体温の調節などの役割があります。
国立病院機構京都医療センターの解説によれば、甲状腺機能低下症では、元気がなくなり疲れやすくなり、動作は遅く、物忘れが多くなり、一日中眠くなったりします。寒がりになり、皮膚は乾燥してカサカサし、便秘がちで、顔がむくみ、体重が増えてきます。
女性に多い甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症は女性に多く、男性の2倍以上にみられます。40歳以降の女性の約1パーセントが発症するといわれており、加齢に伴って発症頻度は高くなります。原因として最も多いのが慢性甲状腺炎(橋本病)で、成人女性の30人に1人は軽症例を含めて橋本病を有しているとされています。
甲状腺機能低下症の症状
甲状腺ホルモンは全身の代謝を活性化する働きがあるため、その分泌が低下すると全身の器官や精神的な活動性が低下します。
精神的症状としては以下があります。
- 抑うつ気分
- 眠気
- 記憶力の低下
- 無気力感
- 動作緩慢
身体的症状としては以下があります。
- 倦怠感
- 寒がり
- むくみ
- 体重増加
- 脱毛
- 便秘
- 皮膚の乾燥
- 生理不順
甲状腺機能低下症は軽度な場合、ほとんど自覚症状がないことも多いため、うつ病や更年期障害、自律神経失調症と間違われることもあります。「夏なのに汗をかかない」というのも甲状腺機能低下症の特徴的なサインの一つです。
一般的な眠気の原因(男女共通)
1. 睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に何度も呼吸が止まる病気で、日中の強い眠気を引き起こす代表的な疾患です。
睡眠時無呼吸症候群とは
兵庫医科大学病院の解説によれば、睡眠中に10秒以上息が止まる状態を無呼吸といい、平均して1時間に5回以上、睡眠中に無呼吸が見られる場合は睡眠時無呼吸症候群と診断されます。
睡眠中に何度も息が止まると眠りの質が悪くなり、日中の眠気やからだの怠さなどの症状を引き起こします。また、血液中の酸素が欠乏することによって心臓、脳、血管に負担がかかり、脳卒中、狭心症、心筋梗塞などの重篤な合併症を来たす危険が高まります。
女性の睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群は成人男性に多いイメージがありますが、女性、特に閉経後の女性でも発症が増えることが知られています。女性ホルモンは呼吸をコントロールする中枢にも影響を与えており、閉経後に女性ホルモンの分泌が減少すると、気道の筋肉が弱くなり気道が狭まりやすくなります。
女性の場合、はっきりとした眠気よりも、精神的な不調や身体的な疲労感を強く訴える傾向があります。朝起きたときにスッキリしない、日中耐えられないほどの眠気に襲われる、頭痛がする、といった症状が特徴的です。
睡眠時無呼吸症候群の主な症状
- いびきをかく
- 睡眠中に呼吸が止まる(家族からの指摘)
- 日中の強い眠気や倦怠感
- 朝起きたときの頭痛や口の渇き
- 夜間に何度も目が覚める
- 起床時の倦怠感
2. うつ病と精神的な問題
うつ病でも、過眠の症状が見られることがあります。多くの人がうつ病の症状として不眠を思い浮かべますが、実は過眠もうつ病でよくみられる症状の一つです。
うつ病と過眠の関係
うつ病の診断基準には「ほぼ毎日の不眠または過眠」といった睡眠の変化が含まれており、過眠はうつ病の特徴的な症状となっています。うつ病では10から40パーセント、非定型うつ病では約35パーセント、冬季うつでは約70パーセントで過眠を認めるとされています。
うつ病では脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリンなど)のバランスが乱れ、睡眠と覚醒リズムも乱してしまいます。また、イライラや意欲低下、気分の落ち込みといった症状も、眠気や気だるさを引き起こす原因となります。
非定型うつ病
非定型うつ病は、20代から30代の女性に多く見られるうつ病の一種です。一般的なうつ病では不眠や食欲低下が見られることが多いのに対し、非定型うつ病では過眠と過食が特徴的です。
また、一般的なうつ病では朝から日中が落ち込みやすい時間帯ですが、非定型うつ病では夕方から夜間に気持ちが落ち込むことが多く、他人の言動や行動にイライラするといった症状も見られます。
うつ病の症状チェック
過眠に加えて以下のような症状が2週間以上続いている場合は、うつ病の可能性があります。
- 気分が落ち込み、悲しみや空しさを感じる
- 趣味や好きな活動が楽しめなくなった
- 食欲がない、あるいは食べ過ぎてしまう
- 集中力の低下、決断力の低下
- 疲れやすい、気力がない
- 自分を責める、自分には価値がないと感じる
3. 睡眠不足と生活習慣の乱れ
根本的に睡眠時間が不足している場合、日中に眠気を感じるのは当然のことです。また、睡眠時間が十分でも、睡眠の質が低下していれば、日中の眠気につながります。
必要な睡眠時間
厚生労働省の健康づくりのための睡眠ガイド2023では、成人の推奨睡眠時間は7時間程度とされていますが、必要な睡眠時間には個人差があります。自分では十分な時間寝ているつもりでも、体としてはもっと睡眠時間が必要だった可能性があります。
睡眠の質を低下させる要因
- 不規則な睡眠時間(毎日寝る時間や起きる時間が異なる)
- 就寝前のスマートフォンやパソコンの使用
- カフェインやアルコールの摂取
- 寝室の環境(音、光、温度、湿度)
- ストレス
- 運動不足
医療機関を受診すべきサイン
「寝ても寝ても眠い」という状態が続く場合、以下のようなサインがあれば医療機関の受診を検討しましょう。
受診を検討すべき症状
- 眠気が2週間以上続いている
- 十分な睡眠時間を確保しているのに日中の眠気が強い
- 眠気により日常生活や仕事に支障が出ている
- 会議中や運転中など、重要な場面で眠ってしまう
- 朝起きたときに頭痛や倦怠感がある
- 家族からいびきや無呼吸を指摘されている
- 気分の落ち込みや意欲の低下がある
- 体重の増加や減少がある
- 疲れやすい、息切れがする
- 寒がりになった、汗をかかなくなった
どの診療科を受診すべきか
症状によって適切な診療科が異なります。
- 貧血が疑われる場合:内科、血液内科、婦人科(月経過多などの場合)
- 甲状腺機能低下症が疑われる場合:内科、内分泌内科、代謝内科
- 睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合:呼吸器内科、睡眠外来、耳鼻咽喉科
- うつ病が疑われる場合:精神科、心療内科
- 原因が分からない場合:まずは内科で相談
眠気への対処法と予防
生活習慣の改善
規則正しい睡眠リズム
毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる習慣をつけることが大切です。週末も含めて、睡眠リズムを一定に保つことで体内時計が整います。起きたら朝日を浴びることで、体内時計がリセットされ、夜の自然な眠気を促します。
睡眠環境の整備
寝室の環境を整えることで、睡眠の質が向上します。
- 室温:18から23度程度
- 湿度:50から60パーセント程度
- 光:遮光カーテンなどで暗くする
- 音:静かな環境を保つ
- 寝具:自分に合ったマットレスや枕を選ぶ
就寝前の習慣
- 就寝の1から2時間前にはスマートフォンやパソコンの使用を控える
- カフェインは夕方以降は避ける
- アルコールは睡眠の質を下げるため、寝酒は避ける
- 軽いストレッチや入浴でリラックスする
- 寝室は睡眠のためだけに使う(ベッドでスマートフォンを見ない)
食事と栄養
貧血予防のための食事
鉄分が多い食品を積極的に摂取しましょう。
- ヘム鉄(吸収率が高い):レバー、赤身の肉、魚(カツオ、マグロなど)
- 非ヘム鉄:ほうれん草、小松菜、大豆製品、ひじき
鉄の吸収を促進するビタミンCや、ヘモグロビンの材料となるタンパク質も一緒に摂取することが重要です。ただし、貧血がある場合は食事だけで治療するのは難しいため、医療機関で適切な治療を受けることが必要です。
甲状腺機能低下症の場合の注意点
甲状腺機能低下症と診断された方は、ヨウ素を多く含む食品の過剰摂取に注意が必要です。日常的に昆布を食べたり、昆布だしを多用したりすると、ヨウ素の過剰摂取により甲状腺機能低下症が悪化する恐れがあります。通常の食事程度なら問題ありませんが、健康法として海藻類を大量に摂取することは避けましょう。
適度な運動
適度な運動は、睡眠の質を向上させ、ストレス解消にもつながります。ウォーキングや軽いジョギング、ヨガなど、無理のない範囲で継続できる運動を取り入れましょう。ただし、就寝直前の激しい運動は避け、夕方までに運動を終えるようにします。
ストレス管理
ストレスは睡眠の質を低下させ、うつ病のリスクも高めます。趣味やリラクゼーション、友人との交流など、ストレスを発散できる時間を持つことが大切です。また、抱え込まずに周囲のサポートを得ることも重要です。

まとめ
「寝ても寝ても眠い」という状態は、単なる疲労や睡眠不足ではなく、様々な身体的・精神的な原因が隠れている可能性があります。
女性の場合、月経周期、妊娠、更年期といったライフステージに伴うホルモンバランスの変化が眠気の原因となることが多くあります。また、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能低下症といった女性に多い疾患も、過度な眠気を引き起こします。
さらに、睡眠時無呼吸症候群やうつ病、慢性的な睡眠不足なども、日中の眠気の重要な原因です。これらの疾患は適切な診断と治療により改善が見込めますので、症状が続く場合や日常生活に支障が出ている場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。
また、生活習慣の改善も眠気の予防や改善に有効です。規則正しい睡眠リズム、適切な睡眠環境の整備、バランスの良い食事、適度な運動、ストレス管理などを心がけましょう。
ご自身の健康を守るためにも、「寝ても寝ても眠い」という症状を軽視せず、原因を明らかにして適切な対処を行うことが重要です。不安な症状がある場合は、遠慮なく医療機関にご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の睡眠障害」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「過眠」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- 厚生労働省「令和元年国民生活基礎調査」
- 厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト – 貧血・かくれ貧血」
- 国立病院機構 京都医療センター「甲状腺の病気について」
- 兵庫医科大学病院「睡眠時無呼吸症候群」
- オムロン ヘルスケア「夏なのに汗をかかない…甲状腺機能低下症かも」
- 家庭の医学「甲状腺機能低下症」
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務