はじめに
蜂窩織炎(ほうかしきえん)という病名を聞いたことがありますか。医学用語では「cellulitis(セルライティス)」とも呼ばれるこの感染症は、皮膚の深い層から皮下組織にかけて細菌が侵入し、急速に炎症が広がる疾患です。一見すると「ただの皮膚の赤み」や「虫刺されの悪化」と思われがちですが、実は放置すると命に関わる重篤な状態に進行する可能性がある恐ろしい病気なのです。
近年、糖尿病患者の増加や高齢化社会の進展に伴い、蜂窩織炎の患者数は増加傾向にあります。特に免疫力が低下している方や持病をお持ちの方は、発症リスクが高く、また重症化しやすいという特徴があります。
本記事では、蜂窩織炎がなぜ恐ろしいのか、どのような症状が現れるのか、そしてどのように予防・治療すべきなのかについて、一般の方にもわかりやすく詳しく解説していきます。

蜂窩織炎とは何か
蜂窩織炎は、皮膚の真皮深層から皮下脂肪組織にかけて細菌感染が起こり、急性の炎症を引き起こす疾患です。「蜂窩」という名称は、蜂の巣のように組織が網目状に広がっている様子を表しており、この網目構造に沿って細菌が急速に拡散していくことから名付けられました。
発症のメカニズム
私たちの皮膚は、外部からの細菌やウイルスの侵入を防ぐバリア機能を持っています。しかし、擦り傷、切り傷、虫刺され、水虫、湿疹などで皮膚に小さな傷ができると、そこから細菌が体内に侵入します。通常であれば免疫システムが細菌を排除しますが、免疫力が低下していたり、細菌の数が多かったりすると、感染が成立してしまいます。
皮下組織は脂肪細胞と結合組織が疎らに配置された構造になっているため、一度細菌が侵入すると、この隙間を通って急速に広範囲に拡散していきます。これが蜂窩織炎の最も恐ろしい特徴の一つです。
原因となる細菌
蜂窩織炎を引き起こす主な細菌は、以下のようなものがあります。
溶連菌(A群β溶血性連鎖球菌)が最も多く、全体の約40-50%を占めるとされています。この細菌は咽頭炎や扁桃炎の原因としても知られていますが、皮膚感染も起こします。溶連菌による蜂窩織炎は進行が早く、激しい痛みを伴うことが特徴です。
黄色ブドウ球菌も主要な原因菌の一つで、約20-30%を占めます。この細菌は私たちの皮膚に常在している場合もありますが、傷口から侵入すると感染を起こします。特にMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による感染は治療が困難になることがあります。
その他、外傷の種類や患者の状態によって、大腸菌、緑膿菌、嫌気性菌などが原因となることもあります。特に動物咬傷や海水での外傷では、特殊な細菌による感染も考慮する必要があります。
なぜ蜂窩織炎は恐ろしいのか
蜂窩織炎の恐ろしさは、その急速な進行と重篤な合併症のリスクにあります。ここでは、この疾患が「単なる皮膚の感染症」では済まない理由を詳しく説明します。
急速な進行速度
蜂窩織炎の最も恐ろしい特徴は、感染の拡大速度です。朝は「少し赤くなっているだけ」だった部分が、夕方には手のひら大に腫れ上がり、翌朝には腕全体や下腿全体に広がっているということも珍しくありません。
この急速な進行は、先述したように皮下組織の構造に由来します。細菌が産生する酵素(ヒアルロニダーゼなど)が組織を溶かしながら、細菌は周囲の組織へと拡散していきます。特に溶連菌による感染では、数時間単位で炎症範囲が拡大することもあります。
患者さんの中には、「たかが赤みだから」と様子を見ているうちに、急激に悪化して緊急入院となるケースも少なくありません。この進行の速さこそが、蜂窩織炎を侮ってはいけない最大の理由です。
全身への影響
蜂窩織炎は局所の皮膚感染にとどまらず、全身に影響を及ぼします。細菌が産生する毒素や炎症性物質が血液中に入ると、全身性の炎症反応を引き起こします。
高熱(38度以上)、悪寒、戦慄、全身倦怠感、頭痛、関節痛などの全身症状が現れます。これは身体が感染と戦っている証拠ですが、同時に体力を消耗させます。特に高齢者や持病のある方では、この全身症状だけで体調が大きく悪化することがあります。
さらに重症化すると、敗血症(菌血症)という状態になります。これは細菌が血液中に入り込み、全身を巡って多臓器に影響を与える非常に危険な状態です。敗血症に至ると、血圧低下、意識障害、呼吸困難、腎機能障害など、生命を脅かす症状が出現し、集中治療が必要になります。
壊死性筋膜炎への進展リスク
蜂窩織炎が最も恐れられる理由の一つが、壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)への進展です。壊死性筋膜炎は、筋肉を覆う筋膜という組織に細菌感染が及び、急速に組織が壊死していく疾患で、「人食いバクテリア感染症」として知られることもあります。
壊死性筋膜炎に進展すると、死亡率は20-40%と報告されており、生存した場合でも広範囲の組織切除が必要となり、四肢の切断に至るケースもあります。蜂窩織炎から壊死性筋膜炎への移行は、特に糖尿病患者や免疫不全患者で起こりやすいとされています。
激烈な痛み、急速な腫脹、皮膚の色調変化(紫色から黒色へ)、水疱形成、皮膚の感覚低下などが見られた場合は、壊死性筋膜炎への進展を疑い、緊急の対応が必要です。
再発のリスク
蜂窩織炎は再発しやすい疾患としても知られています。一度蜂窩織炎を発症した部位は、リンパ管のダメージなどにより防御機能が低下しているため、再び感染を起こしやすくなります。
研究によれば、蜂窩織炎を発症した患者の約8-20%が1年以内に再発し、3年以内では約30%が再発するとされています。特に下肢の蜂窩織炎は再発率が高く、リンパ浮腫や慢性静脈不全がある場合は、さらにリスクが上昇します。
再発を繰り返すと、慢性的なリンパ浮腫(象皮症様変化)を来し、さらに感染のリスクが高まるという悪循環に陥ることもあります。
高齢者や基礎疾患を持つ方への影響
蜂窩織炎は誰にでも起こりうる疾患ですが、特に高齢者や基礎疾患を持つ方では重症化しやすく、予後も悪いという特徴があります。
糖尿病患者では、高血糖状態が続くと免疫機能が低下し、感染に対する抵抗力が弱まります。また、糖尿病性神経障害により痛みを感じにくく、傷に気づかないまま感染が進行することもあります。さらに、動脈硬化により血流が悪化していると、抗菌薬が患部に届きにくく、治療効果が得られにくいという問題もあります。
慢性腎臓病患者、肝硬変患者、がん患者、免疫抑制薬やステロイドを使用している患者なども、蜂窩織炎のハイリスクグループです。これらの方々では、通常よりも早期に積極的な治療を開始する必要があります。
蜂窩織炎の症状と経過
蜂窩織炎の症状を正しく理解することは、早期発見につながります。ここでは、典型的な症状と疾患の経過について詳しく説明します。
初期症状
蜂窩織炎の初期症状は、多くの場合、局所の赤み、熱感、腫れ、痛みとして現れます。これらは感染症の基本的な症状である「発赤・熱感・腫脹・疼痛」の4徴候に該当します。
発症初期には、患部に軽い違和感や圧痛を感じることから始まります。見た目には軽度の発赤があり、触ると少し温かく感じる程度かもしれません。この段階では、虫刺されや打撲と区別がつきにくいこともあります。
しかし、蜂窩織炎の場合、症状は時間とともに急速に悪化します。数時間から半日程度で赤みが拡大し、腫れも顕著になってきます。痛みも増強し、ズキズキとした拍動性の痛みを感じるようになります。
進行期の症状
症状が進行すると、局所症状はさらに顕著になります。
患部は鮮やかな赤色から濃い赤色へと変化し、周囲の健康な皮膚との境界が比較的明瞭になります。腫れは著明となり、皮膚が張った状態になります。表面に光沢が出ることもあります。
痛みは持続的で強くなり、患部に触れることが困難になります。下肢の場合は歩行が困難になり、上肢の場合は日常動作に支障をきたします。患部の熱感も強くなり、周囲の皮膚と比べて明らかに温度差を感じます。
この時期には、所属リンパ節(例えば下腿の蜂窩織炎では鼠径リンパ節)の腫脹や圧痛も見られることがあります。リンパ管に沿って赤い筋状の線が見えることもあり、これはリンパ管炎の徴候です。
全身症状の出現
局所症状と並行して、あるいはやや遅れて、全身症状が出現します。
発熱は最も頻繁に見られる全身症状で、多くの場合38度以上の高熱を呈します。発熱に伴い、悪寒や戦慄(ガタガタと震える)を感じることがあります。これは身体が感染と戦うために体温を上げようとする反応です。
全身倦怠感、脱力感、食欲不振なども一般的です。頭痛や関節痛、筋肉痛を伴うこともあります。これらの症状により、日常生活や仕事に大きな支障をきたします。
高齢者や体力の低下した方では、これらの症状が特に顕著に現れ、ベッドから起き上がることも困難になる場合があります。
重症化の兆候
以下のような症状が見られた場合は、重症化の兆候であり、緊急の医療介入が必要です。
皮膚の色調が紫色から黒色に変化する場合、これは組織の壊死を示唆します。水疱(水ぶくれ)が形成される場合も、より深い組織の障害を示唆し、注意が必要です。
患部の感覚が鈍くなったり、しびれを感じたりする場合は、神経へのダメージや深部組織への感染拡大を意味します。異常な悪臭がある場合は、嫌気性菌感染や壊死組織の存在を疑います。
全身症状としては、血圧低下、頻脈(脈が速くなる)、呼吸困難、意識レベルの低下、乏尿(尿の量が減る)などが見られた場合は、敗血症やショック状態に陥っている可能性があり、直ちに救急医療機関を受診する必要があります。
発症しやすい部位
蜂窩織炎は身体のどの部位にも発生しうる疾患ですが、特に頻度が高いのは下肢、特に下腿(膝から足首まで)です。これは、下肢が外傷を受けやすいこと、重力の影響で血液やリンパ液の循環が滞りやすいこと、足白癬(水虫)などの皮膚疾患が多いことなどが理由です。
次いで上肢、特に手や腕にも発生します。顔面に発生する場合もあり、この場合は眼窩蜂窩織炎という合併症のリスクがあるため、特に注意が必要です。
体幹部や臀部に発生することもありますが、四肢に比べると頻度は低くなります。
蜂窩織炎の原因と危険因子
蜂窩織炎を予防するためには、どのような原因や危険因子があるのかを知ることが重要です。
皮膚バリアの破綻
最も基本的な原因は、皮膚のバリア機能が破綻し、細菌の侵入口ができることです。
外傷は明らかな原因です。切り傷、擦り傷、刺し傷などの明らかな傷はもちろん、小さな亀裂や皮膚の乾燥によるひび割れも侵入口となりえます。特に気づきにくい小さな傷が原因となることが多く、「いつの間にか感染していた」というケースも珍しくありません。
虫刺されも重要な原因です。蚊、ブヨ、ダニなどに刺された後、掻きむしることで皮膚に傷ができ、そこから細菌が侵入します。
水虫(足白癬)や湿疹などの皮膚疾患がある場合、持続的に皮膚バリアが障害されているため、蜂窩織炎のリスクが高まります。特に趾間(足の指の間)の水虫は、下肢の蜂窩織炎の重要な危険因子として知られています。
免疫機能の低下
身体の免疫機能が低下していると、細菌が侵入した際に感染が成立しやすくなります。
糖尿病は最も重要な危険因子の一つです。高血糖状態が続くと、白血球の機能が低下し、感染に対する抵抗力が弱まります。日本糖尿病学会の報告によれば、糖尿病患者は非糖尿病患者に比べて蜂窩織炎の発症リスクが2-3倍高いとされています。
悪性腫瘍(がん)やその治療(化学療法、放射線療法)により免疫機能が低下している場合も、感染リスクが高まります。HIV感染症、先天性免疫不全症なども危険因子です。
長期的なステロイド薬の使用や免疫抑制薬(関節リウマチや臓器移植後に使用される薬剤)の使用も、感染リスクを高めます。
リンパ浮腫と静脈不全
リンパ液や血液の循環が悪い状態では、感染に対する防御機能が低下し、蜂窩織炎を発症しやすくなります。
リンパ浮腫は、リンパ管の機能不全により組織にリンパ液が貯留した状態です。がんの手術でリンパ節を切除した後(特に乳がん術後の上肢や婦人科がん術後の下肢)、先天性のリンパ管形成不全、外傷や感染によるリンパ管の損傷などが原因となります。リンパ浮腫がある部位は、蜂窩織炎の再発を繰り返しやすいという特徴があります。
慢性静脈不全、深部静脈血栓症後遺症、下肢静脈瘤なども、下肢の循環不全を引き起こし、蜂窩織炎のリスクを高めます。
肥満
肥満は蜂窩織炎の独立した危険因子です。肥満により皮膚のひだが増え、そこに湿気や汚れが溜まりやすくなります。また、糖尿病や循環不全を合併しやすいことも関係しています。
BMI(体格指数)が30以上の肥満者では、正常体重者に比べて蜂窩織炎の発症リスクが約2倍になるという報告もあります。
その他の危険因子
末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)があると、血流が悪化し、感染に対する抵抗力が低下します。
アルコール依存症や肝硬変も、免疫機能の低下や栄養状態の悪化により、感染リスクを高めます。
長期臥床や下肢の不動により、循環が悪化している状態も危険因子です。
高齢であること自体も、免疫機能の低下、皮膚の脆弱化、基礎疾患の合併などにより、蜂窩織炎のリスク因子となります。
診断方法
蜂窩織炎の診断は、主に臨床症状と診察所見に基づいて行われます。
問診と身体診察
医師はまず、症状の経過を詳しく聞きます。いつから症状が始まったのか、どのように進行してきたのか、痛みや発熱の有無、きっかけとなる外傷や虫刺されの有無などを確認します。
また、既往歴(過去の病気)、現在服用している薬剤、アレルギーの有無、以前の蜂窩織炎の既往なども重要な情報です。
身体診察では、患部の発赤の範囲、腫脹の程度、熱感、圧痛、リンパ節の腫脹などを確認します。蜂窩織炎の特徴的な所見として、境界がやや不明瞭な発赤、圧痛を伴う浮腫性の腫脹、局所の熱感などがあります。
健側(反対側の健康な部位)と比較することで、異常をより明確に把握できます。
血液検査
血液検査は、感染症の程度や全身への影響を評価するために行われます。
白血球数の増加は、細菌感染の存在を示唆します。特に好中球という種類の白血球が増加します。
CRP(C反応性タンパク)や血沈(赤血球沈降速度)などの炎症マーカーも上昇します。これらの値は、感染の重症度や治療効果の判定にも有用です。
血液培養検査は、菌血症(血液中に細菌が入っている状態)の有無を確認するために重要です。全身症状が強い場合や重症例では必ず実施されます。
その他、肝機能、腎機能、電解質、血糖値なども、全身状態の評価や基礎疾患の管理のために測定されます。
画像検査
通常の蜂窩織炎では、画像検査は必須ではありませんが、以下のような場合に実施されます。
深部への感染拡大が疑われる場合、MRI(磁気共鳴画像)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査が有用です。これらの検査により、筋膜や筋肉への感染拡大、膿瘍形成の有無などを評価できます。
超音波検査は、体への負担が少なく、ベッドサイドでも実施可能なため、皮下組織の浮腫、膿瘍、深部静脈血栓症の有無などを評価するのに用いられます。
細菌学的検査
原因菌を特定するための検査も行われることがあります。
皮膚からの細菌培養は、可能であれば実施されますが、蜂窩織炎では表面の培養からは原因菌が検出されにくいという問題があります。膿瘍がある場合は、その内容物を採取して培養します。
血液培養は、前述のように全身症状が強い場合に重要です。陽性率は10-30%程度とされています。
鑑別診断
蜂窩織炎と似た症状を呈する疾患もあり、正確な診断が重要です。
丹毒(たんどく)は、蜂窩織炎よりも表層の真皮に起こる感染症で、境界が明瞭な発赤が特徴です。溶連菌が原因のことが多く、顔面や下腿に好発します。
深部静脈血栓症は、下肢の腫脹と痛みを呈し、蜂窩織炎と間違われることがあります。超音波検査やDダイマー検査で鑑別します。
接触皮膚炎、虫刺症、薬疹なども、発赤と腫脹を呈するため、鑑別が必要です。
痛風発作、偽痛風、関節リウマチの急性増悪なども、関節周囲の発赤と腫脹を呈するため、鑑別診断に挙がります。
治療方法
蜂窩織炎の治療の基本は、抗菌薬による薬物療法です。症状の程度により、外来治療と入院治療を選択します。
抗菌薬治療
蜂窩織炎の治療において、適切な抗菌薬の選択と早期開始が最も重要です。
軽症から中等症の場合、経口抗菌薬による外来治療が可能です。一般的には、溶連菌と黄色ブドウ球菌の両方に効果がある抗菌薬が選択されます。セフェム系抗菌薬(セファレキシン、セフジニルなど)やペニシリン系抗菌薬が第一選択となることが多いです。
ペニシリンアレルギーがある場合は、マクロライド系抗菌薬やキノロン系抗菌薬が選択されます。
治療期間は通常5-14日間で、症状の改善に応じて決定されます。処方された抗菌薬は、症状が改善しても自己判断で中止せず、指示された期間きちんと服用することが重要です。中途半端な治療は、再発や薬剤耐性菌の出現につながる可能性があります。
重症例や全身症状が強い場合は、入院による点滴抗菌薬治療が必要です。より強力な抗菌薬を高用量で投与し、症状の改善を図ります。入院治療では、バイタルサイン(体温、血圧、脈拍など)のモニタリング、水分・栄養管理、基礎疾患の管理なども同時に行われます。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染が疑われる場合や確認された場合は、バンコマイシンやリネゾリドなどの特殊な抗菌薬が使用されます。
安静と患部の挙上
薬物療法と並んで重要なのが、患部の安静と挙上です。
下肢の蜂窩織炎の場合、できるだけ歩行を控え、横になって休むことが推奨されます。安静にすることで、血流やリンパ流が改善し、治癒が促進されます。
患部を心臓より高い位置に保つこと(挙上)も重要です。ベッドで横になる際、下肢の下にクッションや枕を入れて、足を高くします。この姿勢により、浮腫が軽減し、痛みも和らぎます。
仕事や日常生活で患部を使わざるを得ない場合でも、できるだけ休憩時間を取り、患部を挙上する時間を確保することが大切です。
局所の冷却
急性期には、患部の冷却が症状の緩和に役立つことがあります。
清潔なタオルやガーゼに冷水や保冷剤を包み、患部に当てます。ただし、直接氷や保冷剤を当てると凍傷のリスクがあるため、必ず布で包んでから使用します。
冷却により、炎症反応がやや抑えられ、痛みが和らぐ効果があります。ただし、過度の冷却は血流を悪化させる可能性もあるため、適度に行うことが重要です。
疼痛管理
蜂窩織炎の痛みは時に非常に強く、日常生活に大きな支障をきたします。
鎮痛薬としては、アセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が用いられます。これらの薬剤は、痛みを和らげるとともに、発熱や炎症を抑える効果もあります。
ただし、NSAIDsは胃腸障害や腎機能への影響があるため、胃薬と併用したり、腎機能が悪い方では使用を控えたりする必要があります。
痛みが非常に強い場合は、より強力な鎮痛薬が処方されることもあります。
基礎疾患の管理
蜂窩織炎の治療において、基礎疾患の管理も非常に重要です。
糖尿病患者では、血糖コントロールを厳格に行います。高血糖状態では免疫機能が低下し、感染が遷延する(長引く)ため、血糖値を適切な範囲に保つことが治癒を促進します。
浮腫や循環不全がある場合は、利尿薬や循環改善薬の使用も検討されます。
栄養状態が悪い場合は、栄養補給も重要な治療の一つです。タンパク質やビタミンの不足は、創傷治癒を遅らせます。
外科的治療
通常の蜂窩織炎では外科的治療は必要ありませんが、以下のような場合には実施されます。
膿瘍(膿が溜まった状態)が形成されている場合は、切開排膿が必要です。針を刺して膿を吸引したり、皮膚を切開して膿を出したりします。
壊死性筋膜炎に進展した場合は、緊急の外科的デブリドマン(壊死組織の除去)が必要です。広範囲の皮膚・皮下組織・筋膜の切除が行われ、時に複数回の手術が必要となります。
治療効果の判定と経過観察
治療開始後、症状の改善を注意深く観察します。
適切な抗菌薬治療が開始されれば、通常48-72時間以内に症状の改善が見られます。発赤の範囲が縮小する、腫脹が軽減する、痛みが和らぐ、発熱が下がるなどの変化があります。
改善が見られない場合や悪化する場合は、抗菌薬の変更、投与経路の変更(経口から点滴へ)、入院の検討、他の疾患の除外などを行います。
血液検査でも、白血球数やCRPの低下を確認し、治療効果を判定します。
完全に治癒するまでには、通常1-2週間かかります。発赤や腫脹が消失しても、しばらくは色素沈着(茶色いシミ)が残ることがあります。これは徐々に薄くなっていきます。
合併症のリスク
蜂窩織炎は、適切に治療されない場合や重症化した場合、さまざまな合併症を引き起こす可能性があります。
敗血症
最も重篤な合併症が敗血症です。細菌が血液中に入り込み、全身を巡って多臓器に影響を与えます。
敗血症では、全身性炎症反応症候群(SIRS)と呼ばれる状態になり、発熱または低体温、頻脈、頻呼吸、白血球数の異常などが見られます。さらに進行すると、敗血症性ショックという状態になり、血圧が低下し、臓器への血流が不足します。
敗血症性ショックに至ると、急性腎障害、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全などを合併し、死亡率は非常に高くなります。
厚生労働省の報告によれば、敗血症は日本において重要な死因の一つであり、早期発見と早期治療が生命予後を大きく左右します。
蜂窩織炎の膿瘍化
蜂窩織炎が進行すると、組織内に膿が溜まって膿瘍を形成することがあります。
膿瘍ができると、抗菌薬だけでは治療が困難になり、切開排膿などの外科的処置が必要になります。また、膿瘍が大きい場合や深い場所にある場合は、全身麻酔下での手術が必要となることもあります。
壊死性筋膜炎
前述のように、壊死性筋膜炎は最も恐れられる合併症です。
組織が急速に壊死していくため、緊急の外科的治療が必要です。広範囲の組織切除が行われ、場合によっては四肢の切断に至ることもあります。
人工呼吸器管理、血液透析、昇圧薬の使用などの集中治療が必要となり、治療には多額の医療費と長期間の入院を要します。
骨髄炎
蜂窩織炎の感染が深部に及ぶと、骨にまで達して骨髄炎を引き起こすことがあります。
骨髄炎は治療が非常に困難で、長期間(数週間から数ヶ月)の抗菌薬投与が必要です。場合によっては、感染した骨を外科的に切除する必要もあります。
関節炎・腱鞘炎
関節の近くで発症した蜂窩織炎が、関節内に波及すると化膿性関節炎を起こします。
化膿性関節炎は、関節軟骨を破壊し、永続的な関節機能障害を残す可能性があります。緊急の関節穿刺や洗浄が必要です。
同様に、腱鞘に感染が及ぶと化膿性腱鞘炎となり、手指や足趾の機能障害を来すことがあります。
リンパ浮腫
蜂窩織炎を繰り返すと、リンパ管がダメージを受け、慢性的なリンパ浮腫を発症することがあります。
リンパ浮腫は、患肢(患部のある手足)の持続的な腫脹を引き起こし、さらに感染のリスクを高めるという悪循環に陥ります。重症化すると、象皮症と呼ばれる状態になり、皮膚が厚く硬くなり、変形します。
一度発症したリンパ浮腫は完治が困難で、生涯にわたる管理が必要となります。
腎機能障害
感染による全身性炎症や、一部の抗菌薬の副作用により、腎機能が悪化することがあります。
特に、もともと腎機能が低下している方や、糖尿病などの基礎疾患がある方では、注意が必要です。
心血管系合併症
重症感染症は、心臓にも負担をかけます。
心筋炎、心内膜炎、不整脈などの心臓合併症や、深部静脈血栓症、肺塞栓症などの血栓症のリスクも高まります。
予防方法
蜂窩織炎は予防可能な疾患です。特に再発リスクが高い方は、日常生活での予防策が重要です。
皮膚の清潔と保護
最も基本的な予防策は、皮膚を清潔に保ち、傷を作らないことです。
毎日の入浴やシャワーで、皮膚を清潔に保ちます。特に足は念入りに洗い、指の間も丁寧に洗います。洗浄後は、十分に水分を拭き取り、湿気が残らないようにします。
皮膚の乾燥も良くありません。乾燥するとバリア機能が低下し、ひび割れができやすくなります。保湿剤を使用して、皮膚を柔らかく保つことが大切です。
爪は短く切り、深爪にならないように注意します。長い爪は皮膚を傷つける原因になります。
外傷の予防と適切な処置
日常生活での外傷を予防することも重要です。
靴選びに注意し、サイズの合った、足に負担の少ない靴を履きます。新しい靴を長時間履くのは避け、徐々に慣らしていきます。
素足で歩くことは避け、特に屋外では靴や靴下を着用します。
ガーデニングや掃除などの作業時は、手袋を着用して手を保護します。
万一、傷ができた場合は、すぐに流水で洗い流し、消毒します。傷が深い場合や汚れが取れない場合は、医療機関を受診します。
傷にはきれいな絆創膏やガーゼを貼り、清潔を保ちます。傷の周囲に発赤や腫脹が出現したら、早めに医療機関を受診します。
足白癬(水虫)の治療
足白癬は、下肢の蜂窩織炎の重要な危険因子です。
足白癬がある場合は、放置せず、適切に治療します。市販の抗真菌薬でも効果がありますが、症状が強い場合や範囲が広い場合は、皮膚科を受診して処方薬を使用します。
足白癬の治療には、根気が必要です。症状が改善しても、真菌が完全に消失するまで(通常2-3ヶ月)治療を継続することが重要です。
家族に足白癬の人がいる場合、バスマットやスリッパの共用を避け、感染を予防します。
基礎疾患の管理
糖尿病、肥満、循環不全などの基礎疾患がある方は、その管理が蜂窩織炎の予防につながります。
糖尿病患者は、血糖コントロールを良好に保つことが最も重要です。定期的に医療機関を受診し、HbA1c(過去1-2ヶ月の血糖コントロールの指標)を測定し、目標値内に維持します。
肥満の方は、適切な体重管理を行います。バランスの取れた食事と適度な運動により、徐々に減量を目指します。
リンパ浮腫や静脈不全がある方は、弾性ストッキングの着用、患肢の挙上、適度な運動などにより、循環を改善します。
足のケア(フットケア)
特に糖尿病患者やリンパ浮腫患者では、足の観察とケアが非常に重要です。
毎日、足を観察します。鏡を使って足の裏も見ます。発赤、腫脹、傷、水疱、色の変化などがないか確認します。視力が悪い方は、家族に見てもらうのも良いでしょう。
足浴により、皮膚を清潔に保ちます。お湯の温度は38-40度程度のぬるめにします。糖尿病患者は神経障害により温度感覚が鈍くなっていることがあるため、家族に温度を確認してもらうと安全です。
保湿も忘れずに行いますが、指の間には塗らないようにします(湿気が溜まって感染の原因になります)。
禁煙
喫煙は、血管を収縮させ、血流を悪化させます。また、免疫機能にも悪影響を与えます。
蜂窩織炎のリスクを減らすためにも、禁煙が推奨されます。禁煙外来の利用も検討しましょう。
予防的抗菌薬
蜂窩織炎を頻回に繰り返す方(年に3-4回以上)では、予防的に抗菌薬を長期間服用する方法が検討されることがあります。
研究によれば、予防的抗菌薬により再発率を半分程度に減らすことができるとされています。ただし、薬剤耐性菌の出現のリスクもあるため、メリットとデメリットを十分に検討した上で決定します。
受診のタイミング
蜂窩織炎は早期発見・早期治療が重要です。以下のような症状がある場合は、速やかに医療機関を受診してください。
早期受診が推奨される症状
皮膚の発赤、腫脹、熱感、痛みがあり、時間とともに拡大している場合は、蜂窩織炎の可能性があります。特に、発赤の範囲が数時間で明らかに広がっている場合は、早急に受診してください。
38度以上の発熱を伴う場合も、感染が全身に及んでいる可能性があるため、早期受診が必要です。
リンパ管炎(赤い筋状の線)やリンパ節の腫脹が見られる場合も、感染が拡大している徴候です。
緊急受診が必要な症状
以下の症状がある場合は、緊急に医療機関(救急外来)を受診するか、救急車を呼んでください。
高熱(39度以上)と全身状態の悪化(意識がもうろうとする、ぐったりしている)がある場合。
皮膚の色が紫色や黒色に変化している場合。
激しい痛みで我慢できない場合。
呼吸困難、胸痛、動悸などの症状がある場合。
血圧低下(立ちくらみ、めまい)がある場合。
尿の量が著しく減っている場合。
これらは、敗血症や壊死性筋膜炎などの重篤な状態を示唆する症状であり、一刻も早い治療が必要です。
受診すべき診療科
蜂窩織炎が疑われる場合、まずは以下の診療科を受診します。
皮膚科:皮膚の疾患全般を扱うため、蜂窩織炎の診断と治療に精通しています。
内科(一般内科、総合診療科):発熱や全身症状が主な場合、内科での診断・治療も可能です。
外科・形成外科:外傷に伴う場合や、外科的処置が必要な場合。
整形外科:四肢の蜂窩織炎で、骨や関節への影響が疑われる場合。
重症の場合は、入院設備のある病院の救急外来を受診します。
かかりつけ医がいる場合は、まずそこで相談し、必要に応じて専門医を紹介してもらうのも良いでしょう。

まとめ
蜂窩織炎は、皮膚の深い層から皮下組織に細菌感染が起こり、急速に拡大する恐ろしい疾患です。その恐ろしさは、急速な進行、全身への影響、敗血症や壊死性筋膜炎などの重篤な合併症のリスク、そして再発しやすいという特徴にあります。
しかし、蜂窩織炎は早期に発見し、適切に治療すれば、多くの場合、重症化を防ぐことができます。皮膚の発赤、腫脹、熱感、痛みなどの症状に気づいたら、「様子を見よう」と思わず、速やかに医療機関を受診することが大切です。
特に、糖尿病などの基礎疾患がある方、過去に蜂窩織炎を経験した方、リンパ浮腫がある方などは、ハイリスクグループとして、日頃からの予防策を実践し、症状が出た際には迅速に対応することが重要です。
皮膚を清潔に保つ、傷を作らない・傷ができたら適切に処置する、足白癬を治療する、基礎疾患を管理する、毎日足を観察するなど、できることから予防に取り組みましょう。
蜂窩織炎について正しい知識を持ち、自分の身体の変化に敏感になることが、この恐ろしい疾患から身を守る第一歩です。
参考文献
本記事の作成にあたり、以下の信頼できる情報源を参考にしました。
- 日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/
皮膚疾患に関する診療ガイドラインや一般向け情報を提供しています。 - 日本感染症学会
https://www.kansensho.or.jp/
感染症の診断・治療に関する専門的な情報を提供しています。 - 日本糖尿病学会
http://www.jds.or.jp/
糖尿病と感染症の関連について、エビデンスに基づいた情報を提供しています。 - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/
感染症対策や医療安全に関する公的な情報を提供しています。 - 国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/
感染症の疫学情報や最新の研究成果を提供しています。
監修者医師
高桑 康太 医師
略歴
- 2009年 東京大学医学部医学科卒業
- 2009年 東京逓信病院勤務
- 2012年 東京警察病院勤務
- 2012年 東京大学医学部附属病院勤務
- 2019年 当院治療責任者就任
佐藤 昌樹 医師
保有資格
日本整形外科学会整形外科専門医
略歴
- 2010年 筑波大学医学専門学群医学類卒業
- 2012年 東京大学医学部付属病院勤務
- 2012年 東京逓信病院勤務
- 2013年 独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院勤務
- 2015年 国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院勤務を経て当院勤務